表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻界創世記  作者: 冬泉
第四章「光と舞と」
34/50

STAGE04◆「光と、舞と」-SCENE#1


事件解明に乗り出した翔と葵は・・・

■葵自宅→UNO学院


「それでだ。その書物をどうするんだ?」


 あおいの手にあるAD&Dのマニュアルを、リュオンは興味深そうに眺めた。


「何か手掛かりがないか、調べてみます」

「それは魔導書かなにかか?」

「魔導書って?」


 葵とリュオンのやりとりを聞いていたしょうは、なんですか、それは? とハテナマークを浮かべて尋ねた。


「あぁ。魔導師が自分の研究を書き綴ったものさ。アオイもショウも魔導の力が無いのだから、漠羅爾バクラニの神杯やオレを呼び出すきっかけになったのは、別の力が源となったと考えるのが普通だろう?」

「あぁ、その前提条件ならば、確かにそう考えるのが普通ですね」

「で、どうやってそれを調べるんだ?」

「・・・学院に、行きます。」

「学院?」


 耳慣れぬ言葉を聞いて、リュオンは葵を怪訝そうに見た。


「わたしたちが通っている、勉学を教える学舎まなびやです」

「なるほど。だが、そこにその書物を解析できるような設備とかがあるのか?」

「現場主義。」

「はぁ?」


 予期せぬ葵の言葉に、リュオンも翔もあっけにとられた。


「葵さん、それって・・・」

「全ての始まりは学院。そこに戻って、状況をもう一度詳しく調査する。どう思う?」

「い、いぇ・・・手掛かりが少ない状況では、妥当な手立てかと・・・」


 どうしたものか、言葉尻がビシバシ硬質化している葵に、翔は慎重な対応を試みた。

 だが、無神経なもう一人のやからによって、その翔の配慮も木っ端微塵に粉砕される。


「要は根拠はないが、カンって訳だな」

「・・・」


 ジロリとリュオンを睨み付ける葵。

 どうもこの二人、最初っから相性が悪そうだ。

 普段は丁寧な葵も、リュオン相手だけは非常に不機嫌な口調で対応している。


「わたしたちの国には“急がば回れ”という格言があります」

「それを地で行くと?」

「そうです。」


 葵は、これで議論は終わりとばかりにきっぱりと言い切ると、いいわね、と翔に同意を求めてくる。いや、これまた選択肢のない選択なのだが。


「勿論です、葵さん。喜んでお供します」


 速攻で頷く翔。今日、また一つ学んだことがあった。機嫌の悪い時の葵の取り扱いは慎重に──ってことだった。


               ★  ★  ★


「葵さん。あきら高国たかくに先輩にも連絡しませんか?」


 リュオンと別れた翔と葵は、学院に向かう路を歩いていた。

 先程から無言で何かを考えている葵に、翔は言葉を掛けるタイミングを量っていた。

 どうも、葵の機嫌が悪い。そして、その理由が皆目見当も付かない翔には、とりあえず慎重に対応する以外に策が無かった。


「二人とも、心配していると思いますし、状況を説明した方が・・・」

「黙って。」


 唐突にそう言うと、葵は翔の手を引っ張って人通りの多い本通から、人気のない脇の狭い路地に引き込んだ。


「あ、葵さん・・・」


 小さく柔らかい手が翔の口を押さえた。しっ、と小さく言うと、葵は翔に角の向こうを指し示した。


琉央るおう・・・”


 翔が相手を認識したことを見取ると、葵は翔の耳元で呟いた。


「関連性がある、そんな気がするの」


 確信は無いのだけど──そう付け加えた葵に、翔は黙って頷いた。

 いや、密着するように立つ葵の暖かみを感じて、不甲斐なくも硬直してカクカクと首を振っているだけの状態だったが。


「行きましょう」


 囁くように言うと、葵は翔の手を引いて本通りにでた。そのまま、人混みの中縫って巧みに琉央を追っていく。


「あ、あ、葵さん・・・」

「黙って付いてきて。」


 葵さんって、予想外に運動神経が良いんだ──唖然としながら手を引っ張られていく翔は、そんなとんちんかんな事を思っていた。いや、翔がぼーっとしているだけで、多少の才覚が有れば、尾行も出来ることなんだろうが。


