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学校   その2

 ハナが学校に到着して1週間が経った。

 今日は週末で授業が休みの日だ。


 ハナは今日も同じベッドで寝ている2人の美少女たちのキスで目を覚ます。

 2人とも白髪で金色の目の天使のような同級生。2人とも同じように髪は背中まで伸ばし、目がキリッとした偉そうなのがレーカで、目が細くてナナカさんに雰囲気が近いほうがシノンだ。


「二人ともおはよう」

「おはよう」「ええ、おはよう」


 キスは朝の挨拶らしいが、ハナは言葉でも挨拶をする。

 ここでは同室の子と同じベッドで寝ることも、キスをすることも必要なことだとされている。

 だが、ハナは何故必要なのかも男女でこんな事していて大丈夫なのかもわからない。


 ほとんど何も教えられていない。ただ言われた通りにしているだけだ。


 ハナが目を覚ましたことを確認した2人はベッドから降りると2人とも力ある言葉を唱える。


【浄化】【浄化】


 キラキラした光がベッドや2人の体を包み込む。

 ずぼらな人御用達魔法。何でもかんでも浄化さえしていれば綺麗簡単手間いらず。

 この浄化魔法、クリスも時々使っていたものだ。毎日使わないのは魔力の節約だとか何とか。

 ここでは色々な場面で浄化魔法が惜しみなく使われている。


 レーカとシノンの2人は身だしなみを互いに確認して、ハナにいっしょに部屋を出るように催促する。

 2人は学校の中ではずっと同じ格好だ。昔のアニメに出てくる天使が着ているような真っ白な半袖ワンピースドレス。全体に同じく真っ白な糸で精緻な装飾が成されている。制服らしい。


 ハナはというと来た時のままの格好で今は暮らしている。

 ハナの制服は只今準備中。

 学校側の用意が間に合わなかったようなのだ。


 ハナたちが暮らす学校の寮は木造二階建てのそれほど大きくないものだ。

 生徒用の部屋は必ず1つの部屋を2人以上で使うことになっている。全部で8部屋しかなく、現在使われているのはそのうち3部屋のみだ。

 どの部屋にも大きなベッドと机と椅子が一つづつ、ロッカーが人数分と棚が置いてあるだけのこじんまりした部屋だ。物の質は悪くないが、どれも装飾はほとんどされていない。

 ハナたち3人の部屋は寮の2階。

 部屋は寝るときだけ使うという感じである。


 この学校は全員がこの寮で暮らすことになっているが、生徒は全員合わせてもたった7人。ハナが思っていたよりもかなり人が少ない。

 ハナ以外は全員白髪の女性で、他人にやさしく決して見下すこともなく、黒髪だからとハナをいじめたり馬鹿にする人はいない。

 ここにはハナが考えていた定番の異世界学園生活なんて存在していない。

 だが、他の人とは話すらまともにできない理不尽な状態に置かれている。


 さらに困ったことがある。寮や学校のドアの開閉に魔力が必要なことだ。

 魔力を日常的に使うなんて如何にも異世界っぽい話だが、ハナは開けることができなかった。

 部屋の出入りすら1人ではままならず、かと言ってドアをすべて破壊するわけにもいかない。


 原因はハナの魔力にあった。

 それに気が付いたのはハナが最初の授業を受けようとした日の事だった――


 

 ハナが学校に到着したのは週末18日。

 その次の日に授業を受けるために皆について入った教室で事件は起こった。


 テストが待っていた。

 

