旅立ち その6
村を出て10日目。
ハナの知らない所でハナを起点とした国の秩序の崩壊が始まっている。
そんなこと今のハナには関係なく、たったったと道幅が広くなった道を走っていく。
天気は変わらずハナの味方だった。
長い道のりを特に何事もなく走り過ぎていく。
ハナの高い能力を生かした悪戯を時々交えながらとっとっとと先に進む。
いや、大きな変化もあった。
ハナは休憩中に膝枕をしてもらいながら頭を撫でてもらっているのだ。
綺麗なお姉さんに頭を撫でてもらいたいという何気ない会話をしている時に「私も悪くないと思うのだが」というクリスの発言でこうなった。
ハナは神に与えられた誰からも好かれる女の子寄りの美少年だ。
それが頭を撫でている時には猫のように愛らしく、満足そうな笑みを浮かべてくるのだ。
実は可愛いもの好きの女子たちがそれを見逃せるはずがない。
その様子を見てしまったナナカも交代で膝枕をすることになってしまっていた。
しかしハナにとって喜ばしいことばかりではない。
ハナにとってクリスはダメな子ポジションで、撫でられている間はいいのだが、終わると撫でていたのはクリスだもんなーという気分になってしまう。ちょっと残念な気分だ。
王都でのクリスは準回復術師としてはかなり優秀で、それ以外が平凡なだけだ。決して能力が低いわけではない。
今の特殊な状況において世間話の相手以外で特に役に立っていないだけだ。
いや、馬の回復も行っているが、元々馬車や馬がない方が早いので差し引きゼロである。
次にナナカの方はというと、撫でられている時にムズムズするのだ。
撫で方に遠慮や戸惑い、ぎこちなさがあり、気持ちいい撫で方を心得ていない。
心から気持ちよく撫でられることができないでいた。
頭を撫でられる行為はちやほや度の高いものだが、なかなか難しいものである。
村から出発して15日目。
ついにハナたちは王都の前まで辿り着くことができた。
ここまでとても大変な道のりでもなく、道はきれいに整備されており、天気にも恵まれ、特に大きな問題もなかった。
王都は白く高い壁に囲まれており、四方に出入りができる門が設置されている。
門はそれぞれ一般と優先の2つに分かれる。
一般側は人が並んでおり、お金と時間が掛かるが誰でも通ることができる。
優先側は通行料が掛からず、許可証や身分証を見せるだけですぐ通り抜けられる。しかし、貴族や特別な許可を貰った者たちしか通行できない。
ここで問題が起きてしまった。
回復術師の馬車は優先側を通る決まりになっている。
しかし、ハナとクリスが歩いて優先門を通ろうとして止められたのだ。
「この子は回復術師の学校に通うことになっている。通るのに何の問題が?」
「だから、ここは村人をそのまま通すことはできませんって」
「回復術師だぞ」
「馬車に乗っていませんから通せません。決まりですから諦めてください」
クリスと衛兵の押し問答が繰り返される。
クリスやナナカは普通に通れるだろうと考えていたのだが、考えが甘かった。
村人であるがゆえに馬車に乗っていなければ門を通行できなかったのだ。
しかも使用できるのは貴族馬車だけで村人のハナは乗ることができない。
もちろんルールをすぐに変えることも不可能だ。
平和の国の決まりは数年ごとにしか変えられることはない。命に係わる緊急時を除いて。
もし強大なモンスターに襲われれば緊急避難として通ることはできるだろうが、ここは平和そのものだ。
詰んだ。
こうして、ハナたちの旅は終わりを告げた。
ハナは村に引き返し、クリス達も通常任務の失敗により、国を去っていくのであった。
完。
――となってしまえるほどハナは甘くない。




