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幻界創世記  作者: 冬泉
第五章「聖剣の影」
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SCENE#6◆「論理の帰結」

■この世の彼方の島/神殿/入り口前


 パチパチ、と焚き火の木がはぜる。周囲の壁に、焚き火を囲む三人の影が映る。

 翔達は女神の神殿の入り口にキャンプを張り、リュオンが釣ってきた魚を焼いている最中だった。

 ふむ、と低く唸って、リュオンは串に刺した魚を焚き火に向けて反転させていく。


「よぅし、言い焼き加減だ。今日は旨い焼き魚だぞ」

「今日も、と言った方が正しいんじゃないですか?」

「ここは絶海の孤島だからな、ショウ。捕れる物ったら、魚ぐらいしかないのさ」


 焚き火に追加の木をくべながら、リュオンは肩を竦めた。

 膝を抱えて焚き火を眺めていた翔は、ふと思いついてリュオンに聞いた。


「ここに来る人って、普通はいないのですか?」

「簡単に来られる場所じゃないからな。そもそも、来ようと思っても、意のままにはならない場所だ。おっ、そろそろ焼けたか」


 良い焼き具合の串を見繕うと、リュオンは葵と翔に渡す。

 自分も一本取ると、豪快に食べ始めた。


「旨いな。やっぱり魚は焼くに限る」

「・・・リュオンさんの話した前提から推察すると――僕たちがここに来られたのも、偶然ではなく必然と言う事だと思いますが」

「ショウ。食ってる時に難しい事を考えると、消化に悪いぞ」

「リュオンさんってファンタシィ世界の人ですよね。何でそんな現代健康学みたいな事を知っているんですか?」

「オレはあちこち行ってるからな。色んな経験を積んでるんだよ」

「それって、僕たちの世界に来るのは今回が初めてじゃないって事ですか?」

「まぁな。前に何度か行ってる。ショウ達の世界は魔導の欠片も無いが、その代わりに科学が発達している。その両極端なところが珍しいな」

「科学の発達した世界が珍しい・・・」

「そうだ。もっとも、オレの知る限りと付け加えさせて貰おう。プライム・マテリアル(物質界)にある世界など、一体幾つあるのか不明だからな」


 パチパチと薪が爆ぜる。リュオンは少し薪を足した。

 ふと、葵が思いついた様に聞いた。


「魔導と科学の比率は兎も角として、基本的に全ての世界――あなたの言う“プライム”には、全て“大理”(おおいなることわり)の力が及んでいるのよね?」

「そうだ。例外はないさ」

「それ程の力を持つ“大理”を、歪ませる事が出来るなんて、一体どの様な存在なのかしら」

「さぁな。だが、“時の支配”を超越し、“大理”の枠組みを歪ませる事が出来る相手だ。常命の人間には、ちょいと荷が重いだろうな」

「その存在を仮に“特異者”と呼ぶとして、神を超越する存在に、今の私たちの小手先の付け焼き刃なんて通用するの? ましてや、わたしたちは“一般人”よ。あなたの様な歴戦の戦士とですらない」

「普通に考えれば、そう思うだろうな。だがな、お前達は“一般人”のくせしてアストラルの門を開き、普通は来られない上位世界に脚を踏み入れている」

「普通は来られない・・・」

「そうだ。それが意味する事が判るか?」


 暫し、葵は思考する。リュオンの示唆した情報を、もう一度順を追って論理的に組み立ててみる。

 徐々に、葵の表情に理解の色が浮かんでいく。


「・・・非常識な結論だけれども、」

「言ってみろよ。」

「私たちも、“特異者”だと言う事?」

「流石に葵だな。あれぽっちの情報で、その結論を出すか。大したもんだ」


 愉快そうにリュオンは笑った。

 逆に葵は渋面を作って厭そうに言った。


「冗談でしょう?」

「こう言う時に、お前達の世界では何て言ったか・・・あぁ、そうだった。“マジ”だぜ」

「嬉しくも何とも無いけれどね」

「まぁそう言うこった。だからな、見込みがある“特異者”の嬢ちゃん坊ちゃんを、女神様とオレがわざわざ鍛えてやるんだ。何が何でもモノになって貰うぞ」


               ★  ★  ★


 夜半過ぎ。翔は何度も寝返りを打っていた。先程のリュオンと葵の話が脳裏に引っ掛かり、どうにも眠れない。やがて諦めた様に目を開くと、頭上に満天の星空が視野に飛び込んでくる。

 紅く、蒼く、白く――大小の星が煌めいている。

 見知った星座はないかな、と探してみるが、すぐにその無駄を悟った。そもそも、ここは翔の居た世界ではないのだ。知っている星座がある事自体があり得ない話だ。


「ふぅ」


 知らず知らず、翔は溜息を漏らした。UNO学院に通っていた毎日が、遙か昔に思える。陳腐な例えだが、昔映画で見たトロッココースターに乗って無軌道に驀進している様な展開だ。


「寝られない?」

「えっ!?」


 漆黒の双眸が熾火の向こうから翔を見つめていた。


「葵さん、起きていたんですか。」

「えぇ。色々考えていたら思考が空回りして、眠れていなかったわ」

「葵さん、先程の話ですが・・・」

「“特異者”の話ね」

「そうです。その“特異者”とは何ですか? 先程は口を挟む余地もなくて、聞けませんでしたが」

「翔君には判らなかった?」

「残念ですが、全く」

「そう・・・」


 葵は、小さく溜息を付いた。

 焚き火の熾火が、葵の理知的な美貌を仄かに照らしている。


「“大理”を歪ませる存在が“特異者”。そして、その存在が“特異者”に成り得た条件に、私たちもある程度合致していると言う事よ」

「えぇ!?」

「女神さまの話。この短い期間で私たちの身に起きた事。突然顕れた“神杯”。私の剣“フォウチューン”。そして先程のリュオンの話――これが導き出すものは一つだけ。」


 翔は二三度瞬きをする。葵さんは、何を言おうとしているのだろうか。

 熾火の向こうの葵の双眸はには、不思議な輝きが宿っているかの様だ。

 そして、葵の言葉が翔の耳朶を打つ。

 

「翔君――私たちは、“大理”を歪ませようとしている“特異者”を止めるだけでは無く、自らが“特異者”にならかければいけないと言う事よ。」


☆☆ SCENE#7に続く ☆☆

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