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カンニング 前編

短編書く気分でしたので、ほんと本編関係ない

「カンニングがあったらしい」


 学期末になれば決して逃れることの出来ないものがやってくる。

 どれだけ授業を休もうとも、不良であろうとも、病気であろうとも……優秀であろうとも。


 穏やかであろうともそうでなくとも、学生生活を送るならば、これだけは最低限逃げ出してはいけない。


 一昨日から三日間かけて行われた期末試験である。

 最終日、今日の午前中まで行われたそれがようやく終わり、僕は部室で自己採点がてら寛いでいた。


 先輩まだかなまだかなーと忠犬よろしく僕は大人しく待っていたのだが、どうやら先輩は僕に対して用事があったようだ。

 部室に入って開口一番、今日の校内速報ニュースを教えてくれた。


「カンニング、ですか。隣の席の答案用紙を覗いた生徒でもいたんです?」


 あれって、それなりの視力が無いと出来ない芸当だと僕は思う。

 答案用紙に書いてある文字って意外と小さい上に、手書きの文字は癖があるから読みづらい。それを一瞬のうちに読み取るなど、しかも自分の探している箇所を覗き見るなど、よほど動体視力が優れ準備を怠らなかった者だけが出来る所業である。

 ……そんな準備している暇があるなら勉強しろという話だけど。というか、別の何かに役立てられるはずだ。


 ともあれ、そんなある意味で優秀な生徒の存在を予期していた僕だが、その期待は打ち切られた。


「いいや、覗き見たのは答案用紙では無いよ。準備された用紙だ。所謂、カンニングペーパーというやつだね」

「カンニング……ペーパー……」


 それもまた、カンニングの方法の1つか。

 難易度的にはどちらが容易なのだろう。


 他人の答案を盗み見るということは、完成された答えを知ることが出来るということ。……相手の生徒の学力の良し悪しはあろうが、それでも、問題に対する解答がそこには記されている。


 カンニングペーパーは、試験に対して予め予想しておいた解答をメモしておくことであり、答案そのものに対応しているわけではない。求められる答えに対応していないメモを書き写している可能性だってあるし、省いてしまった箇所が解答になり得ることだってある。言ってしまえば、作ったカンニングペーパーが無駄になってしまう可能性もあるのだ。


「まあ方法はどうあれ、カンニングをした生徒が今回の試験で出たわけですね」

「ああ。怪異に関係しているわけでは無いがね、今日の議題はこのカンニングについてだ」


 ……?

 議題、とは?


 カンニングの件に僕は何も関わっていないからお説教をされる謂れは無い。何しろ、先輩に言われて今知ったといった程度だ。情報なんて無いに等しい。


 カンニングの善悪を問われるとか、そういった道徳的なものでもないだろう。

 そんなことを言ったら、僕も先輩も正さなければならないものはある。人間、正しさだけでは何も出来やしない。


 怪異についてであれば、これまで経験した『ぐうたらばあちゃん』や『100m男』のように、興味本位から現場に赴いて実際に体験してみるという先輩の悪癖もあるのだが、怪異絡みではないと先輩は断言している。


 ならば、何について話すのだろうか。


「カンニングは行われた。だけど1つ分かっていないことがある」

「犯人ですか?」


 いや、違うか。

 万引きや覆面強盗と違ってカンニングは奪われるものもない。

 痴漢と同様に現行犯逮捕によって犯人は捕まるものだ。


 カンニングに限って犯人捜しは必要ない。


「いいや、違う。分かっていないのは犯人ではなく、方法なんだ」

「方法って……それはさっき先輩が自分で言っていたじゃないですか。メモの紙を持ち込む、カンニングペーパーだって」

「そう、カンニングペーパー……紙を持ち込んだのだ。試験会場にね。まあそんな大それた場所ではなく教室になのだけれど。君は、カンニングペーパーと聞けば、そこには何が書いてあると思う?」

