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幻界創世記  作者: 冬泉
第二章「仲間と呼ばれて」
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STAGE02◆「仲間、と呼ばれて」-SCENE#9


亜里沙と話す葵は、心が軽くなるのを感じていた・・・

■UNO学院/学部棟/高等部二年/2-A教室→ガルテン


「どしたの、葵。何かいいことあった?」


 珍しく笑みを浮かべている親友に、亜里沙は尋ねてみた。

 文芸部の一件があって以来、葵が笑みを浮かべることなどめっきり減った。だいたい葵が笑ってる事自体、亜里沙が無理して笑わせているようなものだった。

 それが、今日は朝から優しげな笑みが時折零れる。


「ん・・・、そうね・・・」


 語尾を濁らせて言葉を返してきた葵に、亜里砂は眉根を寄せて腕を組んだ。


「気になる?」

「そりゃあね。だって、葵ってばこのところやたら暗かったもの」


 亜里沙以外からこんなことを言われたのなら、傷ついてしまう言葉だったが、葵は特に気にしなかった。全てを知った上で、普通に接してくれる、腫れ物を触るようなことをしない亜里沙を、葵にはとても楽に感じられたからだ。


「あててみようか?」

「何を?」

「葵が、そんなに嬉しそうにしてる理由」

「わかるの?」


 へへへへ、と笑うと亜里沙はビシッと葵を指さして言った。


「一年の三奈瀬翔くん! 彼が葵の凍った心を溶かしたのね!」

「え?」


 思わず息をのむ葵。畳みかける様に続ける亜里沙に目を白黒する。


「み・・・奈瀬くん、がどうかしたの?」

「何かあったでしょや。いや、何かあったわね?」


 断定口調。このルーチンに入った亜里沙は怖い。本人が満足するまで、その追求の手を決して緩めることがない。


「さぁ、吐きなさい。早く吐いた方が、早く楽になれるわよ」


 にやりと笑った表情に、いつもながら寒気を感じた葵は、早々に観念して白旗を揚げた。


つつしんで、話させて頂きます」

「宜しい」


 鷹揚に頷く相手に、それでも葵は最後の抵抗を試みた。


「でも、こんなに大勢の人がいるところだと・・・」

「じゃ、“ガルテン”にでも行きましょ。あそこなら、人がいないスペースなんて幾らでもあるでしょうから」


 一瞬で、その儚い抵抗も完膚無きまでに粉砕されたのであった。


      ☆  ☆  ☆


 UNO学院の欧州式庭園、通称『Garten』(ガルテン)はメイン・エントランスの反対側からでた所にある。学院の各棟を南から半円形に取り囲む様に設置されたこの庭は、幾何学模様に剪定された植木の壁が迷路を成した広大な庭園だ。

 葵と亜里砂は、リフトでエントランス・ホールまで降りると、ホールの脇のベンディング・スペースでパックのジュースを買った。どうやら、長期戦になりそうね、と苦笑しながら葵は思った。

 綺麗に剪定された植木の間を、二人はゆっくりと歩いていく。暫く前から人の声がしないな、と葵が思っていると、不意に亜里沙が立ち止まった。


「大分奥まで来たわね。ここなら、誰にも聞かれないと思うわ。座りましょ」


 ハンカチで手際よくベンチを拭くと、自分の隣をポンポンと叩いてみせた。

 大雑把に見えて、その実細かいところまで気が回るのが亜里沙だった。一つ頷いて、葵は静かにベンチに腰掛けた。

 周囲は鳥の声で満ちていた。青空の下で黙って座っていると、、話そうと思っていたことが自然に整理されていく様な、そんな爽快感を感じた。


「あの、ね・・・」

「うん」

「あの子たち・・・とても純粋で、邪気がない・・・。だから、心が洗われる様・・・。そのように、感じたの」

「彼らが?」

「えぇ。取り繕うことも、偽ることも、隠すこともない。想ったことを、思った通りに表現出来る。それが、とても楽に思えるの」

「それは良かったね、葵」


 ホントに良かったね、と我が事の様に喜びながら、亜里沙は葵の両手を取った。ぎゅっと握りしめてくるその両手の暖かさに、葵は思わず瞳が潤む思いだった。亜里沙がいてくれて良かった──亜里沙がいなかったら、葵はあの辛い体験を乗り越えられなかっただろう。


「ありがとう、亜里沙・・・」

「これで一安心だわ」

「?」

「葵に、また心を開ける相手が見つかったことよ」

「そう・・・ね」


 真面目な翔の顔と、悪戯っぽく笑う彰の顔を思い出して、葵は微笑んだ。


「ごめんね、今まで心配を掛けてしまって」

「いいの、謝らなくても! 信じていた相手に裏切られる辛さは、あたしも、よく知っているから。」

「亜里沙・・・」

「あたしもね、あなたがいてとても心強く感じてるのよ。だからね、葵。お互い様よ」

「ん」


 葵は亜里沙の言葉に頷きながらも、亜里沙は自分よりも遙に心が強いと思っていた。

 自分は、人間関係が辛くて文芸部から逃げてしまったけれども、亜里沙は相変わらず弓道部で頑張っている。一年にして抜擢されて、それが為に虐めを受けたものの、亜里沙はへこたれずに部活を貫いているのだから。葵には、到底真似出来ないことだった。

 そんな亜里沙が、自分の存在が彼女の為になっていると言ってくれている──その心使いが葵の心を暖かく包み込む様だった。


「今度は、何時彼らと会うの?」

「次の約束は、明日の放課後よ」

「ふぅん。また、屋上でやるの?」

「えぇ。人が、いないほうがいいから・・・」

「そうか。じゃ、ビシビシ鍛えてあげなよ!」


 軟弱者と軟派者っぽいからね〜と、断定口調の亜里沙に、葵はちょっぴり苦笑いを浮かべるのだった。


☆☆ SCENE#10に続く ☆☆

 葵は、亜里沙と言う親友に色々と支えて貰っています。葵自身は、決して弱い人間では無いのですが、くだんの『文芸部事件』(何時か番外編で書きたいのですが、内容にちょっと辛いモノがあるので、書くことから逃げてしまっています)のお陰で、すっかり人間関係に弱くなってしまっています。亜里沙がいなければ、学院に来ること自体も無くなっていたかもしれません。心から信頼出来る友人がいること──これに勝る“宝”はなかなかありませんね。

 次回は、いよいよSTAGE2の最終回。どのように決着がつくのか、乞うご期待です。

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