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幻界創世記  作者: 冬泉
第三章「開かれた扉」
32/50

STAGE03◆「開かれた、扉」-SCENE#10

次の手立てを話し合う三人は・・・

■葵自宅


 耳慣れない物音に、翔の意識は休息に覚睡した。

 小鳥の囀りが、朝日が薄く差し込む鎧戸の向こうが聞こえてくる。


「・・・あれ? ここって、どこだろう?」


 見慣れぬ天井に、寝慣れぬベッド。暫し考えていた翔は、あっと声を挙げた。


「そうだった。昨日の晩、泊まったんだ・・・」


 リュオンの挑発に乗ってしまい、優柔不断な自分らしからぬ積極的な行動を取った挙げ句、大胆にも葵に“僕も泊めて下さい”なんてほざいたのだった。昨夜の事ながら、翔はまだ顔が赤らむ思いだった。


「そうだ、こうしてはいられない。せめて、朝食の支度を手伝わないと」


 慌てて起きると、手早く身支度を整えて翔は部屋を出た。


               ★  ★  ★


「おはよう、翔くん。早いのね」


 翔が泊めて貰った部屋は、二階の南東角に位置していた。

 模様の彫り込まれた木の手摺りの階段を下りると、丁度キッチンから出てきた葵に出会った。葵は、クリーム色のブラウスに濃い茶色のスカートを併せ、その上に黄色のエプロンを掛けていた。手には、お盆に載せたポットとカップを持っている。

 一瞬見とれていた翔だが、思い出したように慌てて朝の挨拶を口にする。


「おはようございます、神和姫先輩。無理を言って泊めて頂いて有り難うございました。おかげさまで、ゆっくりと休めました。」


 丁寧にお礼を言った翔は、葵の顔に何とも言えない奇妙な表情──それは、顰めっ面とも言うが──が浮かんでいることに気が付いた。


「先輩? どうかしましたか?」

「名前」

「え?」

「名前よ、翔くん」

「え? え? え???」


 混乱する翔に、葵の黒い双眸が僅かに狭まった。


「名前で呼んで欲しいって言うことだろ、ショウ」

「えぇ!!」


 なんだ、驚く様なことなのか? と、階段を下りてきたリュオンが不思議そうに聞いた。


「アオイって呼んでやればいいだろ? アオイも“ショウ”って呼んでるんだしな」

「でも・・・」

「名前で呼ぶことは信頼関係の現れだぞ? それとも、お前達の世界ではそんなことわりは無いのか?」

「・・・いえ・・・」


 彰に聞かれたら何て言われるか──どっかずれた心配をしながらも、翔は腹を括った。


「それでは、これからは葵さん、と呼ばせて貰います」

「・・・いいわ」


 葵の笑みが深くなる。

 リュオンがにかっとわらって、早く朝食を食べようぜ、と即してくる。

 そんな朝の光景を、好ましく感じる自分がいることに、翔は多少驚きを感じながら、朝食の席に着いた。


「洋食だけど・・・」


 ちょっと躊躇いがちに葵が言った。

 コーヒーか紅茶、トーストにベーコンエッグ、ヨーグルトにチーズ。所謂、コンチネンタルスタイルの朝食だ。磨き上げられたナイフやフォークが銀色の輝いている。

 見事な手並みだなと思いながらも、手伝う余地が無かったことを翔はちょっと残念に思った。明日はもっと早く起きないと・・・そう思った瞬間、あぁ、と翔は落胆した。


“何言ってるんだ僕は・・・昨日の晩泊まったのだって予定外だったんだ。今日もって訳にはいかないよ”


 内心の忸怩じくじたる思いが表情に出てしまったのだろうか──翔は、少し心配そうに葵が自分を見つめていることに気が付いた。


「どうしたの?」

「いぇ、詰まらないことです」

「本当?」


 容赦なく切り込んでくる葵。

 翔は一つ判ったことがあった。葵は、自分に納得が行くまで追求する性格をしているということだ。

 この場合も、お茶を濁す様なことをいえば、返って深みにはまるだろう。ここは、正直に言うしかないが、有りの儘に言うのも恥ずかしい。


「これからのことを考えていました。どういう方針で行くのか、何か起きた時の対応はどうするか、そんなことです」


 少し脚色する。これなら、へんな話じゃないだろうと翔は考えた。


「難しいことを食事中に考えてると消化に悪いぞ」


 混ぜっ返すリュオン。


「・・・そうね。朝食を食べた後、三人で話し合いましょう」

「はい。お騒がせしました」

「ショウは生真面目だなぁ」


 パンを飲み込みながら、リュオンが笑って言った。

 昨日出会ったとは思えないほど、この場にとけ込んでしまっている。

 信頼出来る相手なのかなぁ、と思いながらも、翔は朝食に専念することにした。


               ★  ★  ★


「さて、方針を話すとしようか」


 朝食後。居間のソファに深く腰掛けると、徐にリュオンが口火を切った。


「杯について、知っていることを離して欲しいのだけれども」

「そうだな。そいつは“漠羅爾バクラニの神杯”って呼ばれている。強大な魔導の力を秘めているが、単体ではあまり使い道がない」

「単体? それじゃ、他にもこんな魔法の道具があるんですか?」

「あぁ。その杯の他に“護符”が存在する。護符と一緒になって、初めて杯はその真価を発揮するんだ」

「どんな力?」

「世界をも変えてしまう、強大な力さ。到底、人が簡単に扱えるもんじゃない」

「・・・そんなものが、なんで僕たちの所に現れたんですか?」


 翔は、意識的に“僕たち”と言った。実際のところ、杯は葵の所に現れたのだ。だが、そう言うと、まるで葵のみに杯が存在する責任があるように聞こえてしまうではないか。だが、それはリュオンの次の言葉で考えすぎだと判った。


「アオイやショウに魔導的な力が無い以上、誰かがお前達の所に送ってきたと考えるのが道理だろうな」

「それが・・・あの少女?」

「あぁ。そう考えるのが自然だ」

「金杯を送ったのが、葵さんが声を聞いた少女だとして・・・どうしてそんなことをしたか、という疑問が残ります」

「要はその点だ。そこんところが判明すれば、“破滅の騎士”(DREAD KNIGHT)がこの世界に現れている事も解明するだろう」

「そうですけど・・・それを調べる手立てに欠けるって思いますが?」

「オレには頼らないのかい?」


 悪戯っぽくリュオンが笑っていった。


「その点は協力をお願いします」


 わたしたちには無理だから、と葵が眉根を寄せて言った。


「じゃ、アオイたちはどうするんだ?」

「・・・翔くんと二人で、気がかりな点を調べます」


 そう言うと、葵はAD&Dのマニュアルを出して見せた。


☆☆ STAGE#3.5に続く ☆☆

 STAGE3の最終回です。多少の動きは出てきたかなぁ・・・(希望的観測)。色々書かなければいけないことが多々出てきているのですが、消化するのに精一杯でなかなか先に進んでくれません。

 さて、次は幕間です。多少毛色の変わったものに・・・なるかな? 何はともあれ、乞うご期待。

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