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幻界創世記  作者: 冬泉
第一章「出会いは唐突に」
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SCENE-02◆「最悪の遭遇」

葵と亜里砂登場。葵を怒らせた翔と彰は…

■UNO学院/学部棟/高等部二年/2-A教室


 UNO学院の昼休みは1時間と長い。この時間は、生徒にとって至福の時。一日の中で、最も活気がある時間だ。午前の授業が終わるやいなや、どの教室も毎度の如く喧騒の場となる。

 神和姫葵かみわきあおいは、黙って頬杖をついたまま窓の外に視線をさ迷わせていた。眼下の白い校庭には空から燦々と陽光が降り注ぎ、抜けるような空が蒼い。


「・・・あおい。ねぇ、葵ってば」


 はっとして声をしたほうを向くと、親友の高国亜里沙たかくにありさの心配そうな表情が目に入る。


「え? どうしたの?」

「え、じゃないわよ。ぼーとしてどうしたの? 具合でも・・・」

「どこも悪くないわ」

「それならいいけど。ね、もうお昼よ?」

「そう・・・ね」


 教室では、思い思いの組み合わせで生徒たちがお昼を食べ始めていた。


「今日は、お弁当?」

「うぅん。購買部」

「じゃ、早く行きなさいよ。さいてーのしか残らないわよ、この時間だと」


“どうでも、いいんだけど”


 心の中でため息をつく。そんな想いが表情に出たのか、亜里沙が怖い顔をして言った。


「ほらほら、きちんとお昼を取らなきゃ病気になっちゃうわよ! なんでもいいから、あるもの買ってきなさいよ!」

「え、えぇ・・・」


 諦めて席を立つ。食欲なんて全然なかったが、形だけでも食べないと、またこの怖い親友に心配をかけてしまう。


「先に食べていてね、亜里沙」

「待ってるって! だから、早く買ってきなさいよ」


 ちょっと苦笑い。どうしても急がなくてはいけなくなった。財布を鞄から出して教室を出ると、突然自分の名前が呼ばれる。


「先輩、神和姫先輩!」


 驚いて声がしたほうに振り向くと、日に焼けた男子生徒が廊下を走ってきた。


「ちわっす! 覚えてますよね、先輩。河邑っす」

「河邑くん・・・?」


 胸のネーム・プレートは「青」・・・つまり、1学年下だった。浅黒い顔に浮かぶ、その屈託ない笑顔には見覚えがあった。


「・・・この間、図書館で本を運ぶのを手伝ってくれた?」

「ピンポーン、そのと〜りっす!」


 満面の笑みを浮かべて、おもいっきし頷く彰。


「今日はちょっ〜ち先輩にお願いがありまして・・・。あっと、先輩。こいつ、ダチの三奈瀬って奴です」


 彰の後ろには、いつのまにか男子生徒がもう一人立っていた。涼しげな、けれども意思の強そうな表情をしたその男子生徒は、丁寧に頭を下げる。


「1年の三奈瀬翔です。すみません先輩、お忙しいところをお邪魔して」

「何か、私に用?」

「はい。創作物に関して、先輩のご意見を伺いたいと思いまして・・・」

「創作物?」

「そうっす。この間UNOテレビでやってた“最後のユニコーン”のラストが気に食わないって翔と二人で話してたんすが、それならって翔がオリジナルのラストを書いてみたんす。その批評を先輩にお願いできないかなって考えたんすが」

「私に?」

「先輩、文芸部の部長っすよね? そう言うことはお手のもの、朝飯、あっと今だと昼飯前じゃないかって・・・」


 笑顔で言いかけた彰は、思わず言葉を飲み込んだ。話を聞いていた葵の表情が、目に見えて強ばったからだ。見ると、小刻みに躰が震えている。


「あ、あの、先輩・・・」

「ごめんなさい。友達を待たせているから・・・」


 葵の態度の急変に、二人は戸惑った。抑揚のない声で目線を合わせずに言うと、葵は二人の間を抜けるようにして、足早にリフトのほうに歩み去った。声を掛けようとして、翔は思い止まった。小さく嘆息すると、余りの状況に呆然としている彰に声を掛ける。


「・・・行こうか、彰」

「あ、あぁ・・・」


 葵が歩いて行った方を未練がましく見やると、彰は大きなため息をついた。


「わりぃ、翔。どうも、俺、調子に乗りすぎちまったようだ」

「いいんだ。もともと、こっちが押しかけたんだ。縁がなかったと思えば何でもないよ」

「そ、そうだな」


 きびすを返して、立ち去ろうとしたとき。


「ちょっと、あんたたち」


 髪を肩の線で切りそろえた、気の強そうな女生徒が睨んでいた。胸章を見ると、「高国」と書いてある。


「はい?」

「あんたたち、葵に今何言ったの?」

「あ、いえ・・・創作物を読んで貰って、批評をお願いしようと思ったのですが・・・」


 怒った表情の亜里沙に訳がわからず、怪訝そうな二人。


「あんたたちねぇ・・・葵は文芸部やめたのよ」

「えっ? 本当っすか、それ!」


 驚く彰に、亜里沙は冷たい声で言う。


「本当よ。当分、葵は“文芸”には一切関わりたくないって言ってるわ」


 翔は素直に頭を下げた。慌てて彰も後を追う。


「すみません、全く知りませんでした」

「ほんとにすまんこってす」


 ふぅっと嘆息すると、亜里沙は恐縮して謝る二人を見て態度を少し和らげた。


「あたしに謝ってもらっても仕方がないけど・・・まぁいいわ。葵には、後で言っといてあげるから」

「すみません」

「すんません」


 翔と彰はもう一度亜里沙に頭を下げると、その場を立ち去った。



 二回目です。翔や彰と並んで、物語の核となるキャラクター「葵」が登場しました。今後とも活躍してくれる・・・かなぁ? 最初の出だしで、何か躓いているような感じを受けるのは私だけでしょうか? やれやれ・・・。

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