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9話 決闘で恨みを晴らす (二)

---




 決闘開始の時刻。

 舞台に決闘の立会人の男がやってきた。

 覆面で顔を隠しているが、どことなく高貴な雰囲気がある。

 貴族だろうか?


「まずは決闘のルールを確認する」



 立会人が宣言したことで観客たちから会場が揺れるほどの歓声があがった。



「決闘者が決闘の決着がつく前に舞台から降りた場合には、神聖な決闘を穢した罪にて晒し首とする。助っ人が決闘の決着がつく前に舞台から降りた場合には、逃亡したものとみなし決闘が終わるまで手出しすることを禁止する。舞台から降りた後も決闘に手出しをしようとするならば、これも神聖な決闘を穢した罪にて晒し首とする。また、どちらかの決闘者が全員、戦闘不能もしくは舞台から降りた時点にて決着がついたものとする。双方異存はないな?」


「ありません」

「ないぜ」


「ボリス側は決闘者六名、助っ人二百三名で間違いないな?」

「間違いないぜ」


「ソフィア側は決闘者四名、助っ人一名で間違いないな?」

「間違いありません」


「おいおい、助っ人がガキ一人とは、お前ら随分と人望がないんだなあ?」


 白鎧の男がソフィアたちを挑発してきた。

 ソフィア達に助っ人が俺以外にいないのもこいつらが裏から手を回したせいもあるらしい。


「あなたは随分と品のないお友達がたくさんいるのね、ボリス。「類は友を呼ぶ」のかしら」

「けっ。減らず口を叩けるのも今のうちだぜ。今日こそ、お前らのせいで死んだ弟の仇をうたせてもらう。あの世でエリックに詫びるんだな」

「エリックのことは残念だったけど、彼が死んだのは私達が追い出された後でしょう?」

「お前たちが……お前たちが抜けなければ戦力不足でエリックが死ぬことなんてなかったんだ!」

「私たちは抜けたんじゃない。あなたに追い出されたのよ」


 そのソフィアの言葉に、ボリスは狂ったようにわめく。


「黙れ! 俺が「出て行け」と言ったのを渡りに船とばかりに出て行ったくせに! お前らのせいでエリックは死んだんだ!! お前たちが、頭を下げて残ってさえいれば!!!」

