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幻界創世記  作者: 冬泉
第三章「開かれた扉」
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STAGE03◆「開かれた、扉」-SCENE#6


翔の危機に葵が叫ぶ。一体何が起きたのか・・・

■UNO学院→葵自宅


“夢・・・じゃないよね”


 何度目だろうか──どうしても信じてくれない疑り深い自分に納得させる為、翔はそっと隣を盗み見た。

 間違いない。今、自分は神和姫先輩と一緒に並んで歩いている・・・! 無論、それも道理だった。何せ、自分が先輩を自宅まで送ると言ったのだから。


               ★  ★  ★


 空中から金色の小杯が現れるという、如何にも眉唾物のような非日常的イヴェントに遭遇後、葵は一時的に人事不省で倒れてしまった。暫く保健室に厄介になった後で意識を取り戻した葵に、“どうしても送る”と翔が言い張って──現状に至るという訳だった。


 自分がイニシアティブをとって起こした結果ではあったものの、それでも事態をすんなり受け入れるほど自分の精神は柔軟では無いらしい──何度も、隣を歩く相手を確認しては、翔は信じ難い事実を少しずつ自分に信じさせる努力を繰り返していた。


「・・・どうしたの?」


 不意にその“信じ難い事実”から声が掛かった。

 これが、鈴が鳴るようなって声なんだな、と莫迦なことをぼんやりと考えていたら、いきなり顔を覗き込まれた。


「三奈瀬くん、大丈夫?」


 顔が紅い→熱があるのでは?→こんなこと(自分を送る)をしていてもいいの? という三段論法が、某番組の様なジェット・ストリーム・アタックを掛けてきた。

 おいおい自分、惚けている場合じゃないぞ・・・と心の中で突っ込んでおく。


「あ、いえ。人混みが雑踏だなぁって・・・」

「?」


 意味不明な発言を悔やもうにも、翔の頭は旨く働いていない。

 大体、今日だって、この間だって葵と話していたのに、どうして今になって自律神経失調症みたいになるんだ? 先程からの自分は、どうにも腑に落ちない。

 きょとんとして見返してくるその無防備な表情に一層の目眩を感じ、翔は気を取り直すようにぶんぶんと頭を振った。所詮自分には旨い言い逃れなど出来ないのだから、正直に言うしか無いのかも──溜息を付きながら、翔は思った。


「・・・ちょっと、緊張しているみたいです」

「どうして?」


 瞬間反射で言葉が返ってくる。

 考えていられる時間の余裕なんて全く与えられない。


「え、あ、う・・・えぇとですね、先輩とお話しているのに緊張を感じるというか・・・」

「いつものことでしょう?」


 あぁ、どんどん逃げ場が無くなっていく。

 確かに、いつもの事だった。だが、そのいつもの事に自分は凄く緊張しているのだ。


「・・・具合が悪いの?」

「それは、無いです。」


 きっぱりと返した。具合なんて悪くない。


「信じがたい事実ですが・・・どうやら、先輩と一緒にいることで緊張しているようです」

「・・・そう、なの・・・」


 葵のトーンが急激に下がる。

 はっと思った時には手遅れに成り掛かっていた。心の中で警鐘が鳴る。


「あ! 先輩と一緒にいることを迷惑に、だとか感じている訳じゃありません! 誤解無きように言わせてください。僕は今の現状を不快にも、不満にも、不本意にも思っていませんから!!」


 強調に強調を重ね、打算無しに自分が感じていることを吐露する。捨て身の行動が功を奏したのか、葵の表情が少し明るくなる。


「・・・無理、していない?」

「全く! 微塵も! 一片たりとも!!」

「・・・良かった・・・」


 その笑みは、翔の心を一振りでなぎ倒した。“痛恨の一撃”ってヤツである。相手が、そのことを意識していないから不意打ち効果も抜群である。翔の目眩は一層強くなるようだった。


「・・・言い難いことなんですが・・・ちょっと免疫が無くなってしまったと言うか、何というか・・・」

「免疫?」

「・・・はい、免疫です。先輩と話していて、いつもの平常心がどうにも保てない、といったところです。」


 三度目の突っ込みに、“もう自棄だ!”と翔が思ったかどうかは定かではないが、気が付いてみれば、翔は自分が感じていることを素直に白状してしまっていた。念のためにいうが、全ては自発的にである。


「そう、なの?」

「はい。でも、けっしてそれが嫌だ、ということではないんです。どちらかと言えば、その逆だと・・・」


 顔は真っ赤に染まって、見られたものではないだろう──みっともないなぁ、との想いは、次の瞬間綺麗さっぱり吹き飛んだ。


「・・・嬉しい・・・」


 う、嬉しい?

 嬉しいですか?

 神様、一体全体何がどうなっているんですか?


 翔の混乱と困惑を余所よそに、状況は余談を許さないものに急転直下していた。

 翔の貧弱な対人対応限界など、とうに越えている。

 それでも、言わなければいけないことがあった。心には心で答える──これだけは、どんなことがあっても忘れないと肝に銘じたことだ。


「そう思って頂ければ、僕も嬉しいです」


 明快に、明確に。そして、きちんと自分の思いを込める。

 葵が何を不安に思っているか翔には判らないが、そんな不安を吹き飛ばすように、自ら率先して自分の心を開いてみせる。二度と、過去の過ちは繰り返さない。


「ありがとう、三奈瀬・・・翔くん・・・」


 想いが心に架け橋を創る時──その意思の力は大きな変革を促すのかも知れない。それが内的なものであれ、外的なものであれ──己が世界に没頭し、時間と状況が見えなくなるのは世の常だろうかと。


 互いの話に深く入り込んでしまっている間に、翔と葵は大きな公園まで歩いてきていた。ここを抜ければ、葵の家がある高台に辿り着く。

 周囲の状況には人一倍注意深い、何時も通りの二人であれば気が付かない訳がないのだが──公園に入った時から、ぴたりと人通りが無くなったことに全く気が付かなかった。その注意の大部分をお互いに向けている状況では、気がつけと言うこと自体が無理なことだったのだが・・・


 葵の歩みが不意に止まった。どうしたのだろうと翔が思う間も無く、鋭い声が耳朶を打つ。


「翔くん!!」


 どん、と押されてバランスを崩し、翔は地面に転がった。


“一体何が起こったんだ?”


 訳も判らず混乱する中、顔を上げて見ると、本日二回目の非日常が目に飛びこんできた。

 信じがたい状況に、思わず躰が硬直する。


「・・・せん、ぱい?」


 身を屈めるようにして、葵が立っていた。その肩口から、ぽたぽたと零れ落ちる深紅の流れ。葵に正対する黒い影の様な姿。その相手が手にした剣が、葵の肩を刺し貫いていた。


「先輩っ!!」


 己の叫び声が、その硬直を解いた。己が見たモノを否定するかのように、心が悲鳴を上げている。そんな状態なんて受け入れられない──翔はただ我武者らに、何の妙味も工夫もなく、相手に飛びかかった・・・。


☆☆ SCENE#7に続く ☆☆

 お待たせしました。前回のほえほえシーンから一転、急転直下になります。“黒い影の様な姿”ですが、剣以外は薄ぼんやりとして輪郭がはっきりしない、と思って下さい。ゲーム的にいうならば、UNDEAD(死人)であるWREITHやSPECTRE(LOTRのRingwreithに似ていますが、そのものズバリではありません。かれらの正体がなんなのか──それは、次回をお楽しみに。

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