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幻界創世記  作者: 冬泉
第五章「聖剣の影」
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SCENE#5◆「それぞれの想い」

■この世の彼方の島/神殿/聖泉の座


 神殿の奥深く――その泉はあった。覗き込むと、蒼い水の底が見える。透き通る、と言う言葉が陳腐に思える程の透明感だった。その泉の底に、翔は座禅を組み静かに座っている。ゆらゆらと、翔の髪が海草の様に揺らめいている。


“自分の心を、感じる”


 知恵の女神に言われた言葉。それは、一体どう言う意味なのだろうか。自分は自分だ。自分の心は、何時も感じている。これ以上、何を感じろと女神様は言うのだろうか。


“自分の心を、感じる”


 翔は、知恵の女神の言葉を何度も反趨する。


“自分の心を、感じる”


 自分の、こころ。こころとは? 心臓の事なのだろうか? それとも、もっと抽象的な意味なのだろうか。


“・・・判らない・・・”


 幾ら考えても、翔には皆目判らなかった。


               ★  ★  ★


『ギィン! ガキンッ!!』


 白と金が交差する。二色のタペストリーを描くかの様に、葵とリュオンが目紛るしく互いの位置を入れ替えながら剣を振るう。それは、絶妙に呼吸が有った、異境の舞の様だった。


「よぉし。ここまで」


 葵の鋭い剣戟をがっちり止めると、リュオンは笑みを浮かべた。


「剣技は上達してきたな、アオイ。ちょっと前までシロウトだった事を考慮すると、目覚ましい進歩だな」

「・・・」


 葵は無言でリュオンを睨んだ。息も一つも乱していないリュオンに比べ、葵は片手を膝に当て、肩で息をしている。


「ま、今の剣技の程度なら、以前お前達の学舎で囲まれた骸骨くらいは何とかなるだろう。だが、本当の敵は骸骨程度じゃない。あの公園で、オレ達を追い詰めた相手――アレは到底一筋縄では行かない」

「・・・力と技だけでは、駄目だと言うのね」

「そうだ。アオイ、以前オレがお前に言った事を覚えているか?」

「“神に逢う事”――それから、“魔導を覚える事”でしょう」

「流石に忘れてはいないか。“女神様”には逢ったな。後は“魔導”を覚える事だ。剣技に魔導が組み合わさって、漸く相手の前に立つ為の一番最初の前提条件が満たされる」


 まだ先は長い――予想をしていたとは言え、現実に突きつけられると、溜息を付く想いだった。


「そうだろうと、予想はしていたわ」

「ま、聡明なお前さんなら、これ迄の流れから類推するのは簡単だろうな」


 大きく息を吸うと、葵は背筋を伸ばした。


「予想が当たっても、嬉しくも何とも無いわ。それよりリュオン。」

「あ?」

「あなたの言う“魔導”、女神様が教えてくれると言われてたけど、何時から実行するの?」

「やる気満々だな。ちゃんと考えているから、慌てるな。今晩、メシの後にショウ共々話してやろう」

「・・・判ったわ」


 ヒュン、と一振りして葵はフォウチューンを鞘に収めた。


「帰りましょう」

「了解」


 葵は先に立って歩き始めた。その足取りは重い。一日中剣を振るい、躰は綿の様に疲れ切っている。


「辛いか?」


 思いも寄らぬ言葉に、葵は一瞬立ち止まった。


「心配してくれている、とか?」


 柄じゃない――そんな意味合いも込めて言葉を返す。

 だが、リュオンは異にもかえさず、真面目な表情で言った。


「否応無しとは言え、こんな事態に巻き込まれてお前さんもショウも大変だな、と正直思ってる。生まれた時からこの異常な世界に生きているオレとは違って、お前さん達はあくまで一般人だ。少し前までは、想像も出来なかった世界だろう?」

「・・・肯定と否定が半分ずつ、ね」

「なんだそれは」

「肯定する部分は、“日常の中での非日常”と言う事に付いては、何時も思索に耽っていたから驚かないと言う事。否定する部分は・・・ショウ君を巻き込んでしまった事」


 ふむ、とリュオンは眉根を上げた。


「自分以外も巻き込んだ事は想定外だった、って事か。だがな、アオイ。ショウは存外喜んでるかもな」

「喜んでいる? 翔君が?」

「あぁ。お前の窮地に、少しでも助ける事が出来るってな。お前は巻き込んでしまって不本意かも知らんが、こんな事態にこそ仲間がいるのは良い事だ。そう思う時がな、アオイ。きっと来る」


 そのリュオンの言葉は、葵の胸に重く響いた。


☆☆ SCENE#6に続く ☆☆

 大変お待たせしました。二年も更新せず、「この連載小説は未完結のまま約2年以上の間、更新されていません。今後、次話投稿されない可能性が極めて高いです。予めご了承下さい。」等と言う表示が出てしまっていました。今後も非常に不定期更新ですが、完全に終了するまでは継続します。長い目で見てやって頂ければ、と思います。

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