③ガラガラの私
【乗車から10秒】
今は絶叫マシンに乗っているが、絶叫マシンが大好きで、絶叫マシンはその名の通り絶叫しなければ絶叫マシンとは呼ばないし、絶叫してこその絶叫マシンなのに、絶叫するだけの喉の調子を今はちょうど持ち合わせていない。
【乗車から30秒】
昨日はカラオケマシンで大声で歌いまくってしまい、喉を酷使してしまい、絶叫が出来ない状態へと成り下がってしまっていて、カラオケマシンでは絶叫するくらい大きな声を出したからカラオケマシンも絶叫するマシンという意味では絶叫マシンなのだが、本物の絶叫マシンで絶叫しないと意味がない。
【乗車から50秒】
スピードが上がってきて、鼓動のスピードも上がってきて、スリルの量も上がってきて、テンションも上がってきて、叫びたい感情も喉元辺りに上がってきて、太陽も段々と上がってきて、自然と両手も上に上がってきたというのに絶叫が出来ない。
【乗車から70秒】
ガラガラガラガラという、低くてザラついていて聞いている人が不快感を抱くようなノイズ気味の音色の声しか出なくて、ガタガタガタガタというコースターの走行音とザワザワザワザワというコースターが風を切る音に消されて、叫んでも叫んでも、もう叫んでいないのと一緒だ。
【乗車から90秒】
もうすぐ一回転する場所に差し掛かかるのだが、一回転のちょうど真ん中辺りでこのガラガラ声が変わるんじゃないか、あそこを通り抜ければ何か魔法がかかって喉も良くなるんじゃないか、なんてことを思いながらガラガラ声をずっと垂れ流していた。
【乗車から120秒】
楽しいは楽しいけど最上級の楽しさではなくて、このガラガラ声をボイスチェンジャーに通したら、サラサラ声に変わるのかザラザラ感が残るのか一体どうなるのか、みたいなことを考えていたら、ポケットに超小型のボイスチェンジャーとのど飴が入っていることに気づいたのだが、もうすでに遅し、終着はすぐ目の前にあった。
【乗車から150秒】
後ろの人がものすごい大声で叫んでいたので、自分が叫んでいる感覚になれなくもなかったのだが、私は女性で、普段は意外と高い声を発していて、でも後ろから聴こえてくる声は男性の野太い声だったから少々無理があって、不完全燃焼で終わった。