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幻界創世記  作者: 冬泉
第三章「開かれた扉」
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STAGE03◆「開かれた、扉」-SCENE#8


翔と葵が直面する問題に、どんな選択肢があるのだろうか・・・

■公園→葵自宅


 剣をすらりと腰の鞘に収めると、リュオンと名乗った金色の戦士は片膝を付いて、葵に対して優雅に一礼した。


「それで? 俺が呼び出される栄誉に浴したお嬢ちゃんの名は何という?」

「・・・」

「おいおい、黙りはないだろ?」


 呼び出したのは間違いでした、っていうオチは無しだぜ、と皮肉っぽい笑みを浮かべて言う。


「・・・あおい。神和姫葵かみわきあおい

「そうか、お嬢ちゃんはアオイっていうのか。」

 少し逡巡した後、葵は自分の名前を口にした。そんな葵の内面の葛藤を余所に、ふむそうか、などとのたまわったリュオンはアオイ、アオイと口の中で何度か唱える言ってみた。


「そっちの坊主は?」

「三奈瀬 みなせしょうっていいます」


 無駄な抵抗をせずに、あっさり名乗る翔。

 葵の視線を、ちょっと怖く感じたのは秘密だ。


「ミナセ・ショウか。アオイ、ショウ・・・。よし、覚えたぞ」


 爽やかな笑みを浮かべる相手に、翔は今日何度目かの目眩を感じた。


「あなたは一体・・・」

「おっと。そろそろ排他結界が切れるぞ。このまま、ここにいては不味かろう?」


 どういう事ですか、と聞きかけた翔をリュオンは遮った。


「ここから余人を遠ざけていた魔法的な結界の効力が切れる。誰彼構わず、この状況を見られては不味いんじゃないか?」

「・・・わたしの家が近くです」

「先輩!」

「選択肢は無いわ、翔くん、行きましょう」

「ふ・・・アオイは理解が早いな」


 安全面を考えると、この得体の知れない人物を葵の家に上げるなど、翔には大いに異論があるところだったが、他に妙案も思い浮かばない。

 翔は慌てて、先に歩き始めた葵とリュオンの後を追った。


               ★  ★  ★


 葵の家は、街の北にある少し小高くなった高台の上にあった。

 人目を避けて大回りした三人は、たっぷり一時間歩くことになった。

 その代わり、誰にも会わずに葵の家まで辿り着くことが出来た。


「・・・ここが、先輩の家ですか?」

「えぇ、そうよ」


 大きな敷地だなぁ、と門の左右に続く生け垣を眺めながら翔は思った。

 葵はツタが絡まった古い門に手を掛けた。ぎぃ、と言う軋んだ音をたてて門が開く。

 翔とリュオンが中に入ると、葵は門を閉ざすと二人を先導して歩いていく。


 そこは、まるで深い森の中に居るような感じを受ける場所だった。

 玄関までの狭い車道は、周りを濃く生い茂った木々で囲まれている。

 緑のトンネルと言えば多少ロマンティックにも聞こえるが、翔は多少重苦しいものを感じていた。

 緩い右曲がりの坂を上がると、古びた洋館が見えてきた。

 こんな街に、こんな建物が・・・翔が驚きを隠せずにいると、葵が静かな声で説明した。


「ドイツ人が戦前に建てた家──百年は経っているわ」

「そうなんですか・・・」

「珍しい?」

「・・・はい、少し」


 そう、と呟くと、葵は大きな玄関の扉を開けた。そしてゆっくりと振り返ると静かな声で翔とリュオンに言った。


「神和姫の家に、ようこそ」


               ★  ★  ★


 通された居間は、天井が非常に高かった。

 日が差し込んでくる大きな窓からは庭が見えるが、それは玄関のとは反対側に位置しているようだった。


「洋式の家だけど・・・日本式の、所謂“洋式”とはぜんぜん違うな・・・」

「座らんのか?」


 初めての場所で緊張気味の翔とは異なり、リュオンは暖炉の前に置かれたどっしりとした椅子の一つに無造作に腰掛けていた。


「・・・落ち着いてますね」

「ん? そうか?」

「はい。ご自分がおかれた状況に順応しているように見えますが」

「そんなもんは経験の差だろうよ。今は絶体絶命の危機に陥っている訳でもないしな。懸念すべき点はとりあえず何もない」

「そんなものなんですか?」

「そんなもんさ」


 事無げにリュオンは言った。

 翔には、その態度が特に強がっているようにも見えなかった。

 色々な経験に、この自信は裏打ちされているのだろうか──そんな風に翔が思っていると、葵が戻ってきた。手には、三人分の茶器を載せた銀盆を持っている。


「どうぞ」


 翔とリュオンの前にカップを置くと、白磁のティーポットから薄い色のお茶を注ぐ。


