表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/28

旅立ち   その7

「クリスとナナカさんは先行ってて。大丈夫、すぐ合流するから」


 そう言ってハナは一般門の人混みのほうに走っていった。


「お、おい」


 クリスは呼び止めようとするが、人混みに紛れてもう姿が見えない。

 ハナは気配を消しつつ、人混みの中で透過の魔法を使って透明になったのだ。

 目立たないようにするためにである。


 透明化はクリスやナナカを驚かせるために身に着けた一発芸――いや、魔法だ。

 ハナはこの魔法で自分の首だけ浮いているように見せたり、逆に首だけを消したりして2人を驚かせ楽しんだ。


 透明になったからといって、ルールを破って門をこっそり通るなんてことはしない。


 この国でルールを意図的に破るようなことをすればどんな不利益があるかわからないからだ。商人もクリスも同じような話はしている。


 商人は悪いことをすれば村に居られないと言っていた。

 クリスからはルールを守らなければ回復術師ではなくなる話を聞いている。これは教会からの情報であり広く知られているらしい。


 事実、ハナが村人であり回復術師に選ばれた存在であることで一番厄介な状況だった。

 この国において村人と回復術師以外であればルールを破っても困ることがない場合もある。

 逆に村人や回復術師だとルールを破る事が存在そのものを揺るがす行為になってしまう。

 もしハナが故意にルールを破れば国全体、神が敵に回る。それほどの事なのだ。


 ハナがはじまりの村の村人なのは地球の神への義理立ての意味合いも強いが、約束事を守る性質があったからこそハナはこの国の村人として生まれた。

 魂の段階で選別された存在がこの国の村人や回復術師である。


 そんなことハナが知るわけもないが、ルールを故意に破らず、どうにかできるのがハナである。

 今回は単純な話だ。壁にぶつかったのであれば乗り越えれば良いだけなのだから。



 ハナは人混みから離れると身体強化で数十メートルの高さがある城壁の上に軽々と飛び乗り、端から端まで素早く走り抜ける。

 そして下に人が居ないことを確認し素早く降りる。

 他の人に気付かれないように姿だけでなく気配も可能な限り消し、その華麗な身のこなしは日本に居たとされるニンジャマスターを超えるものである。


 周囲を確認し、無事に周りに気づかれることなく中に入ることができたと確信できたハナは元々入る予定だった門のほうに移動する。


「クリスー、ナナカさん、こっちこっち」


 ハナは門の衛兵に見られないよう気を付けながら、気配を消す魔法を解いてから2人に呼び掛ける。

 クリスとナナカはハナの異常性を理解しており、言われた通り中でハナを待っていた。ハナが問題を起こさないように願いながら……


「何とかなったねー」

「それで、君はどうやってこっち側に?」


 あっけらかんとしたハナにクリスは疑問をぶつける。

 もしかすると門をこっそり通ったんではないかとも考えている。

 そんなことをしてしまっていたらと、不安がよぎる。


「ぴょーん、ぴょーん、しゅた」


 ハナは指を指しながら簡単に説明する。

 さすがにこれはクリスの予想外だった。

 ハナが消えたり走り続けられることは見てきたが、壁の高さは数十メートル。

 足の踏み場もなく、手をかける隙間もないまっすぐな壁を登れるとは思っても居なかった。


「壁の上!? 簡単に言うが、あの高さを飛び超えるなんてこと普通出来ないからな!」

「まぁまぁ、細かいことは気にしない」

「はあ~。壁を飛び越えてはいけないなんて決まりは聞いたことがないから問題はないか……」

「よかったよかった。見られないようにしたから何も問題ないね」


 そう、何も問題がないのだ。

 敵が攻めて来る以外で壁を越えて人が入るなんて不合理なことは想定されていなかった。


 後は学校まで普通に道を進むだけ。旅ももうすぐ終わりだ。


「そういえば、二人は学校に着いたらどうなるの? 中でまた会える?」

「それはできないだろうな。わたしたちは回復術師たちのための部隊だが、わたしやナナカは学校の外だけだ」

「そっかー、少し寂しいね。学校内ならナナカさんとも話せるんじゃと思ったんだけどなー」


 そう言ってハナがナナカのほうを見ると、ナナカは笑顔を返すのだった。

 


 この後、何事もなく白い壁に囲まれた学校の大門に到着した。


 ハナの心はすでにワクワクだ。

 異世界定番イベントを次々思い出しながら、何が起こるのか楽しみで胸いっぱいだ。


 入学早々にツンデレお嬢様に突っかかられての対決。

 威張っている貴族にいじめられている子を助けたり、大会に出場して「貴族でもないのになんて強さだ」や「ありえない」なんて言葉が待っているはず。

 ライバルも現れたり、きっと獣人や魔族や竜人なんかも……。


 様々な過去に読んだ作品を思い出しながら、夢を膨らませる。


 ハナは自分の凄さを見せつけてちやほやされたい。

 誰かを助けてちやほやされたい。

 それがずっと抱き続けている夢だ。


 この世界で強くて美人な女性にちやほやされたいのだ。

 ふわふわした獣人のしっぽでもふもふもしてみたいのだ。


 夢も希望も盛りだくさん。

 現実を知るまでは……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