第1話 タナカ
あらすじだけ投稿しておいて何週間経ったのでしょうか。
私はどうやらやる気スイッチが無いみたいです。
投稿めっちゃ遅れました。
誤字&脱字などがありましたら、ぜひ教えて下さい。(0-0❀)
初夏の始まりだろうか、うんざりしていた湿気と長雨が消え失せ、付けっぱなしのテレビではちょうど天気予報のコーナー、胸元が少しセクシーな白いワンピースを着たキレイなお天気お姉さんが白い歯をちらつかせつつ、「お出かけの際は熱中症に気を付けて下さい」とニコニコの営業スマイルを振りまいていた。
外はこれから暑くなる事だろうが知った事じゃあない。
俺はエアコンが効いている快適な空調の中に居るのでな。
自己の世界に溺れつつ、ボケーッとお天気お姉さんを見つめる。が、どうしてもキレイなお天気お姉さんを見てても、「アイツ」に重なり虫唾が走る。
「ちっ…!」
誰に聞こえるわけでもないが、誰かに聞こえるように大きく舌打ちをし、先程カラになってしまったビールを補充しに冷蔵庫に向かう。
「アイツ」というのは俺が最後に付き合った彼女の「レイコ」という女であり、俺をこんな自堕落にした人物である。
だが、ボロボロのTシャツを着る事もひげ面のおじじになる事も自分で選択した事だ、全部レイコのせいではない。
俺を裏切った事は許さないけど。
開けている時間が長すぎたか、ピーピー鳴き出した冷蔵庫の奥からやっとこさキンキンに冷えたビールを取りだし、乱暴に閉める。
少し大きめのお客様用テーブルにビールを並べ、既に飲み干した分の缶を床にポイ捨てする。どうせ後で(多分)片付けるし、事務所立ち上げから一度も依頼が来ない探偵事務所である。
これでいいのだ。
お天気お姉さんに罪は無いが、テレビを見るのも嫌になり、酔っ払いながらもリモコンを手元へ手繰り寄せ電源ボタンを押し、リモコンもポイ捨てする。
リモコンが既にポイ捨てされた缶とぶつかる音を聞きながら、新しい缶へと手を付ける。
「プシュッ…!」快楽の音を聞いて顔がニヤケつつ、たまらず快楽の泡を、液体を、喉へ、体内へと流し込む。「タンッ!」と缶を置き、「くぅーっ」と吐息を漏らす。
テレビを消しただけでも結構静かになるもんだ、夏休みを謳歌しているだろう小学生のガキの声が聞こえてくる。虫取り網を手に持ち、虫籠を肩から3,4個ぶら下げ、近くの裏山にでも行って、やれカブトムシだのクワガタだのセミだの大半のお母様方が苦手であろう虫たちを籠いっぱいに詰め込み、夕方泥だらけになって帰るのだろう。
俺のガキの頃の夏休みは朝から夕方まで山に籠り、携えていた虫網と虫籠を使って夏の虫たちを乱獲といっても過言ではない程に捕獲し、少し退屈になったらそこらへんに落ちていたビンの中にダンゴ虫を詰め込むなどという今考えればアレな遊びをしていたものだ。
ちなみにその後はもちろん母親が近所迷惑レベルの悲鳴を上げ、父親に「気持ちは分かるがな」とたしなめられつつ、捕獲した獲物(虫たち)を泣く泣く半分以上外に逃がした。
…こんな事が雨でも降らない限り、毎日続いていた。
成人してから聞かされた話、母親はその度に近所の奥様方に「昨日は危険レベル8の悲鳴だったわねw」となどと勝手に悲鳴にレベル付けをされ、井戸端会議の茶番にされていたらしい。
「最近の小学生はどんなもんだか…」
昔の事を思い出していたらいつの間にか小学生の声が聞こえなくなり、さびしくなったので、またビールに手を付けようとすると、今度は「え~、こんなところで(照)」「いいじゃん~。誰も見ていないし…(下心)」といういかにもなバカップルの声が耳に入ってきたので一発怒鳴りつけてやるか、冷やかしの声をかけようとヨタヨタしながら窓を開けた。
ぼんやりする視界の中で目に入ったのはバカップルはバカップルでも明らかにまだ未成年であろう一組の(しつこいようだが)バカップルだった。
おそらく風体からして中学生だろうか、初々しく女々しい一組のバカップルがタナカ探偵事務所の真下、つまり俺の真下に居たのだ。
なんという事だろうか…!!(妬みはこの際(一旦)置いておいて)
俺が中学生の頃なんか、俺は…オレハッ…!!
