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幻界創世記  作者: 冬泉
幕間3
44/50

STAGE4.5◆「それぞれの、想い」

恵久美流エクビル公国/公都恵久美流/龍の館


『ゴォォン!!』


 壮麗な銅鑼の音共に、重々しい扉が左右に開く。爽やかな涼風と、水のせせらぎが耳に心地よい。中央の噴水の後ろには大きな絨毯がひかれており、一団高くなった奥津城に置かれた玉座には二人の人物が座っている。


「おぉ、姫よ」


 駆け込んできた、と形容するのが相応しい速度で飛び込んできたお嬢こと璃奈リナ姫に、立派な顎髭を蓄えた人物が口を開いた。風貌は厳しいものの、その両眼には優しさが溢れていた。


「おはようございます、お父さま」

「おはよう、姫よ」


 多少、いや多分に親莫迦気味の恵久美流エクビル宗主が笑顔で朝の挨拶をするに次いで、少し小さめの玉座に座った貴婦人が笑みを浮かべて言った。


「おはよう、璃奈」

「おはようございます、お母さま」


 その貴婦人こそ、恵久美流宗主の奥方であり、「西方の至宝」と呼ばれる優しい賢夫人、詩真・恵久美流シーマ・エクビルであった。璃奈に似た、それでいて落ち着きと包容力を兼ね備えた優しげな雰囲気を纏っている。


「朝からどうしたのですか?」


 娘の行儀に微かに顔をしかめてみせながらも、やんわりと聞く。


「お父さま、お母さま。“杯”を旨く送れました!」

「おぉ、そうか!」


 思わず立ち上がりかけて、妻にちょいと引き戻される恵久美流宗主。ウォッホン、と取り繕うように咳払いをすると、璃奈に先を即した。


「“杯”は確かに、“向こう”に届きました。受け取った方――どうも、女性のようですが――とも、少しですが話すことが出来ました」

「そうか・・・。最初の段階としては成功と言う訳だな」

「はい、お父さま。けれども、これで安心は出来ません。強い・・・いえ、非常に強い悪意も感じました。受け取った方の安否が心配です」

「確かにな・・・さすれば、どうすればよいと思う、奥よ?」


 宗主は何時もの通り、傍らに座る賢夫人に尋ねる。


「璃奈が感じたことから考えると、既に相手は大きく“天秤”を傾けてしまっている状態と思っても良いかと。そうであれば、私たちも後れを取ってはなりません」

「助勢する者が必要と言うことだな?」

「“杯”には、その宿命に連なる者が憑いているとは言え、万全を期すに越したことはございませんわ」

「我らに、是非その役目をご指示頂きたく存じます」


 宗主の言葉に、静かな声で応じたのは恵久美流公国の誇る四審武官、真砂貴マサキ華衣ケイレン透眞トウマであった。四人を代表して、最も冷静な真砂貴が発言する。


「全員、と言う訳には参りませんので、我らからお選び頂き度。必ずや、その大任を果たす所存でございます」

「ふむ・・・」


 思案げに唸る恵久美流宗主。


「影の回廊の力を使っても、限界があるわ。それに、辿り着けるかどうかも・・・」

「無論、危険は承知の上です、姫君」


 心配そうに言う璃奈に、重々しく真砂貴は言った。残る三人も、一様に真砂貴の言葉に頷く。


「しかし、“アルカナの舞”に始まりしこの“変遷”を、座して待つ訳には参りませぬ。むしろ、介入の余地が有るだけでも、良しとしなければ」


 尚も言い募ろうとする璃奈を制して、宗主が決断した。


「良かろう。我らも時を無駄にすることは出来ぬ。国の護りを弱めることになるのも止むを得ぬ」


 四名の真摯な表情を一頻り見回すと、宗主は軽く嘆息して言った。


「簾。貴公を派遣するとしよう」

「はい。謹んでお受け致します」


 輝く様な銀色の髪を肩口で切りそろえた華奢な娘が頷いた。到底、過酷な任に耐えるとは思えないような外見ながら、簾はその強靱な意志の力と賢明さでは四人の中では随一だった。


「簾・・・」

「姫君、ご心配めさるな。簾は我らの中でも意志の力、賢明な知恵、剣の腕に優れております。必ずや、困難な任を果たすで有りましょう」

「そうだぜ、お嬢。人間、喰って寝られれば死にゃしない。その点でも、タフな簾は打って付け・・・グワッ!!」


 透眞に仕舞いまで言わせずに、簾は静かに、しかし完全にトドメを刺した。只の屍のようだ状態となった透眞に目も呉れず、真砂貴、華衣、簾の三人は宗主、奥方と姫君に深く一礼した。

 三度登場です――“お嬢”こと恵久美流えくびる公国第一公女、璃奈姫りなひめです。エルスと現世――徐々に双方が絡んできています。

 次回から、第五章「聖剣の、影」がスタートします。翔、葵、リュオンはどうなるか――ご期待下さい。

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