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幻界創世記  作者: 冬泉
第二章「仲間と呼ばれて」
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STAGE02◆「仲間、と呼ばれて」-SCENE#7


迷う翔を、彰はありったけの言葉で・・・

■UNO学院/学部棟/屋上


 翔は目の前が真っ暗になりそうな思いだった。


“なんで、何で彰がここにいるんだ?!”


 回答の出ない思考が頭の中で堂々巡りする。内心忸怩じくじたる想いを持て余しながら戸口で逡巡していると、翔が居ることに気が付いた彰が笑って手を挙げた。


“笑う? 何を笑うことがあるというんだ?”


 益々深みに填り込む思考。不毛で、無意味で、切りが無い。


 無反応で、ただ二人を凝視する翔を見て、彰は何かおかしいと思ったのだろうか。二言三言、葵に話すと翔の方に向かって歩いてきた。


“!”


 翔は自分の忍耐の限界を感じた。今、彰とは話したくない。彰から、聞きたくもない事実を突きつけられたくない。内面の衝動に突き動かされるまま、翔はきびすを返した。だが。


「翔っ!」


 屋上から立ち去ろうとした翔を、あっという間に走ってきた彰が止めた。流石はスポーツ万能。足が速い。


「おい、どうしたんだよ、翔! 何処へ行くんだよ?」

「離してくれよ、彰。真面目に悩んで、莫迦ばかみたいだよ」

「へ? おまえ、何言ってんの?」


 コミカルにも頭の回りに?(ハテナ)マークを散らす彰に、冷たく翔は言った。


「もうどうだっていいんだ、って言ったんだよ。良かったな彰、憧れの神和姫先輩と接点が持てて。」

「何だって!」


 皮肉たっぷりに言う翔に、彰の声音が変わった。警鐘の音を遠くに感じながらも、最早引き返せない所まで想いを吐露してしまった翔は、勢いで最後まで言い切った。


「言った通りさ。まぁ、もう僕の知ったことではないけどね」

「阿呆っ!!」


 バシッっと頬が鳴った。


「勝手に思いこんで、勝手に納得すんなよ!!!」


 滅多に聞いたことがない彰の怒声だった。いつも明るく笑って莫迦をやっている彰からは、到底考えられないことだ。

 唖然として、翔は打たれた頬に手をやった。彰は、真剣な表情で見返してくる。


「翔。おまえ、本当にそれでいいのか? はっきり話も聞かないで、全部ぶん投げちまっていいのか?」

「・・・」

「勇気出して、苦労して、先輩のオッケイをもらったんだろ? 何で、ここで諦めるんだよ!」

「そんなこと言ったって・・・」

「言ったって、何だよっ!」


「河邑くん」


 澄んだソプラノの声が割って入った。いつの間にか、葵がすぐ側に立っている。彰は葵と翔の顔を交互に見やった後、一つ溜息をついてから葵に頷いた。


「三奈瀬くん」

「・・・先輩・・・」

「不満?」

「・・・」

「どうして、不満に思うの?」

「・・・」

「人はそれぞれが違うわ。同じ過程が同じ結果に辿り着かなくても、それは個人差ではなくって?」

「でも・・・」

「想うところを、話してご覧なさい」


 深い双眸に見つめられて、翔は観念したように息を吐き出した。

 自分の思ったことを赤裸々に話すのは、非常に勇気が要ることだった。ましてや、自分自身がそんな未整理の感情や考えを格好が悪く思っているので尚更だ。

 それでも、翔はここで話さなかったら絶対に後悔すると感じていた。なけなしの勇気を、今が振り絞る時だった。


「“不満”ではなくて、“主観的な見地から不公平感を感じた”、というのが真相です。先程、高国先輩に示唆されて、遅ればせながら漸く気が付くことが出来ました」


 葵は黙って頷いている。


「他人に教えて貰えるまで、気が付かなかった自分に対する情けなさと、理性で判っていても、全然感情が着いていかない・・・」

「・・・そんな自分に嫌気が刺したのね」


 葵に言葉を取られて、翔は吃驚した。


「・・・先輩・・・」

「わたしにも、あったから」


 葵のその言葉は、翔に衝撃を与えた。


“先輩が? 完璧な先輩が、僕が感じたような想いを抱いてたって?”


「信じられない?」

「・・・はい。いきなり、だったので・・・」


 そう、と言うと葵は薄く微笑んだ。


「でも、事実。自分の未熟さに負けてしまったのも。後悔しても、後悔しきれない想いを知ったのも──」


 事実なの、と葵は言葉を結んだ。


「あなたなら・・・。どう、する?」


 言外に、自分と同じ轍を踏むのか、と聞かれているかのようだった。

 先輩が、間違いを犯した? そして、そのことを後悔している? 僕は、どうするのか? いや、どうしたいのか? ぐるぐると、想いが巡って──最後に辿り着いたのは、休めの姿勢のまま話を聞いている彰の硬い顔だった。先程は、目も向ける勇気もなかった相手──その顔を見ていると、相手が不意に相好を崩した。やれやれ、とでも言う様に。そんな相手に、翔は何かが心の奥から込み上げてくるのを感じた。


“何を悩んでいたんだろう・・・。素直に想いを伝える様にって話してくれた高国先輩の好意を、危うく無駄にするところだった・・・”


 意を決すると、必要な言葉を紡ぐべく、翔はゆっくりと口を開いた。あわや全てを台無しにするところだった恐怖から、言葉尻が震えてしまう。


「彰・・・」

「あぁ」

「あの、さ・・・」

「ま、いいってことさ」

「え?」


 彰は破顔一笑した。ばっかだなぁ、翔は相変わらず──そう言いながら。そんな二人を見ていた葵は、ふっと笑った。


「辞退に来たのよ」

「せ、先輩、駄目っすよ、それ言っちゃ!」

「先輩? 彰?」


 何が何だか判らず、翔は狐に包まれたようだった。


「“翔がやれなかったら、自分だけやっても仕方がない”・・・ってね?」


 先ぱ〜い、お願いですから一言一句再生しないで下さいよ〜、と情けなく言う彰に、翔は思わず釣られて笑ってしまった。


「そうなんだ」

「えぇ」

「あ〜二人ともひでぇなっ! くそ、グレてやるぞ、ホントに〜」


 口元を押さえて微笑む葵に、翔は真剣な表情で深々と頭を下げた。


「先輩、本当にすみませんでした。改めて、AD&D教授の継続を、彰共々お願いします」

「判りました。助けてくれた人に、感謝をしないとね」

「はい。必ず、お礼を言ってきます」


 ん、と頷くと葵は静かに屋上を立ち去った。後に残された二人は、明るく笑いながら、青空に互いの親指を立てた。


☆☆ SCENE#8に続く ☆☆

 優柔不断で、決断が遅い翔ではありますが、少しずつ成長しているみたいです──多分(笑)。また、今回は彰が色々と活躍してくれました。彼の、これからの(脳天気な)活躍に期待です。葵も漸く多少はまともに話してくれるようになったし、これでもっと書き易く──なればいいですね、ほんとに(苦笑い)。

 さて、STAGE2もあと三回。無事に仲間が全員揃うのでしょうか? その顛末は、次回にご期待を。

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