学校 その3
3月25日。
ハナの学校生活も2週間目突入だ。
いつも通りキスをされて目覚め、朝食を済ませて教室へ。
そろそろ制服もらえるのかなと期待していたが、ちょっと堅苦しいおばさんという感じのシセ先生は今日もいつも通り落ち着いた深い青い服で紙だけを持って教室にやって来た。
「ハナさん、今日は魔力を量りますので、この鑑定紙に手を置いてください」
そう言って手に持っていたA4サイズほどの紙をハナの前に置く。見た目はただの紙だ。
ハナが手を紙の上に乗せ、特に何もせずに待つ。待つ、待つ……、待っていると文字がじわーっと浮き出てくる。
「えっ……」
紙の様子を眺めていたシセ先生は驚き、言葉を失っている。
「も、もういいですよ」
ぷちフリーズしていたシセ先生は慌ててハナから紙を受け取ると紙を見つめながらまた固まっていた。
「何か問題があったんですか?」
「……知らなくていいことです」
「しょぼーん」
ハナは知らなくていいと言われ、わかりやすくいじけてみた。色々聞いても毎回教えられないと返されるのはハナにとってもつまらない。
シセ先生はそんなハナを気遣う余裕もなく、「後は自習をしていてください」と言い残して教室を出て行ってしまった。
今回使われた鑑定紙はここだけで使われる魔力量と加護のレベルを知ることができる魔道具だった。使用に魔力は必要ない。
ハナの鑑定紙にはハナの魔力と加護を持っていないことを示す0であることが書かれていた。
シセ先生はハナがまだ魔力を扱えていないだけだと思っていた。加護についても白髪でないことからもしやと思っていたが、考えないようにしていた。
だが、鑑定紙によってないことが示された。これからはそれに沿ったことをしなくてはならない。
問題がさらに増えたのだった。
教室に残されたハナはしょうがないのでいつも通り魔力の強化に勤しみつつ、今日は別の事を考えていた。
制服がいつ届くのかわからないのなら、もっと別のことをしてみようということだ。
もしかしたら魔力を真似できたら自分もドアを開くことができるようになるかもしれないと、普段から魔力視で同級生の彼女たちの魔力を少しでも理解しようとしていた。
その甲斐もあって、この1週間で自分以外の魔力について真似することは無理だったが、ある程度理解ができた。
皆は魔力の圧縮をしておらず、体内の魔力を動かすことも意識的にしていない。さらに魔力を見ることすらできないようだった。
ハナにとってこれはチャンスだ。
自分にはできて、他の人にはできていないということは株を上げる絶好のチャンス。ただのマスコットキャラから別の何かへ進化することができる。
こうして『教えてもらうのがダメでもこちらから教えてみよう作戦』は開始された。
「ねえ、みんな。もっと魔力増やしたくない? 増やす方法あるけどやってみる?」
ハナは教室の前に行き、席で自習している全員に語り掛ける。敬語を使わなくても大丈夫そうだと感じ、言葉もいつも通りだ。
皆の視線は本の魔道具からハナへと移る。
「え? ハナさんはその方法を知ってるんです?」
一番に反応したのがレーカだ。レーカが疑問に思うことも当然だ。今のハナは同室で寝起きする役立たずのただのマスコットキャラクターだ。
「ふっふっふ、ぼくは魔力たくさん増やして持ってるからね。みんなとは魔力が違うみたいだけど」
ハナは少しでも自分はすごいぞという雰囲気を醸し出してみる。
「はえ? 魔力が違うって魔族ってこと?」
「魔族なわけないでしょう。魔族だったらここには来れないわ」
ルーやケイトが魔族かどうか話しているが、魔族が何かを知らないハナは答えようもない。
「魔族が何かは知らないけど、ぼくは普通にこの国の村生まれだよ」
まあ転生者ではあるから普通ではないかもだけど――という心の声は言葉には出さない。
兎にも角にも皆聞く気になっている様子なのでハナは話し始める。
「それじゃ、やり方を説明するね」
自分の中の魔力を感じ、動かし、それを小さく圧縮したことを淡々と説明する。
魔力が違うのだから結果に多少は違いがあるかもしれないことも話した。
「で、できそう?」
話を最後まで聞いた4人はそれぞれ自分の中の魔力を感じ、すぐに動かしだした。
しかしレーカやシノンは体全体にに魔力が詰まっており、ハナからは動いているのか分かりづらい。他の2人も少し足りないだけで分かりづらいことに変わりない。
「動かせるようになったらすぐに圧縮してみて。ぎゅーっと縮める感じで。全体じゃなくても少しずつ小分けにして繰り返しても大丈夫だから」
レーカとシノンはすぐに圧縮をはじめ、一気に半分にまで体内の魔力を小さく圧縮することができた。
ルーとケイトも4分の3ほどになり、体の中に余裕ができている。
魔力の違いも関係なくできるようでハナも一安心。
「みんなすごいね。そうやって体の中の魔力をぎゅーって圧縮してから、体の中の魔力を動かすことを続けると一気に魔力って増えるんだよ」
「結構大変ね」
「でもこれ、1日中ずっとやりながら暮らしていると多い時には1か月で魔力が倍に増えるよ」
あくまでハナ自身の場合だが。普通は1日中やれるわけがない。
「え⁉ 倍⁉ すごっ!!」
「それはすごいですね。1日中は私には無理ですけど」
ルーやケイトはそんなことを言いながら笑顔でどんどん動かしている。やる気満々だ。
レーカやシノンもさらに圧縮に挑戦している。
そんな様子を見て、ハナは腰に手を当て胸をそらして、どやぁ。
本格的に自慢するのはみんなの魔力が増えてから。
ハナから聞くのではなく、教えるのならば少しは話ができる。それが何よりの収穫だった。
これでより楽しそうな日々を暮らせそうだ。
「このことは先生たちには内緒にしましょう」
にやにや先の事を考えていたハナにレーカは一つの提案をする。
「え? なんで?」
「これは凄いことなんです。あまり広まっていいことじゃありません。みなさんもよろしいわね」
レーカの言うことに少女たちは「はい」と返事を返す。提案ではなく決定事項っぽい。ハナも少し考えてまあいいかと承諾した。
ここにいる4人に自分がすごいのだとわかってもらえればよかったのだから。
「お姉さま方にはわたしたちの魔力が増えるのを確認してから話しをしましょう」
こうしてハナは少し楽しくなった学校生活を送る。
その裏でより苦しくなっている人たちの存在など知る由もない。




