村 その9
年が明け2月17日。
ついに職業鑑定の日である。
この国の職業鑑定は1月から始まる。
鑑定に必要な道具の数には限りがあり、王都に近いところから順に行われていく。
そして、はじまりの村が一番最後の場所となる。
今年も幌馬車がやってきて、鑑定が始まる。
ハナと同じ年の生まれは3人。
先に2人の子どもたちが鑑定を済ませる。2人とも守り人で普通だ。
ハナの番になり、馬車の中に入り若い商人に言われるまま水晶に触れる。
ハナ側からは何も見えないが、商人側からは浮かび上がった文字が見える。
「え! これって……」
「何て書いてあるの?」
驚いている商人に対して、ハナは冷静だ。
「回復術師だよ。術師ってあると王都の学校に行くことになるんだ」
「よし、計画通り」
ハナはニヤリとどす黒い笑みを浮かべる。ただの様式美だ。
「それにしても回復術師になる村人なんて居るんだね」
「回復術師ってどんなの? 魔術師と何が違うの?」
「治癒術師でも治せない無くなってしまった手や足の再生ができるってことぐらいしか知らないよ」
それならハナにも心当たりがあった。
ハナは自分に限れば何でも治すことができる。
指が取れても、足がちぎれても恐らく数秒で治せるだろう。
首が取れたとしてもたぶん治せるんじゃないかと思っている。
うんうんと1人で勝手に納得する。
「じゃあ、これから王都に向かえばいいの?」
「いや、迎えが来るはずだよ。村から出る村人には必ず付き添いの人が来てくれるんだ。その人と一緒に馬車で王都まで行くことになるよ。この玉は王都に知らせる機能があるからね」
ハナが魔力視で水晶を見てみると、水晶と台の両方に魔力が見える。
前に聞いた精霊が入っているかはわからないが、たくさん魔力が入っていることだけはわかる。
「迎えの人っていつ来るの?」
「うーん、王都から来るだろうから来月入ってすぐじゃないかな。3月から学校は始まるけど、遠くからやってくる平民が困らないようになっているらしいよ」
「ふーん」
ハナは馬車で半月ほどの距離なら思っていたよりも近いと感じる。
何も考えずに全力で走ったら1日でつくかもしれない距離だ。
途中で人をひき殺したり、色々破壊したりを考慮しなければだが。
「それにしても王都か……。町の学校だったらまたすぐ会えるって思ったんだけど、会えなくなるね」
「ずっと会えなくなるわけじゃないんだから、気にしない」
「だね」
何だかんだ毎月色々と話してると別れが少し寂しくなるのだろう。
ハナにとっては安全に走って2、3日もあれば戻ってこれる程度の事なので特に気にもしていない。
「じゃあ、ハナくん元気でね」
「おじさんも元気でね」
「だ、か、ら、おにいさん!」
最後はいつものやり取り。
これもしばらくは行えない。
ハナが手を振って馬車から降りると、待っていた2人にどうだったのか尋ねられる。
もちろん王都に行くということを自慢げに話した。
少し残念そうに「村からすぐ出ていくの?」と聞かれると、これが冒険の出発だという気分になってくる。
村でのちやほや具合も悪くないと感じていたが、求めているのはもっと上だ。
そう、もうすぐ訪れる学園ハーレムでちやほやされるのだ。
ハナは2人と共に丘へ行き、村から出ることを知らせて回る。
村の人々はハナの御業を見れなくなることを悲しみ、別れを惜しんでいる。
そしてハナは自分の家族のもとに行き、今日だけは丘でゆっくりまどろんで過ごすことにした。
美人の母親に頭を撫でてもらいながらのんびりする。
村を出たら頭を撫でてくれるのが美人のお姉さんに変わると思うとにやにやが止まらない――
こうして、後は出発を待つのみとなった。
強くなるほうも順調だ。
ハナはこれまでの修行によってさらにすごいことになっていた。
まずは装備品の回復や状態の維持だ。
装備品も自分だという認識をすることで、魔法の対象にできるようになった。
これによってナイフの切れ味が鈍ることもない。
安物の刃物でゴブリン切り放題だって可能だ。
服や靴も破れることなく、きれいな状態で使い続けることができる。
さらに回復していれば元気で居られ、呼吸をしなくても平気になった。
これで水の中でも活動できる。
火の中すらも燃える速度以上の回復が可能なため、問題ない。
遠距離攻撃も練習している。
落ちている物を拾って投げるだけだが、威力は申し分ない。
もちろんすべてが順調とはいかず、精霊ヒカリは相変わらず出てきては魔力を持って消えるだけ。
ファイアーボールも出すことはできない。
荷物の準備もできている。
この日までにリュックや新しい緑色の服、靴、ベルト、タオル、小さい塩の袋、ナイフ、小さな鍋を用意してもらっていた。
ただ学校に行くだけなのに冒険する気満々だ。
物語に出てくるチート主人公並な力はすでに得た。
後は王都に向かう途中で凶悪なモンスターに襲われている美少女を助けるだけでちやほや確定だ。
そんなわくわくなことを考えたりするハナだが世の中甘くない。
ここは平和の国。
神が作った理想郷。
平和という脅威がすぐそこまで迫っていた。




