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勇者の父上と勇者のエルフ

「それを先に言ってくれバリー。気が童貞してしまったぞ。失礼、動転してしまったぞ」


 まだ気は動転していらっしゃいますよ父上。

 落ち着いてください。


「すみません、私も何が何だかでしたので実感もまだわかずにいます」


「本当の事なんだな? では魔力を操れるようになり、そのリフィーという少女の命を救った、相違ないな?」


 伝説の一文にある内容だ。

 幼い勇者が、少年を救うために勇者となり、瀕死の少年を死に引き込まれる前に救い出す。その少年はその後神となり、今でもこの国を見守っていると言われている。


「はい、間違いなく魔力を使い、回復魔術をもって彼女を蘇生させました」


 蘇生が適当な言葉なのかは分からないが、間違ってもいないだろう。


 勇者の血が目覚めることで、理屈の分からない溢れんばかりの力を得た。

 俺が勇者として覚醒したという証拠はこれしかない。だがこれだけで十分だ。


 本来回復の魔術は非常に難しい。 

 使える者はそれだけで国に重用され、生涯を安泰なものとできる。


 それが俺に出来るようになった。これはとんでもないことなのだ。

 そもそも魔術を男が使えるようになるには、30年前後の禁欲が必要となる。


 その過程を飛ばして莫大な魔力を得ることができた。常識を覆す現実。

 俺が勇者であるという確たる証拠がこの魔力である。


 大昔、それこそ神話の時代には異世界から召喚された者が魔術を使えたという記述もあれば、生まれた時より膨大な魔力を持って生まれる者もいたと言われている。

 現在ではそのような者は一切存在せず、あくまで神話を盛り上げるために後世の歴史家が話を盛ったのであろうと言われている。


 しかしその神話の時代から続くと言われていた勇者の血が目覚めた俺は、一体何者なのだろうか。眉唾だと思い始めていたものを、自分の身で証明することになるとはな。


「まさか天才だとは思ってはいたが、バリーが勇者に目覚めるとは」


「自分でも驚いています。私は父上こそが相応しいと思っていましたので」


「おべっかはよすんだ。自分の価値を下げるぞ。私からの評価は上がったがな」


 お世辞に弱すぎるから上がってしまうのだな。


「それでリフィーという少女はどうするのだ?」


「はい、本人はこの家に留まりたいと言っています」


「バリー、お前がどうしたいのかを言ってくれ」


 守ってください。そう言われてしまった。

 元はそんなつもりではなく一時的なものとして言ったつもりであったが、どうやら彼女はそうは取らなかったようだ。


「失礼しました。私は彼女を守りたいと思っています」


「そうか。ならばそうするがい。お前が待間違ったことをしたことはない。バリーのしたいようにするがいいさ」


 物わかりが良すぎるのは父上の弱点だ。


「しかし留まるということは……」


「金だろう? 気にするな。私が全て何とかする。女一人匿うぐらいで傾く家と思うな」


 そうではない。また他の貴族家に父上が……。


「何も気にするな」


「はい、ありがとうございます」


 やはり父上は尊敬に値する方だ。俺もこんな父親にりたいと改めて思う。




 ――――




 父上との話を終え、客室へと向かう。


 リフィーはどうしているだろうか。


 扉をノックして中に入る。


 リフィーは大人しくソファーに座っていた。

 対面に座っていたロイが立ち上がり、会釈をする。


「あら、遅かったわね。私を食べる前に体を清めていたのかしら?」


 どうもしてはいなかったが、頭はどうかしているままのようだ。


「父上からの許可が下りた。リフィーは我がハーツ家が預かる」


「バリー、本当に?」


「ああ、俺は世辞は言っても嘘は言わん」


 お世辞は嘘みたいなものだがな。


「じゃあ、私の体を見ているとむしゃぶりつきたくなる、体だけは好きだから子を孕めって言ってくれたのはお世辞なのね」


 言ってないと思うんだ。


「いや、そうではなく」


 慌てて否定する。


「体に飽きたらそれで終わりなのね。ではこのお腹の子はどうすればいいの……」


 待て、腕を組んだだけで子を孕ませるのは大爺様にしかできない魔法の類のはずだぞ。まさか勇者の血が目覚めた事で、俺にもそんな芸当ができるようになってしまっていたのか。



