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旅立ち   その4


「クリス帰って来ませんね」


 ハナはクリスを見つけて持って帰ってくるぐらいすぐできる。

 しかしクリスを信じて待つのも優しさだ。

 そう、クリスを信じて……

 肉を焼き始めた。


 焼いていると匂いにつられて動物がやってくる――クリスだ。


「え!? 何でもう食べる感じになってるんだ!?」

「おかえりー。お肉焼けてるよ」


 ハナは焼けたウサギの心臓をはふはふ食べながらどぞどぞと左手の焼いていた別の内臓の串を差し出す。


「私が頑張って獲物を探している間に……」

「あ、クリスは何か取れた?」


 クリスは「取れてない」と小声でつぶやき、串を受け取る。


「これは何の肉だ?」

「ウサギだよ」


 ハナは横に置いてある毛皮を指差しながら答える。


「ああ、ウサギか。私もウサギを見た時、捕ろうとしたんだ。しかし、あいつらは速すぎる。全然追いつけなかった……。ハナはどうやってこれを?」

「びゅって行って、がしっ、ぽきっだよ」

「ああ、そのびゅっということすら私はできなかったんだな……」


 クリスは「はあー」と溜息をついてハナとナナカを見て、串にささった肉を一口食べて首をかしげる。


「ん? なんだこの肉は? こんなウサギ肉初めてだ」

「ウサギの内臓だからかな。もしかして内臓は食べたらダメだった?」

「いや、聞いたことないな。誰も食べようとしなかっただけだろうな。そうか、内臓か……」


 食べ物に困ることがない平和な国では内臓を食べなければならないことが起こらない。

 そのため多くの内臓はそのまま捨てられる部分であった。

 処理に手間もかかるためそれが普通なのだが、ハナは魔法で一瞬だ。

 お肉を美味しく食べるために不要な臭みの成分も無意識に減らし、お肉屋をすれば繁盛間違いなしの凄い魔法を使っているが、本人すらその凄さは理解できていない。

 

 クリスは串焼きを堪能しつつ、肉を刺している串や肉を置いている皿が気になって訊ねる。


「それにしても、この串や皿はどうしたんだ? 持ってきていたのか?」

「クリスが行ってる間にこうぱぱっと。はい、コップにお水もあるよ」


 そういってハナはクリスにすぐ横に置いてあった水の入ったコップを渡す。

 クリスはそれを受け取るとまじまじと見る。

 どう考えてもこのコップ1つ作るのだって簡単じゃないはずだと思いナナカを見るが、ナナカはうんうんと頷いて返す。串焼きをふにゅふにゅ食べながら。


 クリスは「はあー」とまた深いため息をつき、ハナだからという理由で納得することにした。

 考えても仕方がない。今は食事することに専念しようと。


 こうして3人は普通の肉も串に刺して焼いていき、明日の朝の分の肉を残して串焼きを楽しんだ。


「ねえ、クリスは今まで狩りをどれくらいしたことあったの?」

「狩りは今日が初めてだ。鳥かウサギか、捕るのは簡単だと思ってたんだ」

「あ、見つけても逃げられてばかりだった?」

「そうだな……」


 クリスは自分がこれだけ頑張っても何もできていなくて少し落ち込んでいた。

 ハナはすべて平気でやってのけている。

 ウサギ、コップ、皿や串、火も起こして……うん、これからは何も考えずそれら全部任せよう。

 そう考えると気分も軽くなった。


「さて、ちょっと行って馬に回復魔法かけてくる。毎日回復魔法かけないと走り続けられないからな」

「え? クリスは回復術師だったの!?」

「違う。わたしは準回復術師。 回復魔法は使えるけど、この国で回復術師と名乗れるのは無くなった手足をすぐに治すことができる人のことを言うんだ」

「あ、それ聞いたことある」

「私だって時間さえあれば治すことができるんだぞ」


 話し終わるとクリスとナナカは立ち上がり、共に馬のほうに歩いて行く。

 ナナカが馬を呼ぶとすぐに馬が近づいていく。

 クリスがぶつぶつ呪文を唱え、馬たちがきらきらと光に包まれた。


 ハナの使える魔法と大違い。ハナの魔法は呪文も無ければ光も無く、かなり地味だ。

 他人に使っていることを隠したい場合は良いが、使っても気づいてもらえない可能性がある。

 よりちやほやされるためには他人からもわかりやすい魔法は必要だ。


「ねえ、さっきの魔法どうやるの? 教えて」


 戻って来たクリスにさっそく魔法について尋ねてみるが、答えはノーだ。はい、わかってた。


「すまない、村人に魔法は教えられないんだ。村人に教えることが許されているのは学校内だけだ」

「へえー、思ってたけど学校行かないと村人ってできないことばかりだね」

「必要ないことはさせないようにしているんだ。この国は村人が日々困ることなく暮らせるように考えられているらしい。それを支えるのが他の平民や貴族だということだ」

「それって村人が一番えらいってこと?」

「いや、貴族のほうが上だ」

「よくわからないね」

「貴族が国を治めているから一応上なんだ。村人が偉いってことは町では言うなよ。悪い貴族の耳に入ると大変なことになる」

「この国に悪い人なんて居たの?」

「そりゃいるさ。貴族同士なら裏で殺し合いもできるからな。ただの平民を殺してしまったらこの国で暮らせなくなるから嫌がらせ止まりだろうけどな。村人は嫌がらせすらされないから安全だけど、学校を卒業した時点で町人になるからやめたほうがいい」


 異世界と言えばブラックな貴族が出てくるイメージはあったが、ここ平和の国も例外ではなく、かなり物騒だった。


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