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幻界創世記  作者: 冬泉
第二章「仲間と呼ばれて」
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STAGE02◆「仲間、と呼ばれて」-SCENE#10


彰も参加し、いよいよ翔は葵にAD&Dを教わり始めるが・・・

■UNO学院/学部棟/屋上


「先輩っ! こっちっす!!」


 屋上に出ると、見事な夕焼けが空を染めていた。

 亜里沙との話が、予想以上に時間を取ってしまったことを申し訳なく思いながらも、待っている翔と彰のところに、葵は小走りに駆け寄った。


「ごめんなさい。来るのが少し、遅くなってしまって」

「構わないっすよ、全然!」


 脳天気に言い放つ彰に、翔は一瞬“お前が言うなよ”とでも言うように顰めっ面を向ける。

 だが、結局はこれが彰の本質だろうと思い直し、諦めるかの様に軽く溜息を付いた。


「気にしないで下さい、神和姫先輩。時間をとって頂いているのはこちらの方です。来て貰えるだけで、・・・嬉しいです」


 最後の一言は、言うのにちょっと勇気が要った。

 お互いに話す機会が増えてきたとはいえ、翔にとって葵はまだ“未知の人”だったからだ。

 真面目で物事に真剣に取り組み、合理的な考え方をする──そんな印象を、翔はこれまで受けてはいたが、それが葵の全てであるはずがないと思っていた。

 相手を知るという点では、最初の出会いの時から、翔はまだ一歩も先に踏み込めていない。


「今日はどんなことをするんっすか?」


 色々考えている翔の傍らで、何も考えていない彰は至ってお気楽だった。彰に言わせると、“色々考えても、結果が変わらないんなら、考えるだけ無駄だろ”と言うことになるらしい。

 見方によっては、これは考える努力を放棄していると言えるかも知れない。

 だが、悩み事が多い翔と違い、彰は至ってストレスが溜まらない得な性格をしていた。


「三奈瀬くん。どこまで、進んだ?」

「はい。職種(CHARACTER CLASS)の所は全て読み切りました。もう少しすれば、呪文の項目に入れます」

「そう・・・」


 翔は、努力の甲斐もあって、マニュアルを読むペースが大分早くなってきていた。

 葵は一つ頷くと、職種に関して幾つか質問を投げかけてみる。

 その何れをも、翔は正確に答えてみせた。確実に、理解のスピードは上がっているようだった。


「職種は、その人格(CHARACTER)の方向性を決める重要な要素の一つよ。戦士(FIGHTER)、巡察者(RANGER)、聖騎士(PALADIN)、僧侶(CLERIC)、ドルイド(DRUID)、魔導士(MAGICUSER)、盗賊(THIEF)、吟遊詩人(BARD)。戦士系は直接相手に立ち向かい、僧侶系は支援と回復を、魔導士は支援と解析を、盗賊は情報収集と罠や鍵の解錠を行う・・・」

「先輩、俺らって、その職種で言うとなにんなるんですかね?」


 唐突に彰が口を挟んだ。翔と違って、マニュアルを読んでいないので、中身の話をされても全く付いていけない。それ故に、発言の機会を狙っていたのだった。


「あなた方の、職種?」

「そうっす!」


 満面の笑みを浮かべる彰。やれやれと、空を仰ぐ翔。


「・・・そう、ね・・・。河邑くんは、戦士系(Worrier)だと思うわ。三奈瀬くんは・・・」

「僕は?」


 葵の双眸が翔のそれと交錯する。


「・・・僧侶系(Priest)、だと思うわ」

「僧侶系、ですか?」

「えぇ・・・。あくまで、わたしが感じたことだけれども」


 彰の“戦士系”は理解できる。スポーツ以外はまるで駄目の彰に、他に期待できることは無いだろう。しかし、と翔は思った。


“僕が、僧侶?”


 葵の表情からは、何も伺えない。どうして自分が僧侶なのか、良く判らない翔だった。



 そうこうしている内に、以外に時間が経った様だ。紅い夕陽は地平に没しかけ、濃紺色の夜空には星が瞬き始めていた。


「今日は、ここまでにしましょう」

「はい、ありがとうございました。次回は、何時にしますか?」

「三日後の今日、場所はまたここで」

「わかり・・・」


 翔の言葉を彰が遮った。先輩、先輩、せんぱ〜いと小学生みたいに手を挙げて発言する。


「今度、どっか部屋借りてやりましょうよ! 屋上よりもかんふたぶーでっせ!」

「彰!」


 葵の表情がみるみる曇っていくのを見て、翔は慌てて彰の放言を止めた。


「先輩、僕は屋上でも全然構いません。先輩がやり易いように、やって頂ければと思っていますから」

「・・・」


 唇を噛みしめて、葵は俯いてしまった。

 ここに至り、超鈍感な彰も漸く不味いと思い至ったようだ。あちゃ〜しまった、という表情を浮かべ、助けを求めるように翔に視線を振る。

 彰に即されるまでもなく、翔はどうにかしないとと思った。葵との間に垣根として存在するものが、どうやらこの辺にあるようだが、自分も多少神経質な翔は、扱いに慎重さを要する部分であることも感じていた。


「先輩・・・僕は・・・」

「少し・・・考えさせてくれる?」


 掠れるような声で、葵は漸くそれだけ言った。そして小さく一礼すると、身を翻すように屋上から立ち去った。

 呆然と、その後ろ姿が扉の向こうに消えるのを見ていた彰が、頭を掻きむしった。


「し、しまった〜〜〜! また! また、やっちまったよ〜〜〜〜」


 その場で人格崩壊を起こしていく彰には構わず、翔は黙って思案に暮れていた。どうしたら、葵の抱えている想いを理解できるだろうかと。


☆☆ STAGE2.5に続く ☆☆

 何時もお読み頂き、有り難うございます。さて、このSTAGE2ですが、中途半端な所で区切ることになってしまいました。元々はもっと長かったこのSCENE10ですが、このSTAGEのタイトルにそぐわない内容となってきてしまったので、その部分をすっぱり削ってしまった為です。あ、削った部分はSTAGE2.5に掲載します。STAGE3に入る前に、読んでやって頂けるとウレシイです。

 くだんの『文芸部事件』ですが、ちょっとずつその姿が現れ始めています。葵にとって、この事件はまだ相当な心の傷となって残ってしまっております。元々が非常に大切にしていたその場を無惨にも壊され、追放されてしまったのですから。まだ、葵はその事柄と向き合うだけの力がないのです。今後、それがどうなるか。それは、この先お楽しみに。

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