⑧見えない僕
【乗車から10秒】
今の僕がいったい何に向かって走っていっているのか正直わからないし、前なんて何にも見えないし、どうせ人生は高速で走り抜けて結局は最初に戻る、このジェットコースターのようなものなのだろう。
【乗車から30秒】
僕の人生が落ち着く瞬間が全く見えなくて、人生は登って登ってやっと高い場所にたどり着いたと思ったら急に下へと真っ逆さまに落ちていくもので、それと同じでこのジェットコースターも、もうすぐ急降下するところだ。
【乗車から50秒】
一人で好きでもない絶叫マシンに乗っているなんて、なんて寂しい人間なんだろう、なんて可哀想な人間なんだろう、そもそもなんで余計に苦しくなる絶叫マシンに乗っているんだろう、そんなことを思っていたら涙で前が見えなくなった。
【乗車から70秒】
雨が打ち付け始めたこのジェットコースターは涙を流していて、今の僕も同じく大粒の涙を流していて、涙で押し流されたコンタクトレンズが風の力を借りて宙を舞い、いつもひとりぼっちの僕には出来ない共同作業がここでは生まれていた。
【乗車から90秒】
明日は見えなかったが、目だけはずっとはっきりくっきり見えていたのに、今はコンタクトレンズが無くなってしまったせいで、物理的にも精神的にも全く何も見えない状態になってしまった。
【乗車から120秒】
元々興味はなかったのだが、一回転する場所があったり、記念撮影をしてくれる場所が走行中にあると聞いていて、少しはどんなものなのか、少しはどう感じるのかを知りたかったが、何も見えなくなると、それすら全く分からない。
【乗車から150秒】
予備のコンタクトもなければ、鞄に眼鏡も入れていなくて、元の位置にジェットコースターが戻ってきた今、見えているのは真っ暗な未来とこれから待ち受ける恐怖の時間だけだ。