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幻界創世記  作者: 冬泉
第一章「出会いは唐突に」
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SCENE-10◆「想いを伝えて」

翔は、自分の素直な想いを伝える・・・。

■UNO学院/学部棟/屋上


 屋上への重い鉄扉を開けると、群青色の空が視界一杯に広がった。

 外の明るさに慣れずに瞬きを繰り返していると、漸く目が慣れてくる。


「あ・・・」


 見回すまでもなかった。いつものように、屋上のフェンスに寄りかかって・・・彼女がいた。神和姫葵──どこか不思議な感じを受ける、一つ上の先輩。

 葵の姿を見た瞬間、足が鉛の様に重く感じられる。何とも意気地のない自分に、思わず苦笑が漏れた。


“今更だろ? しっかりしろよ、自分”


 自分を鼓舞する様に言うと、意を決して葵に向かって歩いて行く。早鐘の様に鳴り始めた心臓のドキドキが止まらない。外からでも、その音が聞こえそうだった。目的地までの、その短い距離がやけに長く感じていた。それでも、物事には始まりが有れば終わりもあり──翔は、程なく葵の前に立っていた。


「それで?」


 彼女らしい、短い一言。余計なことは言わず、いつも本題を真芯で捕らえてくる。


「はい」


 覚悟は、階段を上っている間、とうに決まっていたのだ。ただ、それを口に出すには勇気が必要だった。大きく息を吸い込むと。


「先輩。・・・読み切れませんでした。言い訳は言いません。自分の実力の無さを、心底悟りました。でも、出来るところまで全力でやりました。悔いは、ありません」


 奢りも気負いも無かった。自分が感じた通りの素直な想い。そこには、芸も工夫も何もなかった。ただ、有りの儘に、自分が思った事を淡々と話した。


「・・・」


 葵は、足下を見つめたまま終止無言だった。翔は僅かな失望感を覚えたが、これも課題を果たせなかった事の因果応報、と思えば自ずと納得も出来た。


 どれくらい時間が経ったろうか──何時しか空は、何時か見た茜色に染まり始めていた。


「一週間──長いようで短かったです。僕の為にわざわざ貴重な時間を割いて貰ってありがとうございました。お借りしていたマニュアル、確かにお返ししました。それでは・・・僕は、これで失礼します」


 深々と一礼すると、翔はきびすを返して屋上の扉に向かって歩き出した。


“結局、最初の一言以外は何も話してくれなかったな”


 嫌われるよりも、面罵されるよりも、殆ど相手にされなかったことが唯一心残りだった。


“でも、もういいんだ”


 失望感と爽快感が混ざった不思議な感じ──そんな想いを胸に、鉄扉に手を掛けた時。長く間をおいた、葵の二言目が聞こえてきた。


「待って」


 驚いて足が止まった。何時の間に歩いてきたのだろうか、すぐ後ろに葵が立っていた。


「どう、感じた?」


 葵の言葉を理解するまで、翔には暫し時間が必要だった。数瞬後、混乱した思考に漸く整理がつく。


「・・・充実した時間でした。無心で全力を出した後の爽快感に似ています。旨く、表現出来ませんが」

「・・・」


 眉宇を寄せると、葵は黙って手に持ったマニュアルを眺めた。

 翔が息を飲んだ様に硬直して立っていると、葵はおもむろに手にしたマニュアルを差し出した。


「こ、これって・・・」


 目の前に差し出されたマニュアル。100ページまで読み切れなかった課題のマニュアル。それが、再び自分の前にある。どうすれば良いのだろうか? 再び、手に取ることが許されるのだろうか?


「諦める?」


 またも端的な質問──何を意味しているのか?


“諦める? 諦められる? 諦めたいのか?”


 ぐるぐると、色々な想いが心の中を駆け回る。

 そんな翔を、静かに葵は見守った。これは自分の言葉で、自分の意思で決めなければいけない。誰にも、誰からも、影響を受けてはいけない・・・


“僕はどうしたいんだ? もう、こんな無駄な努力をしたくないだけか? そもそも、これは無駄な努力だったのか? 何の為に、寝る間も惜しんで時間を掛けたんだ?”


“どうして、こんな苦しいことをやろうと思ったんだ? 苦しいだけだったか?”


“いや、違う。苦しかったけど──充実感はあった。それだけは事実だ。”


 徐々に想いが形になっていく。

 ゆっくりと顔を上げると、吸い込まれる様な深い双眸が見つめ返してくる。


“そうだ。僕は、この人の事を信頼してみたいんだ。この人が言う、『新たな創造の世界』を垣間見てみたいんだ”


 心は決まった。想いを、決意として口にする。


「いいえ。諦めたくは、ありません」

「・・・わかったわ」


 マニュアルを翔の手に預けた葵の表情には、微かな笑みが浮かんでいた。それは、あたかも雲間から太陽が差し込むような、明るさと暖かさに満ちていた。



 漸く翔は葵の課題を乗り越えることが出来ました。“インスタント結果”がややもすれば蔓延し、忍耐力と努力が軽視されがちの風潮の中では、翔と葵の行動は如何にも不自然、理解不能と映るやも知れません。しかし、人と人との交流は、『相互理解』の積み重ねです。自分から一歩前に踏み出さねば、相手との距離は縮まりません。自分を覆うガードを降ろさないと、相手を感じる事が出来ません。リスクは、常にどんな行動にも付いて回ります。勇気を持って、一歩前に進みましょう。そうして、誰もが何かを経験し、次の一歩を進める新たな力を得るのです。

 次章からは、メンバーに彰が加わります。多少とも、話が動いてくれると・・・良いなぁ(笑)。相変わらずの駄文ですが、刮目してご期待下さい。

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