 担任の女の先生は最初ハナが村人であるという事も何故だか知らなかった。

 だから最初にハナの格好や何も持っていないことをとがめられたが、村人だということを話すと慌てて謝罪した。


 そしてハナは魔力で文字を書く羽根ペンのようなペンの魔道具を貸してもらい、テストをそのまま行うことになった。


 テストは始まったが、ハナは字が全く読めない。

 とりあえずペンを使ってみようとペンを装備して魔力を流したのだが、何も書くことができない。

 魔力量を変えてみたり、壊れてるのかなと思って回復してみたり、色々頑張ってみたが、線の一本たりとも書くことができなかったのだ。


 そこでようやく自分の魔力が他の人と違うのかもという考えが浮かんだ。村でも自分だけ最初は少なかったし、異世界からの転生者だから違うことがあるのかもしれないと。

 すぐに確かめるため、魔力視で魔力の種類による色分けを行うと他の人は全く同じ色になるのに対して自分だけは異なる色になり、はっきりと魔力の違いを自覚した。


 それでも何とか使おうと、魔力を他の人に合わせるよう念じたりしてみたが、魔力が変わることはなく、最後まで点すら書くことができなかった。



 こうして魔力の違いを自覚したハナは魔力を使うことはほとんど他人任せの生活をしている。自分の魔力が役に立ったないのではどうしようもない。

 今もハナはレーカにドアを開けてもらい部屋を出る。

 階段を降り、一階のカウンターで突っ伏している寮長さんを横目に見つつ、奥の食堂へ。


 食堂は6人掛けのテーブルが4つ置かれている。ここも貴族が使うような豪華さは一切ない。質素な感じである。


 白髪金目の同級生二人組がすでに待っていた。

 2人ともレーカやシノンと同じ格好髪型で、ふんわりしたほうがケイトで元気はつらつな感じがルーだ。


「おはようー」

「おはよう」「おはよ」


 ごく普通の挨拶。キスの朝のあいさつは同じ部屋の人としかしない。

 平日は先輩の緑目のヤイさんと水色目のクノさんが居るのだが、来ていないようだ。


 ここにいる間は必ず同室の子と食べなければならないらしい。

 食事は毎日朝夕2食。調理人によって作られている。

 朝食はふわふわパンと肉と野菜の入ったスープ。食べ終わるとデザートにアーの実だ。夕食も朝食に変わりはない。

 アーの実は朝と晩に半分ずつ食べることになっている。


 生徒は他に3年生の先輩が2人の合わせて7人。奇数なので半個毎回余る。

 アーの実はすぐに食べなければならないらしく、余った分は4つに切り分けて配分される。

 この時、ハナは何故か毎食もらえるうれしい状態が続いていた。やはり甘いものは好きなのだ。


 食事の配膳は自分たちで行い、村との違いは食事の仕方にも表れる。

 ここでの食事はお祈りから始まる。

 ただのお祈りではない。浄化魔法による毒消しを含んだものだ。

 貴族は毒殺に気を付けなければならないが、彼女たちはこうして身を守っている。

 

 もちろんハナはそんなこと関係ない。

 たとえ毒が入っていようと常に口に入った時点で常時発動している魔法によって浄化される。

 だから他の人の祈りを待って食べ始めるタイミングで『いただきます』だ。

 異世界に来た日本人なら『いただきます』と言って食事をする定番は欠かせない。



 食事を終えると食器は魔法できれいにしてから調理場に戻しに行く。

 他の生徒のように光り輝いて魔法が発現することはないが、ハナが装備して自分だと認識すれば浄化によって汚れを綺麗に消すことができる。

 ドアも開くことができなければ光り輝く浄化魔法も使えないと思われていたハナが一瞬で皿を綺麗にするのだから、最初に見せた時に同級生の少女たちを驚かせるのには十分だった。

 ただ、食器を綺麗にすることに驚かれてもあまりうれしくない。


 この後は全員で神様に祈ったり、お茶したり、祈ったり、掃除したり、お風呂で祈ったりして食べて、祈って寝るだけだ。


 平日なら午前中に自習が入るだけで特に変わらない。準備ができていないらしく、まだ授業が始まらない。

 ハナはただ椅子に座って体内で魔力をいつも通り動かしたりするだけだ。


 この学校は学校というよりも修道院とか寺の修行に近い。

 神に祈りをささげる時間がかなり長いが、ハナは皆が祈っている時もやはり魔力の訓練を行っている。もちろん最初に世界平和を適当に祈ることは忘れない。


 一応生活はできているが、学校では制服を着ていない生徒には教えたりしたらいけないらしく、最低限必要なこと以外はほとんど聞けていない。同級生たちに文字を教えてもらうことも、どこまでなら話して良いのか判断もつかないらしくおしゃべりすることもできない。

 それでもハナは少女たちが外から運んできてもらっているお菓子類を食べれることで不満なんてどこかに吹き飛んでしまっている。

 


「制服はいつ届くのかな~」


 ハナは待つ。

 とても美味しい毎日を繰り返しながら……

 

 

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