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幻界創世記  作者: 冬泉
第四章「光と舞と」
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STAGE04◆「光と、舞と」-SCENE#7


琉央の甘言に操られた御殿山は、異世界への扉を開いてしまう・・・

■公園→南の島?


「くくく・・・」


 低い笑い声が漂う煙の間から聞こえてくる。乾いた靴音と共に歩いてきた琉央るおうは、冷笑を浮かべると煙がまだ燻る公園を見回した。

 先程の轟音は、リュオンが公園の入り口に張った結界が力任せに吹き飛んだ時のものだった。

 その衝撃は、公園入口から扇状に地面を灼いていた。


「旨く逃げたつもりか? だが、それが間違いだと言うことを、じっくりと思い知らせてやるとしよう。」


 光の扉が消えた空間を見据えて言うと、扉が消えた辺りの空間を手で二三度なぞる。

 何も起きない。

 僅かに首を傾げると、琉央は事投げに言った。


「向こう側から封印したのか? 小癪なことを・・・まぁいい。手立ては幾らでもある。」


 すっと手を振ると、背後から滑る様に黒衣を纏った人物が二人、滑る様に現れた。その二人に両側から抑えられているのは、ぐったりとした御殿山ごてんやまだった。先程、学院のエントランスホールで翔に揶揄の言葉を投げかけていた御殿山が何故ここにいるのか?

 ぐったりとした御殿山の顔の前で、琉央が手をヒラヒラと振るうと、不意に目が開いた。


「こ、ここは?」

「学院の近くの公園だよ、御殿山君」

「キミ、い、いや、あなたは・・・」

「二年の琉央という。よく知っているだろう?」

「は、はい」

「それはよかった。頭脳明晰で優秀な生徒である君が、友人を忘れるはずもないだろう?」

「もちろん、ですとも・・・」


 にこやかに笑いかける琉央に、御殿山は引き込まれる様に頷いていた。


「優秀な君に、一つ手を貸して貰いたいことがある。一年の三奈瀬君、知っているな?」

「三奈瀬? あ、あぁ、知っています」

「君の好意を無にした、恩知らずなヤツだな?」

「そ、その通りです! 折角、親切にもボクが翻訳ソフトを貸してやったのに・・・」

「それを無碍にも断った、許せない相手だな?」

「そ、そうです。許せないヤツだ・・・」

「君の親切心を理解しなかった三奈瀬君に、“お礼”をしてあげたいと想わないかね?」

「それができるのなら、勿論・・・」

「では、私に少し手を貸して貰えるな?」

「はい、喜んで・・・」


 琉央の笑みが深くなると同時に、御殿山の目から光が失われていく。どこか恍惚とした表情を浮かた御殿山は、何時しか唯々諾々として琉央の言葉に頷いていた。


「結構だ。それでは、御殿山君。君の卓越した力を使って、この空間に存在する“門”を探し出してくれ」

「・・・門・・・?」

「そうだ、門だ。優秀な君なら簡単に出きるだろうが、手をこまねいて見ているのは如何にも友達甲斐のないことだ。そうだな、君にこの宝錫を貸してあげよう。君の卓越した才能が更に高められるぞ」

「あ、ありが、とう・・・」


 既に御殿山は呂律が回っていなかった。両手で琉央に渡された鈍く光る金色の宝錫を持つと、酔ったような足取りで公園の中を彷徨って行く。そして、在る地点でピタリと止まると、眼前の空間を手にした宝錫で一突きした。


 途端──


『グ・・・ヮ・・・ギッ!!』


 何かが裂ける様な鈍い音がすると門の片扉がへしゃげた様に開け放たれてしまっていた。


「お見事、御殿山君」


 既に応える力も使い果たした御殿山は、木偶の様に地面に倒れ伏した。

 そんな御殿山を一別もせずに、琉央は余裕の冷笑をその端正な顔に浮かべながら、開かれた扉に近づいた。


               ★  ★  ★


「ここは・・・」


 翔はゆっくりと目を開けた。

 頭上に広がるのは真っ青な空。

 目に沁みるほどの青さをぼんやりと見ていると、間断なく響く音が耳に入ってくる。


「なんだろう?」


 音のする方に首を曲げてみる。痛い──寝違えでもしたのか、首を回すのがとんでもなく辛かった。それでも、漸く顔を横に向けると、真っ白い砂浜に寄せては返す波が見えた。

 いや、それだけではない。波打ち際に誰から倒れていた。

 誰だ?