「学院に、向かってる・・・」


 琉央の後を追って、翔と葵は駅周辺の繁華街を抜けた。周囲は住宅が多くなり、それにつれて人通りも少なくなっていく。

 間違いない──琉央はUNO学院に向かっている。

 住宅街が切れた先には、学院しか存在しない。それを見届けると、葵は足を止めた。


「この先は、一本道だから」


 間違いようがないわ、と言う葵に、翔は小声で尋ねてみた。


「日曜なのに、学院に何か用があるんでしょうか?」

「理由はわからないけれど・・・」


 口を濁す葵。だが、どこか思い詰めた様子の葵は、翔の手をぎゅっと握った。


「葵さん・・・」


 品行方正・容姿端麗・頭脳明晰と欠点のない葵──たとえ自分がいたとしても、実質的にはあまり役に立たなくても──大丈夫、僕が付いていますと伝えたくて。翔は自分からも、握る手にそっと力を込めた。華奢で小さな手──葵の手は、思ったよりひんやりと冷たかった。


               ★  ★  ★


 住宅街が切れてから学院の正門までは並木道となっていた。ここは視界を遮るものが両脇の木々しかないので、少し距離を置かないと先に歩いている相手からはっきりと見られてしまう。そのため、住宅街のはずれで琉央が正門を入っていくのを見届けた後、翔と葵は学院までの最後の部分を足早に進んだ。


「まず最初に何処に行きます?」

「学部棟の、屋上」

「現場主義ってことですよね、葵さん?」


 そうねと、ちょっと笑って葵は答えた。その時。


「おや? 三奈瀬君じゃないか」

「御殿山君?!」


 エントランス・ホールを入ったところで、いきなり話しかけてきたのは御殿山貴人ごてんやまたかひと。翔のクラスメートだった。いつもの薄ら笑いを浮かべ、興味津々に翔と葵を見つめていた。


「へぇ・・・三奈瀬君って、二年の神和姫先輩と親しかったんだ」


 知らなかったなぁと、とぼけた様な口調で言う。


「御殿山君。悪いけど、僕たち先を急いでるんだ。失礼するね」


 行きましょう、と葵を促して立ち去ろうとしたところ、背後からたっぷりと毒を含んだ声が追っかけてきた。


「それにしても・・・三奈瀬君も気の毒だね。おかしな先輩につきまとわれて」


 葵の歩みが止まると、僅かに躰を強ばらせる。それを目敏く見つけた御殿山はせせ笑った。


「おや、先輩。何か心当たりでもあるのですか?」

「御殿山君! 変な言いがかりは止めなよ!」

「言いがかり? 失礼だね三奈瀬君。大体君は、その先輩が文芸部で何をしたか知ってるのかい?」

「先輩が何をしたって言うんだよ!」

「盗作さ。」

「なっ・・・」

「賤しくも、物書きを目指している人が禁忌の盗作とはね。関係者一同はあきれ果ててるってさ。それに、その謝罪もしないで、逃げる様に文芸部を辞めていった──そうですよね、神和姫先輩?」


 御殿山の言葉が、葵に突き刺さる。

 無表情で俯いている葵を励ます様に、翔は手を強く握って言った。


「他人を讒言ざんげんする様な話は聞けないよ。葵さん、行きましょう」


 葵の手を引っ張ると、エントランス・ホールから歩き出した二人を、容赦ない声が追っかけてくる。


「事実は隠せないよ。三奈瀬君、僕からの忠告だよ。そんな先輩と付き合うのは止めなよ。そうじゃないと・・・」


 一拍おいて、その致命的な言葉を投げつける。


「その、“魔女”に誑かされるよ」


 何かがぶちっと翔の中で切れた。もう我慢の限界だ。拳を握りしめて振り返ると、御殿山が走ってリフトに乗るのが見えた。


「まてっ!」

「あっ、翔くん!」


 葵の止める声を振り切って、翔は御殿山を追っかけた。

 だが、寸前のところで御殿山の乗ったリフトの扉が閉まってしまう。

 他のリフトは他の階に止まっているのか、エントランスにはいなかった。


「くっ・・・だったら!」


 猛然と、翔は脇の階段を駆け上がった。今の暴言を、絶対葵に謝罪させる──怒り心頭の翔は、それだけを思っていた・・・。


☆☆ SCENE#2に続く ☆☆

 お待たせしました。STAGE04の開始です。STAGE01以来の、御殿山君の登場です。単発キャラかと思いきや、結構な悪役を張ってくれています(笑)。いきなりの自信に満ちた口調、いったいどうしたんでしょうかね? 謎の組織に改造手術でもうけたんでしょうか? その謎は・・・次回にご期待を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