「バリー様、この者はからかっているだけです。どうか真に受けぬよう」


 ロイか。

 さすがはロイ、俺の心を見抜くのが的確で早くて上手。


「バリー、それで子供の名前なんだけど」


 もしかして、留まれることが嬉しくて、それを誤魔化すために妙な事を言っているのか?

 だとすれば可愛げがあるじゃないか。


「ああ、分かってる。あとで二人で考えよう」


 どうだ、信じてしまった振りをしてやったぞ。

 少しは焦るか。


「賭けは私の勝ちね。途中で口を挿んでまで邪魔したのに、情けないわね。さあロイ、出しなさい」


「くっ、認めたくはないが負けは負けだ……」


 なんだ、何の話をしている。少し目を離したうちに随分と仲良くなっているじゃないか。


「これがバリー様が4歳の時の姿絵、その写しだ……」


「うふふ、これは中々の上物ね。なんてあどけない顔なのかしら。中に入れても痛くないとはこの事ね」


『目』に入れてもの間違いではないのか。


「二人は何をしていたんだ?」


「あら、男の嫉妬は見苦しいわよ。疑わなくても私はあなた専用の性奴隷。他の男には指一本触れさせないわ」


 いやそんなことは聞いてないし、聞いた覚えもない。


「バリー様の幼き頃の姿絵を見ていましたところ、この黒エルフめがそれを寄越せと」


 何故ロイはそんなものを持っているのだ。それにリフィーは誰にでも傍若無人な振る舞いをするのか。まさかそれが原因で暴漢に襲われたのではないだろうな。


「私は拒んだのですが、ならばどちらが姿絵を持つに相応しいか勝負をしようと持ちかけられまして」


 リフィー、俺の描かれた絵にキスをしたり胸に挟んだりするのはやめてくれ。非常に落ち着かない。


「勝負で女子供に後れを取ることはないと、調子に乗った結果がこの様でございます」


 大事な所を端折るな。なんの勝負をしていたんだ。


「ロイが負けるなんて、にわかには信じられないな。何をして負けたんだ?」


「どちらがバリーをよく理解しているか、あなたの取る行動を当てた方が勝ちという簡単な勝負よ」


 なんだそれは。


「あなたが私が妊娠していると言ったら信じるかどうか、それだけよ」


 だからいきなり突っかかって来たのか。


「いや、信じてはいなかったが……」


「正確にはどこまで愚かかを賭けたの」


 こいつ、愚かな方に賭けて勝ったということか……。


「申し訳ありません、バリー様。自分が不甲斐ないばかりに……」


 いや、ロイが姿絵を奪われただけだよな?

 賭けに負けたことで、俺が愚か者だと確定したみたいな空気にするのやめよう?

 主を巻き込まないで?


「それにしてこの頭の悪そうな子供は可愛いわね」


 俺だよなそれ。


「この頭の悪そうな子供が、こんな筋肉質な色男になるなんて誰も想像しなかったでしょうね」


 上げたり落としたり忙しいな。


「俺は昔から賢かったぞ」


「嘘ね。今が賢くないんだもの。話が矛盾するわ」


 体は鍛えられても心はそう簡単には鍛えられないんだぞ。今ので全治1ヶ月の怪我を心に負った。魔術でも治らない、深い深い傷だ。


「でもそんなところが私を女からメスに変えてしまうの。バリーは罪な男ね。好きよ」


 治った。

 女性にここまで言われて嬉しくないわけがない。


「貴様、覚えておけ。いつかそれを取り返して見せるからな」


「取り返す? 何を言っているの。これはお互い同意の上で行った勝負の報酬、戦利品よ? 私が奪ったみたいな言い方をしないでちょうだい。私が奪うとしたら、それはバリーの童貞よ」


