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幻界創世記  作者: 冬泉
第四章「光と舞と」
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STAGE04◆「光と、舞と」-SCENE#8


ここは何処だろう? 不思議な場所で気が付いた翔と葵は・・・

■南の島?


「葵さん、ここからなら入れるんじゃないですか?」


 しょうが指さす先を、あおいは注意深く観察した。下生えは濃いものの、僅かに隙間があって通れないこともなさそうだ。


「・・・そうね。入れそうだわ」

「それじゃ、僕が先に行きますね」

「えっ?」


 翔は手近に落ちていた木の枝を手に取ると、葵が反論する前に森に分け入ろうとしたが、葵も簡単に納得する様な性格をしていない。


「翔くん。わたしが先に行く方が良いと思うけど?」

「いいえ。現状では、僕の方が葵さんよりも対応力に劣っています。だから、僕に出来ることをやるだけです。僕に出来ること──それは、葵さんがその剣で対応する時間を稼ぐことです。その為には、葵さんは先頭に出ない方が良いと考えました」


 精一杯、不敵に見える様に笑って翔は言った。本当の理由は別の所にあるのだが、それを言う訳にはいかなかった。葵は暫し眉根を寄せて翔の提案を考えていたが、やがて溜息を一つ付くと言った。


「・・・判ったわ。」

「じゃ、行きますね!」


 翔は明るく聞こえる様に言うと、足下を出来るだけ掻き分ける様にしながら、森の奥へと歩き始めた。


“ふぅ・・・”


 翔は葵が賛成してくれたことに、心の中で安堵の溜息を付いていた。先程は理由を付けて葵を説得したが、実際の所は女の子である葵を先に立たせることなど、翔には到底受け入れ難いことだったからだ。もっとも、気丈な葵のことだから、あからさまに“弱い者”扱いしたら、絶対に翔の提案を受け入れてはくれなかっただろうが・・・


               ★  ★  ★


 暫く、無言で二人は森の中を歩いた。緑の中、時折木の間から差し込む日差しが目に眩しい。


「・・・何か、信じられないですね」


 独り言でも言う様に、翔はぽつりと呟いた。


「一昨日までのことを考えると、ここにいること自体が夢を見ている様に思えます」

「無理はないわ。こんなこと、誰が想像できて?」

「そうですが・・・」


 翔は言葉尻を濁した。翔にとって、この事件をきっかけとして葵と親しくなれたことは嬉しいことなのだが、今陥っている状況を考えると、手放しでは喜べなかった。


「ファンタシィ小説などを読んで、“非日常”には憧れていたはずなのに・・・」

「そうね・・・」


 そんな翔の心の内を感じ取ったのか、葵は優しく諭す様に言った。


「“非日常”というのは、別の世界に行ったり、何か不可思議なことが起きたりするだけを意味しているのではないと思うの。その人が、望む時に望む様に自由な選択出来ないという状況も、一種の“非日常”じゃないかしら」

「・・・自由な選択が出来ないことが・・・“非日常”?」

「そう。でも今の私たちには、少なくとも“選択する余地”は残されているでしょう?」

「・・・はい・・・」

「だから、私たちは“別の世界”には来ているものの、特に深刻な“非日常”に陥っている訳でもないと言えるわ」

「別世界に来ていても、ですか?」

「えぇ、そうよ。」


 思わず振り返って見ると、安心させる様な葵の笑みにぶつかった。葵の言う“非日常”の定義を理解するのは今一難しかったが、翔は緊張した気分が大分ほぐれる感じだった。


“そもそも葵さんは、これを意図していたのかも知れない”


 再び下生えを掻き分けて進みながら、翔は小さく笑みを浮かべていた。こんな状況でも、相手の精神状態を考えて、きちんと対処してくれる──やっぱり葵さんは頼りになるなぁ、と翔は思った。


               ★  ★  ★


 それは唐突に起こった。下生えを掻き分けていく作業の繰り返しが単調になってきて、集中力が途切れてきたのも一つの原因だったのだろう。


「あっ!」


 踏み出した先には、地面がなかった。いや、正確に言うならば、突然急な斜面となっていたのだ。翔は脚を取られて、その急斜面を滑り落ちていた。


「翔くん!」


 咄嗟に、葵も翔の後を追った。無謀にも見える行動だったが、ここで翔と離ればなれになるよりはマシ、と咄嗟に判断した上での行動だった。

 ザザザザッと滑り降りた二人は、最後の二、三メートルを一気に転落した。


「ぐっ・・・」


 地面に叩き付けられた翔は、息が止まる思いだった。一瞬間をおいて、隣に葵が落ちてくる。


「あ、葵さんっ!」


 翔は咄嗟に手を伸ばして、葵を受け止めようとする──が、それは見るも無惨な結果に終わった。


「痛った〜」


 幾ら葵が軽いとはいえ、勢いを付けて落ちてきた下敷きになるのは洒落にもならない。目の前に星を散らしながら、翔は暫し地面にばったりと倒れていた。


「ごめんなさい、翔くん・・・」


 すぐ近くに葵の声を聞いて、とりあえず翔はそっと目を開いてみた。深い黒い双眸が、翔を心配そうに見下ろしていた。


「あ・・・おいさん、大丈夫でした?」

「えぇ。幸い、翔くんが受け止めてくれたから・・・」

「葵さんが無事で良かったです」

「ごめんなさい、迷惑をかけて・・・」

「いえ、元はと言えば、僕が不注意だったせいですから」


 こんな時にこそ、オトコノコにはデフォールドで備わっている“やせ我慢”の技能を活用する時だった。ご多分に漏れず、翔もその技能をフルに生かして、“ノープロブレム”とばかりに、笑みを浮かべて見せた。


「無理をしないでね」


 もっとも、折角のの技能も、聡い葵には見抜かれてしまっている様だったが。誤魔化す様に咳払いをすると、翔は落ちてきた斜面を見上げた。今いる場所は、どうやら森が陥没して穴に成っている様な場所だった。


「結構、上までありますね・・・」


 見上げると、陥没の上の縁までは優に二十メートル位はあった。


「登るのは、かなり大変そうね」

「そうですね・・・」

「でも、登らなくても良いかも知れないわ」

「え?」

「翔くん、あれを見て。」


 翔は息を飲んだ。翔と葵が滑り落ちてきた斜面とは反対側には、崖に彫り込まれる様に埋め込まれる様にギリシャ風神殿の様な石造りの建造物が立っていたのだった・・・。


☆☆ SCENE#9に続く ☆☆

 お待たせ致しました。幻界創世記4-8をお送りします。見知らぬ島で気がついた翔と葵ですが、取るも取り敢えず、周囲の探索を始めます。一体、ここは何処なのでしょうか。また、一緒に“扉”を潜った筈のリュオンは何処に行ったのでしょうか。その謎は・・・乞う次回。

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