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学校   その1

 すべての学校には村人に関して共通した決まりがある。

 村から出たすべての村人は学校で村人専任の教師についてもらい、他の生徒たちがすでに知っていること、知らなければならないことを学ぶ。読み書きやお金などの一般常識の勉強である。

 学校の授業は午前中のみだが、村人は午後も教師から学ぶことができる。

 そして他の生徒との差が埋まった時点で晴れて同じ授業を受けることができるようになる。

 学校生活で必要なものはすべて学校側が用意し、卒業後もその費用を村人に請求することはない。

 村人は卒業まで学校の敷地から出ることはできない。

 

 村人は学校を卒業すると町人となる。

 その後、町人になった元村人は村人と関わる仕事につく。

 流通を担う商人。怪我や病気を治療する準回復術師。道路などの整備を行う魔術師などだ。


 村人に関わらない仕事をする選択肢は存在しない。

 村人は村の中で平和に暮らし、それを望まない人たちは村人を支える代わりにより多くの欲望を叶える自由を得る。

 これがこの国の神デンリーの描いた国の形――




 ハナたちは15日間の旅を終え、学校に辿り着いた。


 回復術師学校は平和の国の王都の中心部に位置する。

 学校の敷地は高い白い壁に囲われているため、外から中を窺い知ることはできない。

 たとえ見ることができようと、壁の向こう側にあるのはただの平地である。

 何十年もの昔にはその平地に学校や寮は存在したが、現在は精霊の住処と呼ばれる特殊な空間に移され、人は門を通らなければ中にも外にも移動することができない。


 学校の出入口は1か所のみで、何らかの黒い金属で作られた大門と小門が隣り合って存在し、それぞれの門の前には赤い服の衛兵が1人ずつ立っている。


「回復術師になられるハナ様をお連れしました」


 大門の前、クリスはいつも以上にきっちりした態度で衛兵に話しかける。

 対して衛兵は平凡な服装のハナを見てぷすっと笑いをこらえきれずに息が漏れる。


「クッ、面白い冗談ですね。連れて来れなかったからって、髪や目の色が珍しい平民で代用ですか?」


 衛兵の言葉は悪意がてんこ盛り。


「早く説明を始めなさい」


 クリスは衛兵の言葉なんて気にも留めない。ハナの凄さは自分たちが十分理解している。


「はいはい、わかりましたよ。えー、ここは精霊に選ばれた者だけが入ることを許された学校です。この玉の部分に触れたら開きますよ。アナタ様が本当に回復術師でいらっしゃるのであれば間違いなく開くことでしょうね、ククッ」

「ありがとう、おじさん」


 ハナも華麗にスルーする。

 これぞ異世界の定番イベント。自分を見下してくれる人の登場だ――なんて思ったりしているのだ。

 そして、この門を開くことで驚かれるまでが1セット。

 もし開かなくても力技で何とかなるはずなので問題はないと思っている。


「じゃあ、開けるね」


 ハナはそう言って門に埋め込まれた土色の玉に手を乗せると門が自動でガガガと音を立てながら開いていく。

 この世界には自動扉があるんだなと思いつつ振り返ってみると皆が驚いていた。あれ? とハナは首をかしげる。

 クリスやナナカも戸惑っているのは想定外。


「どうしたの?」

「い、いや、ハナだからな……。うん、きっと大丈夫だ」

「ば、ばかな! こんな事が……」


 うん、あまり大丈夫じゃないと感じたハナは首を傾げたまま待ってみる。


「ハナ、大丈夫だ。気にせず早く行ったほうがいい」

「……うん、わかった。2人とも今までありがとう」


 思っていたのと違いすごい気になる状況ではあるが、後ろを向きながら手を振り中に入っていく。

 ハナが入ってしばらくすると門は自動で閉まっていった。



「何なんだ、あの子どもは。全く魔力がないなんて……、だというのに門は開いた。意味が分からない……」


 衛兵は戸惑っていた。

 大門は手から魔力を吸収し、魔力の量に応じて光の模様が浮かぶようになっている。

 これまで学校に入ったすべての令嬢たちは門を綺麗に輝かせるほどの大きな魔力を持っていた。

 しかしハナは全くの無。赤子にすら劣る。


 学校の大門は精霊が宿っている特別製であり、幸い魔力がなくとも精霊の魔力で開閉される。しかし、大門は自分の魔力で開くものだとしか知られていない。

 強い魔力を持つことが回復術師になる絶対の条件なのだから無理もないが、このことも混乱に拍車をかけていた。


「ハナに魔力があることは確かだ。実際見てきたからな」


 クリスもナナカもハナに魔力があることを確信していた。


 そして2人は思っていた。

 あ、これ、絶対に中で大事になるやつだ――と。

 

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