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村 その8

 10月10日。

『アーの実」は色変わりの月の初めまでにすべて落ちて、また新たに実をつける。

 10月の実は薄い黄色に色づく。

 実はわずか数日で実り、透明になる実は10日前後で普通の目では見えなくなり、精霊に変わる。


 ハナは今日もいつも通り精霊を操って様々な模様を空に描き、終わるとリボンをさっさと片付ける。

 そこに村の子どもたちがやってきてハナをちやほや。

「ししょー、ししょー」とハナを呼ぶ5歳の男の子と女の子。弟子1号2号だ。

 リボンを時々いっしょに振って遊んであげている。

 ハナは子どもたちにも人気なのだ。

 どやぁ。


 そんないつもと変わらないことが繰り返されていたが、今日は少し違った。

 いつもならリボンを片付けると精霊たちは広がるように散っていってしまうのだが、一つの真っ白い光がハナの周りをまわり続けていた。


(来た!)


 ハナは 毎日リボンを振るのを欠かさない。

 いつか精霊が心を開いてくれることを期待していたからだ。

 だんだん精霊を操るのが楽しくなって遊んでいたわけでは決してない。

 村人にちやほやされたいからリボンを振っていたわけでもない。


 異世界でちやほやされるってことは空にお絵かきすることでされるようなものではなく、もっと危険が危ない的なアレな展開を打破することで美少女たちにされるものだ。

 もしくは重病の家族を助けようとする美少女に手を貸して、その家族を助けてされるものだ。


 それはともかく、ようやく訪れたのであろう精霊との契約のチャンスだ。

 ハナは前々から考えていた言葉を目の前の精霊に語りかける。


「ボクと契約して、契約精霊になってよ」


 この世界でも契約なんてものがあるのかどうかは知らないが、それっぽい勧誘文句だ。


「今なら僕の魔力の増量キャンペーン中!」


 精霊との契約は魔力でするのが定番だ。

 魔力を通常よりも増量すると言っているのだから決まりだろう。

 光はくるくると回って、すぽっとハナの胸の中に入って消えてしまった。


「あ、入った。これって成功?」


 自分の中で精霊が消えた感じがあった。

 ちょっと待ってみると、ひょこっと精霊が体内で現れて、ハナの魔力をほんの僅かだけ持ってまた消えてしまった。

 ハナの魂側とは違う、さらに別の空間にいるみたいだ。

 ハナは「うーん」と少し悩んだが、とりあえず上手くいったのだと思うことにした。


「とりあえず、名前を付けとくね。君は『ヒカリ』だ」


 精霊との契約と言えば名前を付けるのもお約束だろう。

 精霊は時々体内で現れてはハナの魔力をちょっとだけもらってまた消えることを繰り返していた。




 精霊ヒカリはある神によってギフトが与えられた転生者であった。

 ギフトとはスキルとそれに付随ふずいする共通の魔力、共通言語理解などが含まれた恩恵である。

 通常の精霊はハナの魔力をまったく使えない。かろうじて上位の精霊なら自分の魔力に変換が可能だ。

 しかし、ヒカリは魔力変換スキルによって他の魔力も自分の魔力に変換できる。

 ハナのことを見ていた神の一柱が手を回したのだ。手助けになるように。

 この世界の敵にならないように。


 神は生きている者に直接何かをすることは許されない。

 たまたま石板に文字を書いたら人に読まれてしまったり、たまたました独り言を夢の中で聞かれたりすることはままあるのだが。

 今回もたまたま死んだ魂を精霊に転生させただけだ。


 ハナは悪事を働くこともなくただ暮らしているだけなので、この国の神で世界の主神であるデンリーはハナのことは気にもしていない。

 神々にとって、この世界の脅威である魔王のほうがもっぱらの懸念事項であった。

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