「それは……」


 カンニングしたいものを書くしかないだろう。

 予想される解答をメモする以外に書くものはない。


 僕の答えを聞くと先輩は、


「ところが違うのさ」


 と、首を横に振った。

 その動作につられて揺れる黒髪が美しい。


「現行犯で見つかった生徒はいた。何やら手元の紙を覗き込んでいるのを教師が発見したのさ。だけどね、話はここからが問題なんだ」

「……? もう解決したような感じがしますけどね」

「メモには何も書かれていなかった。見つかった際に慌てて握ってしまったのか、くしゃくしゃに丸め込まれたメモは白紙だったんだ」





 先輩によれば、犯人は分かっているし、すでに掴まって校長室でお説教されているらしい。

 だが、その方法……白紙のメモでどのようにカンニングを行ったのかはまだ分かっていない。犯人は口を閉ざしているようで、このままでは白紙の紙ではカンニングは出来ないと証拠があるにも関わらず証拠不十分というおかしな状況になってしまい、犯人は解放されてしまうらしい。

 

 そして、それだけではない。

 犯人は1人ではない。

 複数人いた。


「同様に他の教室でも、同じことが起こったんだ。教師に見つかったカンニング行為。しかしそこには白紙のメモ。それは私達の学年だけだったのだけれどね、急遽試験を一教科分、

中止して持ち物検査をすることになった」

「なんだか大事になってきましたね……」


 いや、将来を決めるために必要な試験だ。

 それを蔑ろに……違うか。重要と分かっているからこそ不正をして乗り越えようとした者がいた。

 それを咎めるためには、そしてそれが何人もいるならば、大事にしなければならないのだろう。


「まあ事情は分かりました。白紙のカンニングペーパー。このままでは不正をした複数人の生徒が無罪放免となってしまう。それを危惧した教師陣が何とかその方法を暴きたいと言うのも」


 持ち物検査をしたのも、本物のカンニングペーパーが出て来ることを期待していたからであろう。

 白紙である理由を、囮の偽物であるからと判断したから、本物を見つけ、絶対的な証拠を突き付けてやろうと思ったのだろう。


「それで、持ち物検査で何か見つかったんですか? 本物のカンニングペーパーとかが」

「いいや……それらしきものは見つからなかったらしい。だが、それで暴走した教師たちは、あろうことか白紙の小さな紙を持っていた生徒全てを対象として犯人同様に扱うと決めたらしい」

「……は?」

「今、白紙の紙……ルーズリーフやノートの切れ端を鞄に入れていた生徒全てを校長室あるいは職員室にて待機させているのだよ」

「それは……」


 それは、いくらなんでも横暴過ぎるだろう。

 試験からの解放感、と思いきや一転して犯人扱いだ。

 もしかしたら、未だ見つかっていない犯人もその中にいるかもしれない。

 だけど、本当に無実な人も犯人扱いされているかもしれない。


「ああ、だから先輩は探偵役として名乗りを上げたんですね」


 無実の人を救うために。

 罰せられるべき人を罰するために。


「いいや、違う。……厳密にはね」

「厳密には?」

「月織君っているだろう?」


 いるだろうと言われても心当たりがない。


「ええと……誰でしたっけ」

「……この部活を存続するにあたって名前を貸してくれた者の1人だよ。君が集めたのではなかったっけ?」

「ああ、そうでした。いましたね月織君」


 いた。

 影が薄くてそういえば、といった程度だけど。

 月織君と言ったけど、先輩と同じ学年だから月織先輩が正しいかな……。


「その月織先輩がどうしたんです?」

「彼もその容疑者の1人なのだよ。一応、私が部長を務める部活の部員であるからね。教師の1人から彼がどのような人物なのか問われたのだ。まあ私も彼のパーソナリティはそこまで詳しくないから当たり障りのないことを言っただけだが」


 それでその時に今回のカンニング事件の詳細を教師から聞いてきたってわけか。


「先輩は、月織先輩は無実だと信じているんですか?」

「信じているとも。さすがに人間の良し悪しくらいは分かるよ。道端の小石を蹴るくらいのことはしても、その小石を他人に当てるような人間ではない。少なくとも今回の事件に関しては、彼は無実だ」


 ならば、僕達が考えなくてはいけないことは月織先輩の無実の証明というやつか。


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