「……話にならないわね」


 一触即発の雰囲気になったその時。

 立会人が静かに、しかし、力強い声で言った。


「神聖な決闘の前だ。双方静かにするように」


 無言での睨み合いが始まる。


 永遠とも取れるような一瞬の静寂のあと、立会人が両手をあげて構えた。


「それでは、決闘の開始を宣言する!!」


 そして、立会人が大声で決闘の開始を宣言した。


「野郎ども、こいつらを惨たらしく殺してやれ!!!!」


 ボリスの掛け声に応じゴロツキどもが、武器を構えて殺気を出し始めた。


 さて、仕事を始めるとするか。

 金貨5000枚相当の大仕事だ。


 まぁいくら大仕事とはいえ、見物人が多すぎるので、できるだけ手の内は見せたくない。

 こんなところに昔の知り合いがいる可能性は低いと思うが、万が一ということもある。

 正体がバレる可能性はできるだけ低くしたい。


 そんなわけで、今回は剣だけで戦うことにする。

 昨日買った安物の剣だが、魔力で覆えば十分な切れ味になるはずだ。


 極々少量の魔力を放出し、剣をできるだけ薄く魔力で覆う。

 これだけ薄ければ、見た目も感触も生とさほど変わらない。

 よほどの魔法の達人でもなければ、剣に魔力が付加されていることさえ見破れないはずだ。




---




 最初に動いたのは、鎖付きの鉄球を振り回す大男だった。


「ヒャッハー! 死ね! クソガキ!!」


 威勢はいいが、隙だらけ。

 圧倒的な数の利があるのに、単独でかかってくるなんて間抜けすぎる。


 スローモーションのような鉄球での攻撃を軽く躱し、一気に間合いを詰める。

 しかし、奴の顔は勝利を確信しているのかニヤニヤしたままだった。


 どうやら俺の動きが完全に見えてないらしい。


 この程度の腕で単独で俺に挑むなんて無謀もいいところだ。 


 遠慮無く奴の首を刎ねてやった。


 斬られたことにも気が付かずに、なにやら嬉しそうな表情のまま奴の首が宙を舞う。

 そして、ゴロツキどものそばにドスンと落ちた。


「ひ、ひぃい」

「嘘だろ」

「『傍若無人』のユーリがあんな一瞬で!」

「化け物ォ」


 ゴロツキどもの間に動揺が広がった。

 どうやらこの大男はそれなりに有名なやつだったらしい。

 だが、所詮ゴロツキの中ではマシな程度の雑魚。

 一応先代勇者である俺と正面から戦うには、あまりにも実力が足りなすぎる。


「俺は無駄な殺生は好まない。死にたくない奴はさっさと舞台を降りるんだな」


 我先にとゴロツキどもが逃げようとする。

 

 このまま戦った場合、俺が負ける確率は0に近いが0じゃない。

 負ける可能性は出来る限り0に近づけるのが長生きのコツだ。

 一人でも多く敵が逃げ出せば、負ける可能性はその分だけ0に近づく。

 実戦は何が起きるかわからないのだから、できるだけリスクは減らしておきたい。




---




 作戦はうまく行った、と思った。


 しかし。


 背骨の曲がった小男――ザハールが、一番最初に逃げ出したゴロツキに背後から音もなく近付いていき……。

 ゴロツキを真っ二つに斬った。


「戦いもせずに真っ先に逃げ出すような腰抜けは……斬られても文句は言えねぇよなぁ?」


 そう言いながら奴は血の滴る鉤爪のような得物を美味しそうに舐めた。 

 異形の小男がしたその仕草は、俺でもさえ不気味に感じたほどだ。

 ゴロツキどもにとってはよほど恐ろしかったに違いない。

 中には漏らすものまで現れる始末。

 女の子のお漏らしならご褒美だけど、モヒカン野郎のお漏らしなんて気持ち悪いだけだ。

 

 逃げようとしたゴロツキどもが震えながら戻ってくる。

 どうやら俺に対する恐怖より、奴に対する恐怖が勝ったようだ。


――そうそう楽はできないか。


 連携を取られると面倒なので、こちらから斬り込む。


「五月雨斬り・扇」


 『五月雨斬り・扇』は突進系の範囲技だ。

 剣技としては中級で使い手も多い技だが、ソフィアたちや白鎧たちにあてないように調節できる範囲技の剣技はこれくらいしか持っていないのでしょうがない。

 俺の剣技は範囲技が極端に少なく、完全に一対一向けの技に偏っているからだ。

 

