ガトー・アンヴィジブル3
カッコつけて背負った手前ヘロヘロになってしまうのは絶対に避けたかったが、幸いにして目的地はすぐだった。
巨大な石造りの塔が目前に見えてくる。
「わ、凄いですね。何でしょうこれ?」
「ケルンって言う、いわゆる石標みたいなものだよ」
「あとちょっとで頂上ですよって言うのを知らせるための目印だったり、山で事故にあった人の為の慰霊塔だったりする」
「慰霊ですか……」
「一個積んでみる?」
勝手に手を加えて良いのかどうかは定かでないが、新設したりしなければ問題ないだろう。
おんぶを降ろされたしずくは神妙な顔をして小さな石を拾う。
多分元々ケルンの一部だったものだろう。しずくらしい。それを岩と岩の隙間にそっと差し込んだ。
俺も後追いで神妙な顔をして同じ事をする。
「もうちょっと歩くと奥宮っていう小さな境内があるんだ。それが山頂だからそこまでは頑張ろうか」
「はい」
「足は大丈夫そう?」
しずくは爪先立ちして足首を動かして見たりして確認をする。
「痛くはないです。気のせいだったかも」
山間に送信所が併設されたこの山は、整備のためケルンから山頂までの区間がアスファルトで舗装されている。
談笑しながら特に問題無くその区間を歩き切ると、山頂へと到着した。
境内は本当に小さく、子供達の作るかまくらみたいな大きさだった。賽銭箱も置いていない。
とりあえず手を合わせるぐらいはして、腕時計で時間を確認するとコースレコードを30分ほど超過したぐらいのタイムで登りきった事がわかった。
非常に優秀である。
……でも途中で背負った区間があったな。
つらい目に合わせる予定だったのに甘やかしがひどい。
それも彼女の楽しそうな笑顔を見ていると「まぁ良いかな」となってしまうのだ。
適当な岩肌の上に厚手のレジャーマットを敷き、二人で座る。すぐ脇の草むらに鈴のような形をした綺麗な青い花が咲いていた。
「わぁ、綺麗ですね。押し花にしたらすごく良さそうです」
しずくが猫みたいに体を乗り出して花に近づいた。
「残念だけど、山の植物って採取はしちゃダメなものが多いんだ」
「それにその花はトリカブトって言ってね、猛毒を持つ花だから気をつけないと」
なにも言わずに体を引っ込める。
「花弁にはそんなに毒は無いよ。だけど根は危ない。特に新芽は食べられる野草に似ているからうっかり口にしないように気をつけようね」
「……肝に命じておきます」
「でも、仮に山でお腹が減っちゃったらどうすれば良いのでしょう? きのことかは大丈夫でしょうか?」
「きのこはもっと素人には見分けがつかない。可能であれば事前に持ち込んだ分だけで済ませた方が安全だね」
「今日は沢山持ち込んでいるから心配しなくても大丈夫。山で作るご飯は下で作るより美味しいよ」
そうして、準備に取り掛かった。
今までの半分~1/3くらいの分量で区切り、更新ペースを上げていきます