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幻界創世記  作者: 冬泉
第五章「聖剣の影」
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SCENE#1◆「大いなる理」

 “知恵の女神”を前にして、翔と葵は何を想うのか・・・

■この世の彼方の島/知恵の女神の神殿


「知恵の・・・女神・・・さま?」


 惚けたように、翔はその名前を舌の上に滑らせた。

 この世の者とも思えないその姿からは、深い英知と神聖が伝わってくる。


「はい」


 銀鈴が鳴るような、というのはこんな声なのだろうか――漠然と翔は思った。だが、そんな惚けたような想いは、葵のキッパリした声に破られる。


「知恵の女神さま、と自ら仰いました。あなたは、私の知るどの神話の神々とも異なると思います。教えて下さい――何故に、私たちをここに呼び寄せたのでしょうか?」


 真摯な問い掛けに答えたのは、さざめくような微笑みだった。


「“大理”(おおいなることわり)と言うものがあります。“大いなる祖父”(おおいなるそふ)が定められ、彼の創世神でさえも無視できないものです。それが、全ての世と生きとし生けるものを定めています」

「“大理”・・・」


 そっとその言葉を口にする葵。


「その“大理”のいしづえが揺らいでいます。全てに超越した、そして超越せねばならない“大理”を、おのれよこしまな利の為に歪めようとする動きがあります。“大理”が歪められると、全ての“理”(ことわり)が安定を欠き、歪みはじめます。そして、世々の垣根がこばたれ、全ては原初である“混沌の海”に投げ戻されてしまいます」

「・・・」


 思案顔で女神の説明を聞く葵の傍らで、翔は今聞いた話を自分の中で何とか理解しようとしていた。


“総論的なルールがあって、それは絶対的なんだな。

 そして、その総論的ルールを基盤として、各論的なルールがあるのか・・”


 あれ? と翔は思った。さっき女神様は“大理”は創造神も無視できないって絶対的なものと言ってたけど、それを歪めるって・・・


「しかし、それならば、その“大理”を歪めようとする存在にも影響が出てしまうのではありませんか?」


 思わず、翔は己の疑問を口に出していた。

 女神はその視線を翔に向けると頷いた。


「本来であれば、三奈瀬翔――あなたの言う通りでしょう。しかし、如何方法かは判りませんが、その“者”はその“戒め”から逃れるすべを見出した、と思われます」

「思われますって・・・知恵の女神さまと仰るあなたでも判らないのですか?」

「・・・だから、お前さん達が呼ばれたのさ」


 恐れ多くも女神の言葉を不躾ぶしつけに引き取って、リュオンが後を続けた。


「先に言っといただろ? お前さん達の世界の哲学者や思想家達が考える“論理上の神”とは概念が違うのさ。“神”と言えども、何でもかんでも出来る訳じゃない。ましてや、“根本たる絶対的なもの”が揺らぐくらいだ。女神様にも見通せなくてもおかしくはない」


 ですよね、と振られた視線に、優しげな笑みを浮かべる知恵の女神。


「“黄金の戦士”が言った通り、わたくしには出来ることと出来ないことがあります。この場所を離れられないことも、直接に物質界(Prime Material Plane)に影響を及ぼすことも出来ません。わたくしに出来ることは、あなた方に幾ばくかの助言と知恵を与えることのみ・・・」