「薬湯か?」

「カモミール茶。心が安まるわ」


 そうか、といいながらリュオンはカップに口を付けた。一口飲んだ後、一気にカップを干す。


「なかなか旨いな。もう一杯入れてくれ」


 葵はリュオンのカップにお代わりを注ぐと、自分のカップにもカモミール茶を注ぐと椅子に座った。

 暫く、暖かいお茶を堪能した後。


「なぁ。差し支えなかったら、何がどうなっているか話してくれないか?」

「・・・いいでしょう」


 葵はちらりと翔を見た後、これまでの経緯を話し始めた。屋上で、突如“声”が聞こえ、そして空中から金色の杯が現れたこと。そのまま意識が無くなり、気が付いたら保健室で寝ていたこと。自分が気が付くまで待っていてくれた翔と二人で下校中に、あの黒い影に襲われたこと・・・。


「その金色の杯を見せて貰えるか? 先程ちらりと見たが、どうも俺の知っているモノかも知れないからな。いや、心配するな。何も何もしないさ」


 じっと見つめてくる葵に、命まで助けてやったのに信用しないのか、と苦笑しながらリュオンが言った。

 葵はどうするだろうか、杯を見せるしかないのかな、と翔が考えていると、判りましたと小さく言って葵が鞄から金色の杯を出してテーブルに置いた。


「ふむ・・・。やはり、な」

「これがなんだか知ってるんですか?」

「あぁ。こいつは、俺の世界の“神遺物”(ARTEFAKTE)に間違いない」

「“神遺物”?」


 耳慣れぬ言葉を聞いた翔は、思わず葵と顔を見合わせた。


「そうだ。魔法のアイテム──所謂、魔法的な道具ってやつだが、それよりも遙に強力なものと思えばいい」

「・・・魔法の、道具・・・」

「そんなものがどうして、ここに現れたんですか? それに、先輩が聞いたって言う声──あれは、なんなのですか?」

「一つ一つ説明するから、慌てるな」


 翔をやんわり制すると、リュオンは説明を続けた。


「アオイだけにその“声”が聞こえたんだな?」

「えぇ、女性の声だった。少女と言った方が、良いかも知れないけれども・・・」


 翔くんには聞こえなかったわね、と確認する葵に、翔は首を縦に振った。


「そうか。するってと、アオイ。お前さんは“龍の姫君”の加護を受けたったことになるな」

「・・・龍の、姫君?」

「あぁ。そうでなければ、その金杯がアオイのとこに顕れる訳がない」

「それって・・・」


 聞くべきか迷ったあげく、結局翔はその疑問を口にした。葵に対する配慮が足りないかなとは思ったが。


「それって、良い悪いでいうと、どちらに当たるんですか?」

「今のところは、良い兆候と思ってもいいだろ」

「そうなんですか?」

「あの影にやられそうになったところを助かっただろ。十分に良い兆候じゃないか」

「・・・どちらでもない、と言うのがこの場合正解のようね」


 冷静に突っ込む葵に、リュオンは厳しいねぇ、と言いながらも全く動ぜずに笑って言った。


「まぁ、一つだけは確実だろう。金杯とあの影──DREAD KNIGHT(破滅の騎士)って俺らは呼んでるんだが──の出現には、何らかの関係があるってことだ。どんな関係か、まずはそれを調べないとな」

「調べるって・・・リュオン、それは僕たちに協力してくれるってことですか?」

「何言ってるんだ。お前たちだけで、この事態をどうやって解決しようっていうんだ? それにな、召喚されたからには、その“目的”が達成されないと俺も帰れないのさ」


 呆れた表情でリュオンが言う。


「アオイもショウも、剣も魔法も全く駄目なんだろ? 次にアレに襲われたら、それこそ瞬殺されるぞ」

「そんな・・・」

「身をもって体験しただろ? 微塵も躊躇する相手じゃないさ。さぁ、はっきりしろよ。お前たちには、俺が必要なんだ」

「・・・判ったわ。お願いします」


 黙って聞いていた葵が、ゆっくりと頷いた。


「理解が早くて助かるよ」

「翔くんも、いいわね?」

「止むを得ませんね。他に選択肢もなさそうですし」

「よし。それじゃ、盟約を結んだ記念に握手するか」


 笑顔で差し出された右手を、葵と翔は交互に握った。それは、非日常的な激動の渦中に巻き込まれるサインでもあった・・・。


☆☆ SCENE#9に続く ☆☆

 お待たせ致しました、SCENE#8をお送りします。なにやら説明が多くなってしまいましたが、これでも長すぎないように削った積もりです。まぁ、へっぽこ文章なので、過剰な期待をせずにお願い致します(笑)。

 次のSCENE9では、もっと動きが出てくるかと思います。刮目してお待ち頂けるとウレシイです。

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