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幻界創世記  作者: 冬泉
第三章「開かれた扉」
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STAGE03◆「開かれた、扉」-SCENE#5


遠くから聞こえてくるその声は・・・

■UNO学院/本部棟/医療室


『・・・える?』


 不意に声がした。周囲は真っ暗だから、夢の中だろうかと葵はぼんやりと思った。


『・・・聞こえる?』


 まただ。夢の中かもしれないけれど、はっきりと聞こえてくる。答えるべきかちょっと逡巡したが、結局はその明るく朗らかな声に応えることにした。


“えぇ・・・聞こえるけれど・・・”


『・・・良かった。今は一度しか言えないから、良く聞いてね』


“・・・はい・・・”


『あなたに送った杯(CUP)・・・あれを、絶対に手放しちゃ駄目よ』


“杯・・・金色の杯のこと?”


『そう、それよ。大事なものだから、誰にも渡さないでね』


“・・・どうして?”


『今は理由を言えないわ。でも、あなたにとってとても大事なものだから、誰にも託さずに、必ずあなたが持っていてね』


“・・・判ったわ・・・”


 なんで了解したのか、自分でもはっきりとその理由がわからなかった。

 でも、その朗らかで明るい声には、全く邪気を感じなかったから──それが理由と言えば理由なのかも知れない。


『ありがと。あ、そろそろ時間だから。お姉さん、また逢いましょうね』


 声が遠くなっていく。葵は、はっとなって問いを発した。


“・・・ちょっと待って・・・あなた、お名前は?”


『・・・な・・・り・・・な、よ・・・』


 遠くから、途切れ途切れに聞こえてくる声。その声が遠離るにつれ、葵の意識もだんだんと闇に沈んで行った・・・。


               ★  ★  ★


 まぶしさを感じて、葵はゆっくりと瞳を開いた。

 折からの夕陽が、保健室の窓から差し込んできていた。

 気怠さが残る躰には力がまだ入らない。そのまま、ベッドに横になっていることにした。


「杯・・・」


 手の中には、冷たい違和感があった。

 そっと上掛けから出してみると、それは確かに金色の小さな杯だった。


「夢・・・じゃなかったの・・・?」


 夢ではない。厳然と、その金杯は葵の手の中で鈍い輝きを放っている。


「あ、先輩。気がつかれましたか?」


 不意に保健室の扉が開いて、見知った顔が入ってきた。手には葵の学生鞄を二つ下げている。


「失礼します、先輩。ご気分は如何ですか?」

「・・・大丈夫。まだ、力が入らないけれど・・・」


 失礼にならないように慎重にベッドから距離を取って、翔は窓際に寄りかかった。

 そんな気配りを少し嬉しく思いながら、葵は一つ下の後輩の顔を見つめた。


「・・・運んでくれた?」

「はい。先輩、屋上で突然倒れてしまいましたので」

「・・・そう・・・」


 わたし、倒れたんだ──はっきり覚えていないのだが、ここにこうして寝ているのだから、倒れたというのは本当なのだろう。


「・・・ありがとう・・・」

「え?」

「・・・あなたに、お礼を。運んで、くれたのでしょう?」

「そ、そうですが、特別なことをしたとは・・・」


 思っていません、と慌てる相手をほほえましく感じて、葵は自然な笑みを向けた。これが、相手をますます混乱に追いやるとは知らずに。


「先輩、お願いですからからかわないで下さいよ」

「・・・特に意図してはいないのだけど、そう感じたのなら、謝るわ・・・」


 叶わないなぁ、と情けない声を出す少年──その笑顔は、葵の胸に暖かく浸みていった。


               ★  ★  ★


「声が聞こえたのですか?」

「えぇ」


 少し落ち着いた後。葵は翔に椅子を勧めると、先程夢の中で聞いた声の話を話してみることにした。


「空中から、摩訶不思議に金杯が現れたのですから、夢で声を聞いてもおかしくないかもしれませんね」

「・・・信じる?」

「明確な事実が、目の前にありますから」


 翔は、葵の手の中に収まっている金杯を見ながら言った。


「・・・それでも、事実を突きつけられていても、信じ難いと言う思いは残りますが」

「・・・無理もない、ことでしょう?」

「そう、ですね」


 暫しの沈黙。


「あの・・・三奈瀬くん。亜里沙と河邑くんは?」

「高国先輩は、先輩の鞄を取って来て僕に渡した後、彰を引っ張って先に帰ってしまいました」

「先に、帰った・・・?」

「はい。あ、あと・・・先輩にしっかり頑張れって伝えてくれって・・・」

「・・・そう?」


 亜里沙が何を意図したのかは判らないが──葵は何故か少し目眩がする思いだった。一日の分量としては、十分以上の量だ。

 はぁ、と溜息をついて起きあがってベッドから降りる。手早く靴を履くと、脇に置かれた鞄を手に取って一瞬思案した後──金杯を中に仕舞うと。パチンと留め金を鳴らして鞄を閉じた。


「先輩。ご迷惑で無ければ、送らせて下さい」

「え?」


 驚いた様に、相手の顔を見る。

 その相手は、真剣な表情を浮かべていた。その顔を見ていると、何故かひとこと、突っ込んでみたくなった


「・・・どうしても?」


 がくっと擬音が聞こえる様な感じで、まるで肩すかしを食った様に翔がずっこけた。吸って吐いてを数回繰り返して心を落ち着かせた後。気を取り直して思わぬ反撃を行ってきた相手に答えた。


「・・・どうしても、です。先輩をお一人で帰らせる訳にはいきません」


 その、妙に力んだ物言いが心の琴線に触れたのか。葵は自然に笑みを浮かべると丁寧に頭を下げた。


「・・・お願い、致します・・・」


☆☆ SCENE#6に続く ☆☆

 なんだか、訳が判らない展開が訳の判らない所で止まりました。どうなる事やら、ははは(乾笑)。まぁ、表面的にも内面的にも、変化が起きていると言った所なのでしょうか。何でもない、何ともないシーンでしたが、結構な難産でした。葵も翔も、あまり自分から積極的にしゃべらないキャラです。話が一向に進んでくれなくて、困った状態でした。次回は、金杯の謎が少しは・・・解けるといいなぁ。

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