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幻界創世記  作者: 冬泉
第一章「出会いは唐突に」
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SCENE-06◆「問えば応える」

屋上で葵は翔にある提案をする・・・

■UNO学院/学部棟/屋上


 放課後。多くの生徒は既に下校しており、校内は閑散としていた。クラブ活動の練習に勤しむ運動部の部員たちの喧騒が、グラウンド方面から多少聞こえてくる。


 翔は屋上への階段を足早に登った。彰に対しては平静に振舞ってはいたが、内心、動悸が高まるのを感じていた。“いなかったらどうしょう”とか、“何を話せばいいんだろう?”とか、彰に知られたら笑い飛ばされそうなことを密かに考えてしまっていた。


“所詮、小心者なんだよな・・・僕は”


 自嘲吟味に思っていると、早くも屋上に着いてしまった。『開放厳禁』と書いてある鉄の扉を、恐る恐る開けてみる。


“いた!”


 屋上の一番奥に、探していた小柄な姿が見えた。翔は大きく息を吸って気持ちを落ち着かせると、意を決して葵のところに歩いていった。葵は昼間と同じく、フェンスに背を預けている。


「神和姫先輩。すみません、待たせてしまいましたか?」

「今、来たところ」

「そうですか・・・」


 それっきり、会話が途絶えてしまう。葵は黙って足下を見ているだけだ。翔の頭の中は真っ白で、何の話題も浮かんでこない。いきなりの窮地(笑)に、翔は話をどう進めたものかと考えあぐねた。だが。


「三奈瀬くん」

「は、はい!」

「小説って媒体、どう思う?」


“またいきなりの質問だ”


 翔は、これが葵のやり方なのだろうと思った。


「自己表現の一手段です。創作物の優劣を度外視すれば、誰でも活用できる創作媒体だと。」

「それは・・・自己完結ではない?」

「どうしてですか?」

「完結された創作物が、作者以外の誰の役に立つというの?」

「作者の考え方や感じ方に共鳴できる人には、有益だと思いますけど」

「そのまま受け入れるということね・・・作者の世界を」

「えぇ、そうですね」

「・・・」


 葵は瞳を閉じた。黄昏時は移り変わりが早く、だんだんと日が翳っていく。夕焼け色に染まった雲が、西の地平に沈まんとしている夕陽をしばし隠している。


「先輩・・・」

「・・・人の感じ方は千差万別。それを個性と呼ぶ。他の個性の追体験で、人は本当に満足するの?」

「え?」

「安心感・・・それが、求められているものなの?」

「・・・」


 翔は言葉に詰まった。葵が聞いているようなことを、これまで疑問に思わなかったからだった。


「良くは判りません。これまで、そんな風に考えたことがありませんでしたから」

「今は?」

「正直、そう言う考え方に興味を覚えています」

「そう・・・」


 フェンスから躯を離して数歩の距離を詰めると、葵は翔の顔を覗き込んだ。褐色の深い瞳に見つめられて、翔の体温が確実に二三度は上昇する。


「・・・あの・・・」

「・・・」

「・・・せ、先輩。」

「興味があるのなら・・・」

「え?」

「・・・教えてあげるわ」

「・・・お、ね、がいします」


 瞳の奥の輝きが、翔を金縛りにしたかのようだった。漸くそれだけの言葉を搾り出すと、大きく息を付く。そんな翔をみて、葵はちょっと微笑みを浮かべた。


「・・・付いて来てくれる?」

「は、はい」



 ここまでは、翔も比較的順調にきていますが、次回は急転直下となります。ご期待下さい。

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