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4日目前半

「うおおお……」


4日目の朝、俺は禁断症状に悩まされていた。

にじむ汗、震える身体、そして、収まらない欲求……


「ゲームしてぇ……帰りてえ……」


異世界生活も、最初は新鮮だったが人間慣れるもので、

俺はこの文明レベルが中世のファンタジー世界においてホームシックになっていた。


「あ"ーっ!ネットのある生活が恋しい……」


そんなことを言いながらベッドを転がっていると、妹が不機嫌そうに起きて、


「うるさいんだけど」


とひとこと言って枕を投げてきた。


「いてぇっ!なにすんだよ」

「朝から隣で唸られてたら目が覚めるんですけど」

「お前は寂しくないのかよ、もう4日も現実世界に帰ってないんだぞ」

「そりゃ色々困ってるけど……」


寝起きの髪を押さえつけて、妹は不満をもらす。

するとナミも起きてきて、バツが悪そうに声をかけてきた。


「お、おはよ~、なんか二人とも機嫌悪いね?」

「おはよう、ナミも帰りたいだろ?最初は楽しかったけどさ、

やっぱりファンタジー世界はゲームの中に限るって」

「う、うん……そうだね……」


何故か複雑そうなナミは、少し間を置くと、俺たちに質問をしてきた。


「あんまり楽しくなかったかな?」


楽しくなかった?どういうことだろう。

俺は少し考えて、こう返答した。


「楽しくなかった……と言えば嘘になるな、

なんだかゲームの世界に入っているみたいで、最初は楽しかったし、

自分で色々ゼロから攻略していく感じがして悪くなかった」


ぱあっと明るくなるナミに、俺は違和感を覚えたが、

その言葉にセリカも続けて答える。


「でもちょっとゲームバランスが悪いよね、

メイド服のコスプレもできて、まあ悪くはなかったけど、

最初にあたしがキノコにやられるぐらいで、ナミさんの助けがなかったらと思うと、

ちょっとリアルすぎて、まあリアルなんだけど」


セリカの言葉にナミは頷いている。

ここでようやく妹も違和感に気づいたようだ。


「ナミさん、何か隠してる…よね?」


ハッとナミが顔色を変え、俺たち兄妹はナミに詰め寄る。


「ナミの親父はゲーム会社の人だよな?

それで俺たちが来たきっかけはあのゲームディスクなんだ、

……何か関係があるんだろ?」


俺はこれまで感じていた疑問をそう結論づけると、

ナミはようやく観念したようだった。


「あ、あのね…?言っても怒らない?」

「怒らないからお兄ちゃんとあたしに説明して」


妹の目がマジだ。

ナミはようやく口を開き、衝撃の事実を漏らした。


「この世界はね……私のパパの、ゲームの世界なの」

「なんだって……?」


ゲームの世界?こんな精密な、人も生きている世界がゲームの世界?

そんなバカな。

しかし、ナミの次の発言はそれを裏付けるものだった。


「VRMMOって知ってる?」

「ヴァーチャルリアリティMMO、仮想現実大規模多人数オンラインゲームのことだろ?

でもこんな緻密な世界を描くだけの技術はまだなかったはずだ」


一流ゲーム企業でさえ、

完全に没入というよりはまだシチュエーションを体験できるというレベルのもので、

ファンタジー世界を完全に再現したVRMMOなど聞いたことがない。

ナミは気まずそうに続ける。


「えっと……パパが言うには、まだ開発中の技術なんだけど、

”記憶共有疑似フィールドシステム”ってのが最新の技術らしくて、

それを応用しているんだって」


俺たちは宿の部屋で呆然と立ち尽くしていた。

すると、セリカが口を開き、


「それはどういうシステムなの?

響きからすると、まるで記憶からフィールド、つまり場所を作りだすようにも聞こえるけど……」」

「その通りなのセリカちゃん!パパは凄いんだよ!」


まるで自分のことのように喜ぶナミは、次々と驚愕の事実を明かす。


「パパはサークルエンタープライズで働いていて、ゲームに限界を感じていたらしくってね、

グラフィックの高品質化で容量がどーとか、ゲーム性自体の行き詰まり?なんかをいつも話してて、

ゲーム業界は革新を迎えるべきだ!っていつも熱弁してたの、私はよく分からなかったんだけど……」

「つまり、その結果が今俺たちがいるこの異世界なのか?」

「そうなの!」


茶髪ショートの魔法使いの女の子は、当てられたことが嬉しいのかぴょんぴょん跳ねている。


「”記憶共有疑似フィールドシステム”は難しいからあんまりうまく説明できないかもしれないけど、

つまり、遊ぶ人の記憶をもとにゲーム世界を作り出そうって試みなんだって!

ゲーム開発って、時間もお金もかかるし、"遊ぶ人の記憶からゲームを作り出す"ことができれば、

可能性は無限大なんだってパパが言ってました!」


いえーい!と気楽にVサインするナミに、

俺とセリカは頭を抱えながらなんとか理解を追いつかせようとした。


「じゃあ、あたしたちはナミさんのお父さんの、

開発中のテストプレイヤーとしてこの世界に招かれたわけね……」

「やっぱりあのゲームディスクが原因じゃねぇか!

ナミ、なんで黙ってたんだよ……言ってくれれば」


セリカとナミが不平を漏らすと、ナミは今度は少し悲しそうに、


「パパが正確なデータを取るためにセナ君たちには真実はなるべく伝えないでくれって……、

ごめんなさい……」


しょぼり、とした様子のナミに、俺たちはそれ以上追及することはできなかった

しかし、真相がわかったなら……


「もう十分データは取れたんじゃないか?そろそろ元の世界に返してくれてもいいだろ」

「ナミさん、学校もあるしそろそろ帰らなきゃ……」


理解はしたが納得はできていないと言った俺たちに、

おそるおそるナミは今日一番の爆弾発言を繰り出す。


「その……申し訳ないんだけど、パパが言うにはバグで帰れなくなったって……、

私が来たのも、そのためなの……」


「は?」

「はい?」


俺たち兄妹は、鳩が豆鉄砲を食ったように、きょとんとしていた。

元の世界に帰る方法はあるのか!?

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