 低血圧の寝起きの様に、はっきりしない思考が結論に辿り着いた時、全身に電気が走ったかの様に飛び起きた。


「葵さんっ!!」


 首が痛かろうが躰が軋もうが、翔は構っていられなかった。全力で葵の元に走り寄る。


「葵さん、葵さんっ!」


 思わず、肩に手を掛けて揺すぶってしまう。自分の乱暴な行為に、はっとして翔は手を離した。

 そんなこんなで、翔はいつの間にか葵が目覚めていることに気が付くのが遅れた。


「あぁ、どうしよう! 僕が優柔不断に振る舞ったお陰で、大切な葵さんがこんな目に! あぁ、神様仏様! どうか、葵さんを目覚めさせて下さい! 南無八幡麗禰大権現さまぁ・・・」


 どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・と呪文の様に言う翔に、葵は不思議そうに聞いた。


「・・・何をどうするっていうの、翔くん?」

「え?」


 翔は驚きのあまり、そのまま硬直した。


「翔くん、大丈夫? どこも怪我をしていない?」


 華奢な白い指先が、そっと翔の額に触れた。

 その深い黒曜石のような双眸がじっと翔を見つめる。


「ひやぁぁぁっ!!」


 翔は飛びす去った。唐突に叫ばれて、葵は怪訝そうな表情を浮かべた。


「い、いえ、あの、あは、あはははは、何でも、えぇ、何でもないんです、いやほんと」

「翔くん・・・?」


“び、びっくりした〜”


 “第三種接近遭遇”を身をもって体験した翔が心を落ち着かせるまで、暫しの時間が必要だった。


               ★  ★  ★


「リュオンは、何処に行ったのかしら」

「一緒に“光の扉”を潜った事は覚えているんですが・・・」

「・・・」


 葵は口元に手を当てると、思案顔になった。


「葵さん、何か覚えてますか?」

「・・・そうね。私たちを抱えて一緒に扉に入ったでしょう? リュオンも、ここに跳ばされたと考える方が自然だわ」

「探しましょうか?」

「そうね。でも、別れて行動するのはよしておきましょう。探す効率は悪いけど、ここが何処だか検討も付かない以上、注意するに越したことはないわ」

「賛成です」

「じゃ、まずは浜辺ね。見通しの良いところから、左右を探してみましょう」

「はい」


 今居るところは、少し湾曲した湾の奥だった。白い砂浜の幅は比較的狭く、波打ち際から生い茂った熱帯雨林まで十メートルほどしかない。その白い砂浜を、葵と翔は連れだって歩いた。

 意識的に、翔は熱帯雨林側を歩く様にしていた。気休めかも知れないがもしれないが、海側の方が安全だろうと思ったからだった。湾を半周したが、リュオンの影も形も見えない。


「いませんね」

「えぇ・・・」


 歩いてきた方を振り返ると、まっさらな白い砂浜に二人の足跡だけが残っていた。


「森に入るしかないわね」


 気が進まないけれども──形の良い眉を寄せて、葵は溜息を付いた。


「置かれた状況が、皆目も見当が付かないというのは、とても不安だけれども・・・」

「そうですね。ここにいても、何の進展もないでしょうし」

「私もそう思うわ。森に入れそうな場所を探してみましょう」


 踵を返すと、葵は来た路を戻り始めた。慌てて翔も後を追った。

 密林に切れ込みを探しながら、二人は黙って歩いた。サクサクと砂を踏む音に、寄せては返す波の音がハーモニーを奏でている。


「葵さん、その剣ですが・・・」

「どうかした?」

「いえ、重くないのかなって・・・」


 翔は、葵が右手に持った長剣を見つめていった。


「重くはないわ。それに、不思議と手に馴染んでているの」

「そうなんですか?」

「えぇ。まるで、この剣を昔から持っていた様にも感じるわ」


 錯覚なのでしょうけれども──そう言うと葵は薄く笑った。だが、翔には葵自身も何処か確信が持てない様な、そんな響きをその口調に感じていた・・・。


☆☆ SCENE#8に続く ☆☆

葵と翔の二人は、葵自身が開いた“門”を通って異世界に足を踏み入れました。その“門”を開いたのは、リュオンから渡された不思議な宝剣“FOUTUNE”です。葵自身も、この宝剣を急速に使いこなせる様になってきています。葵の身に、一体何が起きているのでしょうか? その答えは、次回に乞うご期待!

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