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幻界創世記  作者: 冬泉
第三章「開かれた扉」
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STAGE03◆「開かれた、扉」-SCENE#4


突如現れたその“もの”は、一体何を意味するのか?

■UNO学院/学部棟/屋上


「三奈瀬くん! とりあえず、葵を寝かせて!」

「判りました。悪いけど、彰も上着を頼む」

「あ、あぁ」


 上着を脱いで地面に敷く翔に習って、彰も慌てて制服の上着を脱いだ。

 翔はぐったりした葵を、そのそっとその上に横たえる。


「神和姫先輩、どうしちゃったんすかね・・・」

「判らないわ。あたしだって、こんなこと初めてだもの」


 物事には動じない性格の亜里沙も、流石に困惑した様に彰に答えた。


「神和姫先輩、なにかご病気でも?」

「あたしの知る限り、何もないはずよ」

「病気じゃない・・・か。やっぱり、この金杯に関係がある、と思った方が良いんだろうな」


 先程、不意に空中に現れた金杯。今も、葵の両手にしっかりと収まるそれは、ワイングラスほどの大きさで、鈍く輝いている。


「この金杯っていったい・・・」


 何なんだろう、と呟く様に言う亜里沙。

 何もないところから現れるなんて、到底普通でないことが今ここで起きている。

 理解出来ないという表情を浮かべているのは、翔も彰も同じだった。三人は惚けた様に、互いの顔と眠る葵を暫し見比べるだけだった。


「うっ・・・」

「神和姫先輩?」

「葵? 葵、大丈夫?」

「大丈夫っすか、先輩!」


 低いうめき声がその停滞を破った。まだぼんやりとした表情で、葵はその瞳をうっすらと開いた。


「あ、りさ・・・?」

「葵、話せる? どこも痛くない?」

「・・・大丈夫・・・躰に、力が・・・入らないだけ・・・」


 ゆっくりとだが、言葉を返してくる葵に、亜里沙は緊張を解く様に大きく息を吐いた。

 よかった〜、と翔も彰も安堵の表情を浮かべる。


「心配したわよ、ほんとに〜」

「・・・ご、めんなさい・・・」

「高国先輩。まずは、神和姫先輩を保健室に連れて行きましょう。こんな所に寝かせておけませんから。」

「そうね。葵、保健室に連れて行くから。ちょっと辛いかも知れないけど、暫く我慢してね。」

「・・・ん・・・」


 小さく頷くと、葵は眠る様に瞳を閉じる。そっと葵の髪を撫でつけてから、亜里沙は翔に言った。


「三奈瀬くん、頼める?」

「え〜っ! 何で翔なんすか! オレの方が適任ですよ〜!」

「アンタは黙ってなさい!」


 よこしまな考えを持っているヤツには頼めないわ! と亜里沙に一刀両断されて、彰は横暴だ〜と叫びながらさめざめと嘘泣きをしていた。

 もっとも、翔とてそんな光景をみる余裕が有る訳でもなかった。どうやって葵を運ぼうかと言う思考が、頭の中でぐるぐると巡っている。

 どうしようか、どうしようか、どうしようか・・・と悩んだところで、選択肢がある訳でもない。

 はぁ、と一つ溜息をついて、翔は意を決した。


「彰、上着を頼むね」

「わかってるよ」


 しゃ〜ないなぁ、と言う彰に頷くと、翔はそっと葵の背と膝裏に手を差し伸べた。


「先輩、持ち上げますよ」


 声を掛けると、翔は葵をそっと抱き上げる。

 思ったより軽い躰だった。

 先輩、きちんと食事してるのかななどと、場違いな思いに捕らわれる。


「以外に力があるのね、三奈瀬くん」

「これくらいなら大丈夫です。神和姫先輩、軽いですし」

「ま、“重量級”の高国先輩だと、翔じゃ無理っすけどね〜」

「なんですってぇ!」


 ちゃちゃを入れる彰に、拳を振り上げる亜里沙。

 そんな二人に笑みを浮かべていると、屋上の扉が不意に開くと、背の高い男子生徒が扉から現れた。酷薄な笑みと、影が差す様な雰囲気。翔はその名を知らずに口端に乗せていた。


「琉央・・・」

「やぁ、高国亜里沙さん。奇遇だね、こんなところで」


 努めて明るく振る舞う態度に、思い切りズレを感じる。

 見る間に機嫌を悪くした亜里沙がぶっきらぼうの極地、といった感じで対応する。


「アンタこそ、何しに来たのよ」

「ご挨拶だね。ここは共有の場だよ。誰に断る必要も無いと思うが?」

「じゃあ好きなだけいなさいよ。あたしたちは急いでいるんだから」

「ふふふ。君に言われるまでもない」


 敵意むき出しで相手に応じている亜里沙をみて、彰は驚いた様に翔に聞いた。


「誰だよ、あれ?」

「二年の琉央って先輩だ。どうやら、神和姫先輩と何かあったらしいけど、僕も詳しいことは知らないんだ」

「そっか。でも、見るからにいけ好かないヤロウだぜ」

「その点は、僕も同感だよ」


 小声で話していると、憤然と亜里沙が振り返った。


「三奈瀬くん、河邑くん! 行くわよ!」


 怒り心頭の亜里沙は、靴音高く歩いていく。屋上の扉を開けると、翔を手招きした。


「三奈瀬くん!」

「は、はい。今、行きます!」


 翔は慌てて頷くと、抱き上げている葵の位置をそっと直して歩き始めた。

 得体の知れない笑みを浮かべる琉央とは、慎重に距離を取る。

 彰も、翔と琉央の間に入って相手を牽制することを忘れない。

 こう言うところは頼りになるな、と翔は思った。


 「三奈瀬くん。一つ忠告しておこう」


 屋上の扉まで辿り着いて、ほっとして翔が緊張を解いた時。背後から声が追いかけてきた。


「彼女は災いを呼ぶよ。このまま関わっていると、君も“女神が織りなす運命のタペストリーに編み込まれてしまう”よ。そうなってからではもう遅い。慎重に考えるのだね」

「勝手に言ってなさい! 二人とも、行くわよ!!」


 怒声と共に、叩き付ける様に扉を締める亜里沙。翔が最後に見たのは、亜里沙の剣幕にも全く動ぜず、いつもの冷笑を浮かべる琉央だった。


☆☆ SCENE#5に続く ☆☆

 さて、“金杯”なるアイテムがでてきました。アイテム(ITEM)とは、ADnDで使われる魔法の道具を示すことばです。魔法的なもの(MAGIC ITEM)であることが多々あり、場合によっては、鍵となるもの(KEY ITEM)であることもあります。アイテムは、『鑑定』(IDENTIFICATION)をしなければ、その用途も能力も判らないことが殆どです。普通は、魔法使いに呪文(SPELL)を掛けて貰って、その用途と能力を特定してます。コンシューマーゲームに有る様に、手には入ったら即使えると言う訳ではありません。また、用途と能力が判っても、アイテムにその力を発揮させるには、『発動の言葉』(COMMAND WORD)を唱える必要がある場合が多いです。これも、前述の『鑑定』で調べることが出来ます。以上、ゲーム的な解説まで(笑)。

 ストーリーの方ですが、だんだんと混迷を深めている様な気がします(笑)。特に複雑にしようと意図しているのではありませんが・・・。

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