繋ぎのサグ
超短編です! 思いつきで書いたものですので、内容はあまります保証できませぬ。
――桜が、見たかった。
せめて、死ぬ前に、もう一度。
桜は、僕が好きな花だから。天国の姉さんが、愛した花だから。
僕の命が散る前に、もう一度だけ。
時は、まだ冬も明けぬ三月のはじめ。病院の前の桜は、まだ咲かない。
――あと、一度だけでいいんだ。
桜が、見たい――
サグ、という精霊がいた。彼女は、桜の精霊。人々の願いを叶える精霊。
その日、彼女は。一人の少年を見つけた。
桜の咲く日を。待ち続ける少年を。
だから、力を使ったんだ。
桜のように散るだけの命なら。その瞳に映る最期の景色を、桜の雨にしてあげたかったから。
冬もまだ明けやらぬ三月のはじめ。桜が、咲いた。
今は亡き、少年の姉の。優しげな面影を映して。
桜の陰で、姉は。いつも、優しく微笑んでいた。
思い出すのは、喪失の記憶。
「ねえ……さん……」
姉が死んだ日は桜の散る日。まるで、姉の命の終わりを示すかのように。とどまることを知らぬ桜の雨が、薄桃色して降っていた。
桜はつらい思い出を呼び起こす。それでも。
少年は、桜が好きだった。死ぬ前に、もう一度見たいと思うほど。
そして、今、少年の目の前には。季節外れの桜が、満開に咲いていた。
少年にとっては、死を意味する桜の花が。
――それでも、いいよ。
もう、長くはない命。そのお終いに見るのは、季節外れのあだ桜。
――僕は、幸せだったよ。
少年は、静かに目を閉じた。
繋ぎのサグが、できることは。ほんの小さなことでしかない。
だって彼女は桜の精霊。開花を早めるのが精一杯。
それでも、そんな小さなことでも。幸せになれる人がいるのなら。
彼女は繋ぎ続けるだろう。
人と精霊との、見えない絆を。
おしまい……。