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幻界創世記  作者: 冬泉
第五章「聖剣の影」
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SCENE#3◆「力と技と」

 始まった葵とリュオンの特訓。何時終わるとも知れない時間の中で、葵は十分な剣技を身につけられるのだろうか?

■この世の彼方の島/砂浜


「はぁっ!!」


 裂帛の気合いと共に、あおいは己が剣を袈裟懸けに振り下ろす。その手に在るのは、時空を越える金色こんじきの聖剣「フォウチューン」である。


「おぉっと」


 その金の太刀筋を苦もなく躱すとリュオンはにやりと笑って言った。


「気迫は認めるがね。そんな甘い踏み込みじゃ、止まっている奴も相手にできないぞ」

「・・・」


 奥歯を噛み締めると、葵は剣の柄を握る拳が白くなる程力を込めた。そして、新たな一撃に一歩を踏み出す。


“体力と精神力は化け物並みだな”


 幾度目になるだろうか、葵の剣撃を避けながらリュオンは思った。斯様な光景が、既に二時間は続いている。折れそうな痩身ながら、葵は泣き言も言わず、只ひたすらリュオンに打ち込みを続けている。

 おまけに、ここは足場が悪い砂浜だ。一層体力が削られる筈だが、今のところ葵の状態に変化はない。


“本当に根性があるお嬢さんだよ”


 リュオンは、何処か葵との特訓を楽しく思う自分を感じていた。何よりも、煌めくような輝きを宿した瞳が良い。その黒い双眸は、何処までも諦めることなく、挑戦的な光を湛えている。


“それは兎も角として・・・そろそろ休息させないとな”


 このままだと、それこそ葵が倒れるまで続きそうだった。流石にそれでは単なるスパルタで、特訓には成らない。リュオンは、葵の連撃を避けると、ひょいと片手を上げる。


「よぉし、今日はここまで!」

「・・・」


 大きく息を吐き、葵はリュオンに一礼した。静かにフォウチューンを鞘に収めると。


「えっ!! あ、アオイ!」


 がっくりと膝をつく。苦しそうに肩で息をしながらも、葵の双眸からは煌めく輝きは薄れない。


「・・・昨日より・・・持つように・・・」

「そうだな。昨日よりも今日。アオイ、毎日伸びてきてるよ」

「・・・」


 微かな笑みが、葵の口元に浮かぶ。


「・・・でも、まだ一回も・・・当たらない・・・」

「おいおい、アオイ。オレはこれでも歴戦の勇士なの。こんな短期間でひよっこに追いつかれちゃ、沽券に係わるって」

「・・・ひ・・・よっこ・・・」


 はぁはぁと苦しい息の下、リュオンを見据える葵の冷厳な視線は全く揺るがない。


「おいおい、そう睨むなよ。可愛い顔が台無しだ。そんな事だと、ショウに愛想を尽かされるぞ」

「え・・・」


 一拍おいて、急激に紅葉する葵の表情を、にやにやしながらリュオンは堪能した。


「ま、でもその心配もないか。ショウはアオイの歩いた地面を崇拝する位だからな」

「戯れ言を・・・」

「信じないのか? 誰が見ても明白だろうに。そう言えば、先だっては我らが知恵の女神様も微笑ましいって二人をご覧になっていたぞ」

「・・・」


 絶句する葵。よりのよって、女神様まで・・・。


「ショウは有望株だぞ? この短期間で急速に魔導の力を上げてきている。もう、初級はほぼ使えるようになったって聞いた。アオイの剣技もそうだが、ショウも魔導に非凡な才があるんだろう。この分だと、仕上がりも遠くないな」


 手を差し出して、葵を引っ張って立たせると、リュオンは笑って言った。

 葵は軽く服を叩いて砂を落とすと、小気味よい音と共にフォウチューンを鞘に収める。


「その剣にも慣れたな」

「えぇ、手にしっくり来るわ。まるで・・・もう何年も持っていたように・・・」


 まだ、この剣を手にして数日なのにね、と言いながらフォウチューンに目をやる葵は、不思議そうな表情を浮かべた。


「それはそうさ。その剣は、お前さんとは切っては切れない縁がある。過去現在未来――その剣は、何時の時代でもお前さんの相棒として存在してきたんだからな」

「今は判るけれど――過去と、未来? それは、私の別の生と言うこと?」

「そうだ。その剣の持ち主を、オレは三人知っている。アオイ、お前さんを含めてな。長いときのなかで、もしかすると“もう一人の自分”と逢う機会があるかもな」


 リュオンの言葉に、葵は目を見張る。


「・・・リュオンには、そんな経験あるの?」

「あぁ。いけ好かない相手だったがな。まぁ、“そいつ”から貴重な技を幾つか貰ったからな。気持ち程度の感謝はしてるがね」


 二度と逢いたいとは思わないな、と締めくくったリュオンに、葵は思わず笑みを浮かべていた。


☆☆ SCENE#4に続く ☆☆

 長らくお待たせしました。「幻界創世記」の続きです。公的に多忙でなかなか更新が出来ませんが、気長にお待ち頂ければ幸いです。

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