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幻界創世記  作者: 冬泉
第四章「光と舞と」
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STAGE04◆「光と、舞と」-SCENE#9


神殿の前に立つ翔と葵。果たして、ここに来のは必然か、否か・・・

■南の島?


「あれは・・・何でしょうか?」


 少し惚けたように言うしょうに、あおいは眉根を寄せて思案する。


「神殿、の様に見えなくもないわ」

「神殿? じゃあ、ここがリュオンの言っていた、“神”に呼ばれている場所──そう取るべきですか?」

「断言はできないけれども──何事も偶然と取るか、必然と取るかで、私たちの置かれた状況も変化する・・・」

「葵さんは、どちらだと思いますか?」

「ここに来ている事が必然だと考えれば、これも必然ね。」

「・・・」

「普遍的に言うと、“神さま”は万能でしょう?」

「故にこの程度は、不思議でもない、と?」

「えぇ。」

「リュオンは“時を超越した存在”と言っていましたから、僕たちの概念で言う“神”とは違うのかもしれません」

「神学的には差があるのでしょうけれども、“超越している”と言う点から考えると、私たちにとっては差はないわね」

「そうですね。でも、そうであっても、現実に目の前にすると、信じがたいですけど」


 如何にも年代を経たような石造りの建造物──確かに、旧時代の冒険映画で見た、中東か何処かの神殿に見えるな、と翔は思った。


「入ってみましょう。」


 きっぱりと言うと、葵は一歩踏み出した。いつの間にか、順序が逆転してしまっている。少し情けなく感じながらも、翔は後に続いた。

 円柱の立ち並ぶ神殿正面の真ん中に、大きな入口があった。ここを入ると、両側に円柱が並ぶ大きなホールが奥へと続いている。


「薄暗いですね」


 目を凝らしながら、翔は奥の方を伺った。だが、闇に包まれて杳としてしれない。


「明かりが必要ね。」


 その葵の言葉に反応するかのように、葵が手にした剣──フォウチューン──が光り始めた。


「えっ?」

「葵さん、剣が光っていますよ!」

「何も、していないのだけど・・・」


 二人の驚きを余所に、フォウチューンはその名にしおう黄金色の輝きを増していくと、程なく辺りがある程度識別できる光度となった。


「便利・・・と言っていいんでしょうか?」

「今は、有り難いと思いましょう」


 ね、と微笑む葵に、翔も笑み浮かべて頷いた。

 フォウチューンの輝きを頼りに、翔と葵はゆっくりと先に進んだ。しばらく行くと、正面に壁が見えてくる。どうやら、広大なホールもここで終わりのようだ。


「行き止まりですね」

「扉も何も、無いみたいだけれども・・・」


 その葵の言葉が発されると同時に、音もなく壁の一部に黒い入口が現れた。思わず、顔を見合わせる翔と葵。


「これって・・・」

「招かれている、ようね」


 でも、不思議と厭な感じは受けないから、と葵は言った。


「それなら、先に進みましょうか」

「えぇ。ここまで来のなら、最後まで行ってみましょう」


 明快な葵の言葉に、翔はおや、と思った。斯様な事態にあっても、葵は自分の感覚を信じて、冷静沈着に物事を進めている。ぽっかりと壁に開いた入り口は、如何にも薄気味悪く思えるのだが──葵の、剛毅とも言える行動に、翔は華奢な外見で判断してはいけないなぁ、と自分の認識を改める思いだった。


 入口の先は、下りの階段となっていた。緩い傾斜の石段が、地の底へと続いていく。


「どこまで深く潜るんだろう・・・」


 ふと漏らした翔の呟きに、葵はちらりと肩越しに振り返った。


「・・・怖い?」

「えっ? えっ! いえ、怖いだなんて!!」


 己が名誉の問題とあって、翔は必死に否定しようとするのだが、葵はフフフ・・・と笑うばかりで、相手をしてくれない。


「葵さ〜ん、酷いですよォ」

「・・・」

「葵さ〜ん」

「・・・」

「葵さ・・・」

「静かに。何か聞こえるわ」


 翔を制すると、葵は立ち止まって耳を澄ませた。はっとなった翔も、身動ぎせずに必死に音を拾おうとする。


「・・・水音?」

「・・・はい、僕にもそう聞こえます」

「先に行かなければ、判らない・・・」

「どの道、一本道です。行ってみましょう」

「そう、ね」


 気を取り直して、二人はまた歩を進めた。水音は、だんだんと大きくなっていく。途中、何度か立ち止まって音を確認しながら、慎重に道を辿る。そして、更にしばし進んだ後。唐突に葵が立ち止まった。


「翔くん、先が明るいわ」

「え? あ、本当だ」


 葵がフォウチューンを鞘にしまい、その黄金の輝きが無くなると、進行方向の先の方が仄かに明るい事がはっきりと判った。


「終着点、でしょうか?」

「今はまだ、どちらとも言えないけれど・・・」


 でも、用心に超した事はない、と葵は結んだ。翔に異論があるはずも無く、葵の言葉に大きく頷く。

 先程以上に慎重に時間を掛けて、二人は階段を降り続けた。しばらく行くと、階段はお終いになり、その先はアーチウェイになっていた。水音と明かりは、そのアーチウェイの向こうにあった。二人は、最後の数段手前で脚を止めた。静かに集中し、何かを感じ取ろうとする葵を、黙って翔は見つめた。


“葵さんは、先程『厭な感じは受けない』と言ってたけど──僕には、さっぱりだなぁ”


 自分は徹頭徹尾一般人なのだろうと思うと、翔は安心する反面、少し悲しくも感じていた。何せ葵の場合は、いきなり無から空中に生じた金杯(リュオン曰く、漠羅爾の神杯)の上に、然るべき人からリュオンが預かっていた黄金の剣(リュオン曰く、宝剣フォウチューン)もある。その剣も、ただ持っているだけじゃない──使えてしまっているのだ! どう考えても、今の自分は葵のお荷物かもしれない──そう思うと、がっくりくる翔であった。


「翔くん?」


 はっと我に返ると、いつの間にか葵がじっと翔を見つめていた。


「・・・何か、心配事?」

「いえ、特にありません!」


 本当のところが翔に言えるはずも無く、慌てて誤魔化すと逆に葵を促した。


「葵さん、先に行きましょう」

「・・・えぇ」


 くすり、と笑みを浮かべる葵に、翔は内心を見透かされた思いで、顔が赤らむのだった。


☆☆ SCENE#10に続く ☆☆

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