 中級の剣技とはいえ、俺との実力差が大きすぎるせいでゴロツキどものほとんどはこちらのスピードに反応出来ずに棒立ちになっている。

 そんな雑魚どもの間を駆け抜けながら斬って斬って斬りまくる。

 俺が駆け抜けたうしろで、まるでドミノ倒しのようにドサドサと死体が倒れていく。


 だが、ゴロツキの中でもそこそこ腕が立つ連中はうまく斬撃を避けたようだ。

 さすがに一網打尽とはいかないか。


 最初は二百人以上いたごろつきも、技を撃ち終わった時に残っていたのは斬撃の範囲外にいた連中も含めても五十人といったところだった。

 予想より少し多めなのは俺の体がまだまだ鈍っているからだろう。


「ひ、ひぃい」

「化け物ォ」

「こんな化け物に勝てるはずがねぇよぉ」


 再びゴロツキどもは恐慌状態になり、ザハール以外のゴロツキが逃げ出そうとする。

 その様子を見てザハールの奴が不機嫌そうに舌打ちをした。


「ちっ。使えないクズどもめ」


 そう吐き捨てると、奴は先ほどと同じように逃げ出したゴロツキを背後から斬ろうと動き出す。


 だが。

 戦場で敵に何度も背中を見せるなんて甘すぎる。

 他人の命を刈り取ろうとする時こそ、逆に一番狙われるときなのだ。


 その背後から逆に俺が奴を叩き切ってやった。


「ぐへぇ」


 真っ二つに分かれた奴の体がドサッと左右に倒れる。


 ――ふん。俺の前で何度も背中を見せるからだ。


 意外とあっけなくザハールを倒すことが出来た。




---




 ザハールを倒した途端にゴロツキ共は我先にと場外へと逃げていった。

 もはや残っているのは白鎧たちだけである。


「……」


 白鎧たちは逃げていくゴロツキ共の後ろ姿を呆然としたように眺めていた。


 あまりのことに現実をまだ受け入れられていないのかもしれない。

 十歳程度に見える子どもが腕自慢のゴロツキ二百人以上をあっという間に全滅させたのだから無理もない。


「なぁあんた。子どものくせに随分と強いんだな。今からでも俺たちにつかないか? その女どもが払った額の十倍……いや、百倍出すぜ。俺には金持ちのスポンサーがついているんだ」


 猫なで声で白鎧が話しかけてきた。

 おそらく、全滅したゴロツキどもに払うはずだったお金で俺を雇うつもりなのだろう。

 随分と切り替えが早いな。

 武力で敵わないと見るやすぐに金で懐柔しようとするこの切り替えの早さは、ある意味優秀さの証明かもしれない。


 だが俺は、裏切るという行為が一番嫌いだ。


「彼女たちが払うのは金貨5000枚だから百倍ということは金貨50万枚になるけど、本当に払えるの?」


 もちろん払えるとしても依頼を受けるつもりはないが一応聞いてみる。


「金貨5000枚だと? 嘘だろ? そいつらがそんな大金を払えるはずがねぇ。あんた騙されてるんだ!」

「そう言われても……もう手付の分は受け取ったからね」

「くそっ!」


 白鎧たちはこの世の終わりのような顔をした。

 実力的にザハールより大幅に劣る自分たちが、俺に勝てるはずがないことを理解しているのだろう。


 かと言って白鎧たちはゴロツキどもと違い決闘の当事者なので逃げ出すこともできない。

 逃げ出しても晒し首になるだけだ。


「だけど、俺が頼まれたのは助っ人の掃除だけで、あんた達には手を出さない契約だ。後はゆっくりと観戦させてもらうよ」

「なに?」


 白鎧たちは、俺が腰を下ろすのをキョトンとした表情で見つめていた。




---




「ソフィアーー! 今日こそ、息の根を止めてやるぜ! あの世でエリックに詫やがれ!!」


 俺が手を出さないことがわかった瞬間に、白鎧たちは強気になった。

 もう勝った気でいるのだろう。   

 俺の見立てでは、ソフィアたちの方が個人の力が上だが、白鎧たちは六体四と人数で勝っている。

 総合的に見ればほんの僅かにソフィアたちが優勢といったところだろう。

 しかし、白鎧たちは自分たちのほうが迷宮で深い階層を探索しているのだから当然自分たちのほうが強いと思っているらしい。 


 誰でも自己評価というのはひどく甘くなるものだからしょうがない。



 そんなことを考えていると……。


「ぎゃあああああああああ」


 ソフィアたちが十秒と掛らずに白鎧たちを倒してしまった。


 まぁ当然の結果だ。

 なぜなら、ソフィアたち自身も気がついてないだろうけど、先ほどの会話の間にソフィアたちにはありったけの補助魔法を無詠唱で掛けておいたのだ。

 

 今のソフィアたちなら一人で白鎧たち全員を圧倒できる程度には実力が跳ね上がっている。

 白鎧たちを秒殺したのも当然の結果と言えるだろう。


 まぁ白鎧たちに手を出さないとは言ったが、ソフィアたちに補助魔法を使わないとは言ってない。

 契約違反ではないはずだ。


 確実にパンツを手に入れるためには、手段を選んでいられないのである。


「それまで! 勝者、ソフィア!!」

 

 こうして、俺は無事依頼を達成することが出来た。

 

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