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幻界創世記  作者: 冬泉
幕間2
33/50

STAGE3.5◆「希望を、翔ばして」


神杯を送った少女は、何を想うのか・・・

恵久美流エクビル公国/公都恵久美流/龍の館/龍の庭園


 恵久美流エクビル公国。北西の海であるドラミディ大洋に面し、漠羅爾バクラニ旧王朝時代からの歴史を持つ古い国。漠羅爾バクラニ新王朝が成立し、その指導的な立場を新興の結都ケット太守領に譲ったものの、その勢力は相変わらずウェスタン、イースタン共に一目置かれる存在である。国名と同じ名を帯びる首府恵久美流エクビルは、現在では旧宗主国是居府ゼイフをも凌ぐ繁栄にあった。東西の交流も活発化し、イースタンの主要国はここに大使を置く様になっていた。


 恵久美流の王宮、『龍の館』は街の中心部に位置し、その背後には漠羅爾バクラニ旧王朝の始祖龍王が作ったと言われる広大な『龍の庭園』があった。庭園の中には岩が溶けた様な構造物があるが、これは二千五百年も昔、神聖スール帝国との激しい魔導の戦いで溶けてしまった旧神殿跡と言われている。


「ふわぁ〜」


 おっきな欠伸あくびをすると、その小柄な少女は大きく伸びをした。夜の間、庭園に灯されていた魔法的な明かりが次々と消えていく。朝焼けに染まる靄の中、幻想的な雰囲気が辺りには漂っていた。


「朝早くって、気持ちがいいね〜。うるさく言う人もいないし。伸び伸びしちゃうな」

「本当に一人っきりって思ったのか?」

「え!?」


 驚いて振り返ると、そこには仏頂面をした青年が一人。


「・・・全く。護衛されなきゃ危ない立場だって言うのに、ふらふらと一人で歩き回るなよ、お嬢」

透眞トウマ!」


 苦虫を噛み締めた様な顔付きに睨み付ける様な視線さえなければ、結構見られる顔なのだが──恵久美流エクビル公国四審武官よんしんぶかんの一人である透眞トウマは、小石を敷き詰めた小道をざくざくと足音をたてながら歩いてきた。


「そんなこと、判ってる! でも、この時間が“一番適して”るんだもの、仕方がないでしょ!」

「察して動く身にもなってくれ」


 昨日の今日だから、せっかく暖かい寝床でゆっくり寝ようと思っていたのによ、とぶつくさ文句を言う。“お嬢”と呼ばれた少女は、それがポーズだと判っているのか、天真爛漫な笑みを浮かべて聞いている。


「で? 旨く“観れた”のか?」

「うん。“杯”(CUP)は予定通り届いたわ。でもね、“護符”(TALISMAN)がないから、旨く使えないと思うけど」

「それは仕方がないんだろ? 二つ一緒になってしまったら、それこそ“彼奴等”の思う壺だ」

「そうなんだけどね〜」


 お嬢は唇を噛み締めると、眉根を寄せた。


「判ってはいるんだけど・・・。それでも、辛い事を押しつけなければいけないことが・・・ちょっと、ね」


 透眞は無言で、頭二つくらい身長が違うお嬢の頭を軽くポンポンと叩いた。


「気に病むなよ。お嬢は、やらなきゃいけないことをやってるんだ。選択肢も無いしな」

「うん・・・ありがとう、透眞。あのね・・・」


 その時背後からの殺気を感じて、透眞は咄嗟にお嬢の傍らから飛び退いた。


「な、何をする・・・って、お前達っ!」


 そこには、恵久美流エクビル公国四審武官の残り三人、真砂貴マサキ華衣ケイレンが立っていた。ひゅんと一振りして、真砂貴が構えていた漠羅爾バクラニの宝刀“彩雲”(さいうん)を鞘に収めた。


「おいおいおい! 一体何を考えてるんだ!」

「お前が璃奈姫りなひめに不埒な真似をしようとしているのを、真砂貴に止めて貰っただけだ」


 無言でいる真砂貴と呼ばれた青年に代わって、紅い長髪の娘が言った。


「華衣っ! オレはだな、お嬢が一人で突っ走らない様に教訓を・・・」

「・・・教訓、欲しいのですか」


 忍び寄る静けさの様な口調で言うのは、輝く様な銀色の髪を肩口で切りそろえた娘だった。その顔にも笑みはない。


「簾、お前さんまで・・・」

「判決は?」


 ざっと三振りの刀が引き抜かれ、地面を指し示した。


「う、わ・・・お、おい、お嬢! ちょっとお前からも言ってやってくれよ! オレはだな・・・」

「う〜ん、どうしようかなぁ・・・」


 にっこりわらうお嬢。冷や汗を流す透眞。じりじりと詰め寄る真砂貴、華衣、簾。因みに、かれらは恵久美流エクビル公国でも最も腕が立つ剣聖たちで、公主から“お嬢”こと、恵久美流公国の第一公女である璃奈姫の護衛を申しつかっていた。


「うふふ〜冗談冗談。みんなも刀を収めてね」


 笑顔で宣うお嬢に、三人は一礼して刀を鞘に収めた。


「みんなの力は、これから必要だから。これからが、本当に大変な事態になっていくからね・・・」


 一転して大人びた口調で言うお嬢に、四審武官の四人はその表情を引き締めて頷いた・・・。


☆☆ STAGE4/SCENE#1に続く ☆☆

 STAGE3/SCENE#3にちらっと出てきました、“お嬢”こと恵久美流エクビル公国の璃奈姫でした。葵に呼びかけてきた少女は、どうやらこの璃奈姫の様ですが、何の為に漠羅爾バクラニの神杯を葵に送ったのか、その意図とかは今後の展開で明確にされていくでしょう。あ、因みに恵久美流公国はオリエンタル風味の入ったアラビアンナイトの世界と思って頂ければ幸いです。名前とかに漢字を使っている点がオリエンタル風味ってトコですが(汗)。

 それでは、次回からSTAGE4「光と、舞と」です。光と闇は翔や葵にどんな影響を与えるのでしょうか。乞うご期待!

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