 女神の説明を聞いた二人は、顔を見合わせた。やがて、嘆息するかのように、翔が口を開いた。


「何故、僕たちなのですか? どうして僕たちに白羽の矢が立ったのか、全く判りません。」

「そりゃそうだ。魔導も剣技も全く駄目駄目の嬢ちゃんに坊主の二人だもんなぁ」


 混ぜっ返すリュオンに、剣呑な視線を向ける翔。


「茶化さないで下さいよ、リュオン。女神様さえも原因が判らない事を、只の人である僕や葵さんに何が出来るって言うんですか? それが判らないから、聞いているんです!」


 翔の剣幕に、リュオンは鼻で笑って肩を竦めた。

 そんな二人を仲裁するように、女神が静かに言う。


「理解が出来ないのも無理はありません。しかしながら、今ここでその事由じゆうを語ることは出来ないのです」

「・・・教えて貰うことも出来ない、と言うことですか。」


 葵の口調に僅かな苛立ちが混じった。

 少し顔を伏せるようにして、知恵の女神はそっと言葉を発する。


「あなた方にご迷惑を掛けるのは本当に心苦しいのですが・・・今は、まだ語る時ではありません」

「・・・」


 小さく嘆息して葵は黙した。

 代わって翔が、少なからぬ憤りを込めて言う。


「何も判らない、何も教えられない――でも、世界がゆがむ程の危険がある。無力な僕たちを呼び出して、一体何を期待しているのですか?!」


 その言葉を聞いた知恵の女神は、その叡智の宿る表情に浮かんだ深い憂いの色を深めた。

 リュオンはと言うと、腕組みをしたまま皮肉っぽく口端を曲げている。


「・・・」


 葵は黙って、腰に下げた剣――『FORTUNE』(フォウチューン)を見やった。複雑な装飾を付されたその神秘的な剣は、ただ静かに輝きを放っている。

 これは、「自分の」剣だ。色々判らない事が多々あるが、少なくともこの剣は自分を「主」と呼んだ。この剣を、自分にもたらしたのはリュオンだ。そうだ、リュオンは言っていたではないか――


『アオイ。お前は、その剣にあるじとして認められたんだ。魔導の力がないと、剣と“話す”事が出来ない。つまり・・・』

『・・・先輩には、その“魔導の力”があるってことですか?』

『そういうことになるな。』


“・・・私には、魔導の力がある?”


 だが、どうして自分にそんな力があるのか? 只の一般人である自分に、何故にその様な超常的な力が付与されているのか?


“なぜ?”


 こんなこと、偶然であるはずがない。偶然では無い、と言うことになると、それは必然だ。必然的に、自分は剣と巡り会った。そう、リュオンとも――そして、翔とも。


 何もかも判らない中で、何処とも知れぬ場所で、想像も出来ないような事柄と対処しなければならない――そんな中で、安易に首を縦に振る者は狂人だろう。ここでの蛮勇は、何ら解決にもなりはしない。それは、人生経験の浅い葵にも、十分判っている事だった。


 だが・・・。


 本当にそれだけで良いのだろうか。

 目に見えるものだけで判断して、あとは何も知りませんし判りません、で本当に良いのだろうか。

 心の何処か奥底で、それは違うと否定する自分がいる。

 心の何処か奥底で、その一歩を踏み出しましょう、と想う自分がいる。


 葵の中で、だんだんと歯車が噛み合っていく。


「葵さん」


 葵の想いは、己の名を呼ぶ翔の声に引き戻された。

 何時の間にか三者とも自分に注目している。


「確かに、判らない事が多すぎて、今僕たちの陥っているこの事態は釈然としません。

 けれども、考えてみれば、どうにも“非日常的”な事実も幾つかあります。

 葵さんの元に顕れた“金杯”。学校に現れた“亡者達”。そして何より――僕たちを何度も危機から救ってくれたリュオンと、何処とも知れないこの島にお住まいになる女神様がいます」

「・・・全ての不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる・・・」

「シャーロック・ホームズ、ですね」


 翔に頷いた葵の表情には笑みが浮かんでいた。

 霧が払われるように、迷いは葵から消えていた。


「全てが荒唐無稽に思えるけれど、それは単に私たちが前後関係を知らないだけ――事実関係だけをとれば、一本筋が通っている。金杯、黄金の戦士、聖剣、知恵の女神、世界の理・・・」

「・・・そのキーワードから導き出される帰結は、とってもヒロイックですね」


 翔は少し苦笑いを浮かべて言った。


「僕たちの何処に、そんな力があるのか、到底理解出来ませんけど・・・」

「そうね。理由も何も、今は判らないけれど・・・」


 翔に頷くと、葵は知恵の女神に向き直った。

 女神の鮮やかな碧の双眸には、人知を越えた知恵の輝きが煌めいている。冷たいとも思えるような、造形美の極地と言えるその表情だが、その中に葵は深い慈悲の想いを感じるのだった。

 そうだ・・・何が判らなくても。何が無くても。今はただ、自分の感覚に素直にあることが大切だ――そんな葵を力づけるような、翔の笑みが葵の背中を後押しする。


「女神さま。」


 決意を込めて、葵ははっきりと言葉を発した。


「何をすべきなのか――どうか、私たちに助言をお願いします」


☆☆ SCENE#2に続く ☆☆

 お待たせ致しました。第五章の開始です。色々と書きたい内容は有るのですが、なかなか旨く纏まりません。必然、更新ペースが長くなりますが、宜しくお願い申し上げます。


[追記]

 内容にちぐはぐな部分がありましたので、大幅改稿致しました。これで、多少は理解し易くなったと思います。亀以前の更新速度ですが、今後とも宜しくお願い申し上げます。

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