正義感に目覚め、警察官になるため必死にわき目もふらずに努力していたのに…!
(レイコに振り回されて今に至るけど)
「最近の中学生は…」
ぶつぶつと一人ごちていると、やっと気付いたのか「ケンちゃん、アレ(汗)」「うわっ!キモッ(何邪魔してんだよ、じじい)」と中坊バカップルは逃げて行った。
オイ、コラ男子。お前の考えていた事、なんとなく分かったぞ。訂正せんかい、俺はまだピチピチの38歳だ。
虚しいのでやめよう。
死んだ目をしている俺は負け犬だ。
タナカ探偵事務所はマスミ文房具店の上にある。つまり二階だ。
初夏の始めの早朝まだ暑くなる前、比較的涼しい風が頬を掠めた。
「ま、俺にはビールがあるからぁ~。別に良いけどね」
どうしようもない文句を吐いて窓を閉める。
「さて、ビールビールっと」
『ピンポーン』
置いておいたビールを飲もうとした途端、今まで一度も鳴った事のないインターホンが鳴った。
『ピンポーン』
本来ならばここでお客様は神様ルール発動でものすごく嬉しい事だが、どうも今日だけは直感で【インターホンが鳴るという事はロクな事が起きない】と思った。
「考えすぎか…」
俺は構ってちゃんかよ。こんなおっさん、誰が相手にするってよ。
自虐的に客観的に自分に判決を下し、左手でボリボリ腹をかきながら、はだしで玄関へと向かう。
『ピンポーン』
「はいはい…」
立てつけの悪いドアを開け、顔を上げるも、そこに誰も居なく、近くにも下にも人の気配がしなかった。
「…?イタズラか」
俺はしんみりしつつ、ドアを閉めた。
「今日もゼロか…」
なんて独り言を呟いた―
その時だった。
「う~ん、少し違うかな(笑)」
あからさまにまだ幼い少女というか幼女の声が聞こえた。
ロリコンではないが、耳を澄ます。
「え…?」
ついに幻聴か、ぼっちこじらせて。
次いで、「パリーン!」と窓ガラスの割れる音が響く。
「は…?」
おいおいさっきのバカップルの彼氏君か?復讐にしてはやりすぎじゃあないか。
投げ込まれたものは何だろうか。と
今、何が起きているのかも分からず、投げ込まれたものはこれか。と、ボール状の何かに触ろうとしゃがみ込んだ俺の背後で
「それに触っちゃダメだよ、おじさん」
私のものだからね。と再び声が聞こえ、頭を「ツン」と小突かれ、簡単に俺はものすごい勢いで後方へと転がっていった。
直後、「ポンッ」と何かが弾ける音と共に「ボゥッ」とまるでガソリンに火を付けたような音が立て続けに聞こえ、すっかり正気を取り戻した俺の目と耳に入ってきた光景と音声は燃え盛る炎の中で「キャハキャハ」笑う(多分)少女と「火事です火事です」と一生懸命職務を務める火災ケーホーキだった。
「今日はなんて厄日だ…」
ああ、ビールが…事務所が…
ついでに言うとそこに置いてある事務机の二番目の引き出しに(隠す必要もないのに)しまっている俺の秘蔵本(世間ではコレをエロ本と呼ぶ)…燃えませんように。アーメン。
煙が部屋に充満してきて、意識がだんだんと遠くなっていく。
エロ本だのとぼざいている場合ではなくなってきた。目を開けていても煙で何も見えなくなってきた。しょうがない。目を瞑ろう。
ここが俺の死に場所らしい。最後に姿が見えないのに声が聞こえる少女の方向を見る。さっきからシルエットしか見えなかったが、一つ見えた事がある。
炎が少女を包み込んでいるのではない。
少女そのものが発火しているように見えた。
あくまで見えただけだ。
「こんなはずじゃなかったのにな」