「ま、待ってくれ、せめてそれだけは!」


 ロイ、何故そこで必死になる。やめろ。


「それは俺の義妹であるロラに!」


 良かった、嫌な汗が噴き出たぞ。

 最近少し危ないかもしれないと思っていたのだ。


「ロラ? さっきの明るい髪の子かしら? 残念ね。バリーは私のような胸の大きい女にしか興味が無いの。いえ、私の胸にしか興味がないの間違いね。だって会った時から眼よりも胸を見ている時間の方が長いんだから」


 何故ばれたのだ。さすがに見過ぎたか。仕方ないではないか、余りにも見事なモノだったから、つい見てしまっていたのだ。これを見るなと言うのは、健全な男子に対する嫌がらせだ。いや拷問に等しいと言っていい。あの張りのある褐色の胸。動くたびに形を変えるのがわかる豊満さは男子が夢見る理想の女性像の一つではないのか。一目見た時から俺の心をわし掴みにして離さない。

 それにあの流れるような銀の髪を見ろ。宝石にも勝る美しい褐色の肌に、それを引き立てる絶妙な色合い。いや、肌の色が引き立てているのが髪の美しさなのだろうか。どちらにせよ、極上の美しさが合わさり合いながらも喧嘩すことなく調和している美の集合体と言っていい。

 更に言及するならば、あの異常なまでの美しさの中で、劣らず輝くのはあの顔だ。眼は大きすぎず細すぎず。瞬きをする度俺の心臓が高鳴る。加えて鼻は主張が弱いようにも見えるが、均等の取れた完璧な正対称。やや下に目をやれば薄い色素の唇がある。あの口が開く度に俺はよからぬことを考えてしまう。


「鼻が、せ、性対象だなんて。でも嬉しいわ……」


 心を読まれたか!?


リフィーは褐色の肌を赤くしているように見える。窓の方を向いて誤魔化しているが、そのせいで見えるうなじ部分がまた何とも言えない色香を感じさせる。


「バリー様、全て声に出されていらっしゃいます」


「む」


「私を滅茶苦茶に犯したいとも言っていたわね。どうぞお好きにしてちょうだい」


 いやそれは思ってもいなかったはずだ。


「馬鹿な事を言うな。俺はハーツ家の人間だぞ。女性を、その、犯すなんてことは絶対にしない」


 これは誇りであり信念であり誓いだ。

 それがバリー家が代々守ってきた在り方だ。

 当たり前の様で、貴族家としては意外なことでもある。


「同意の上よ。あそこまであなたに言われて勿体ぶるなんて、私にはできそうにないの。私は今すぐにでも抱かれたいわ」


「混乱させてしまって申し訳ない。だがそれはできない」


「あら、ではロイとするのね?」


 こいつは馬鹿か。


「貴様、それ以上バリー様を侮辱するならば……」


 いかん、ロイが小太刀に手を掛けようとしている。


「私を抱いてくれないならこのまま死んだ方がましね」


 おっも。

 重たすぎるぞこの女。


「だから死ぬ前に抱きなさい」


 もう無茶苦茶だ。


「バリロックお坊ちゃま、昼餉の用意が整いました」


「む、ありがとう。しばらくしたら向かうよ」


 よかった、良いところでメイドが水をさしてくれたぞ。


「ちっ。あと少しだったのに……。言っておくけどあなたの地位やお金が目当てではないから、そこは勘違いしないでちょうだいね。私はあなたの体と心が目当てなのよ。それ以外は何もいらない」


 ソファーから立ち上がって俺の胸に自分の胸を押し当て、上目づかいで見上げてくるリフィー。


 もうこの子何が何だか分からないわ。

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