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勇者さまの「プールポワン」、承ります!  作者: 秋月 忍
アリサ・ラムシード 編
21/45

侯爵令嬢のご依頼 1

枕ブーム到来!……かもしれない。

 初夏の日差しを感じる季節となった。

 ジュドー・アゼルから、三日おきに、花やらドレスが贈られてくる。アゼル家からではなく、お店から直接届けてくるので、その場で受け取り拒否もできず、一度受け取ったのち、リゼンベルグ家経由でお返ししている。非常に面倒極まりない。

 しかし、うっかり受け取るわけにはいかないし、私や父は直接返しに行かないほうが良いと、ロバートに厳しく言い含められている。私はともかく、父もダメというのは、父は魔道具コレクションで、借金を作った前科があるからだろう。

 とりあえず、父も外出を控えてくれているし、おそらくレグルス経由で事情を知ったリィナとダリアが、しょっちゅう様子を見に来てくれるようになった。

 レグルスも注文やら、枕のメンテナンス(枕ってメンテナンスするものなのか?)など理由をつけて、何かと来店してくれている。前のように突然迫られるようなことはなくなった。

 おそらく私は、彼の恋愛ゲームの相手に相応しくなかったのだろう。しかし、手のかかる『友人』として庇護欲は掻き立てられるらしい。面倒見のいい人だなあと思う。

 今日は何も贈られてこなかったので、父は奥で昼寝をしており、私は父が受けたオーダー品のための中綿の準備をしていた。

「アリサ!」

 店の扉をノックするなり、ジーナが飛び込んできた。

「どうしたの? ジーナ」

 気温の上昇とともに、ジーナのドレスの露出が激しくなってきた。美しく豊かな胸元は大きく開いて、胸の谷間がチラチラ見える。

 他に客はいないからいいけど、うちの店にそんなセクシーな格好してくると男性諸君の目の毒だと思う。

「売れているの! 涼感枕。ほら、ここの所、夜とても寝苦しくなってきたでしょう? 追加で注文しようと思って」

「本当! ジーナ、ありがとう!」

 私はジーナに抱き付いた。

「わっ。アリサったら、普段は感情が出ないのに、嬉しいと弾けるタイプなのね」

 ジーナが戸惑ったように私を抱き留めた。

「ご、ごめんなさい」

 私は、慌てて謝る。そう言えば、初めてのプールポワンを受け取ってもらった時は、イシュタルトの頬にキスをしてしまった。

 どうやら、私は喜ぶと我を失うタイプのようだ。

「別に謝ることじゃないわよ。でも、むやみに男の人にやらないようにね。絶対に勘違いされちゃうわよ」

「そ、そうかな」

 ジーンはにっこり笑った。

「アリサは普段、あまり表情が出ないせいもあって、笑顔の破壊力は相当なの。私もクラクラしちゃうくらい」

「破壊力って……」

 たぶん、褒めてくれたのだろうから、なんか兵器扱いされたような気がするけど、気にしないでおこう。

「とにかく、涼感枕の追加、お願いね。青系の売れがいいわ。それから、防魔枕なんだけど……あれ、可愛い系が出ているの。それもお願いしたいわ」

 私はメモと生地の見本を用意し、ジーナと具体的な商談を交わした。


 忙しくなった。私は、コルの実で糸を染める作業をし、隙間をぬって枕の生地の裁断を始める。

 ちなみに、父は、オーダーのプールポワンの仕事が詰まっている。何しろ、『皇族御用達』という箔がついてしまったので、帝国軍の騎士様たちがこぞって注文してくれるらしい。父のほうも、涼感タイプのプールポワンの注文がかなりはいっているらしく、レキサクライに行った意味はあったようだ。

 夕方近くまで、夢中になって作業していると、ロバートとイシュタルトがやってきた。

「アリサ、お茶は要らない。すぐ支度をして」

 お茶を入れようとしたら、ロバートにそう言われた。

「支度?」

「そう。ジュドー・アゼルが明日から一週間、魔道ギルドに休暇願を出した」

「一週間も?」

 私は目を丸くした。

「ど、どうしよう。仕事が入っている……五日後が納期なんだけど」

「全部、持ってくればいいだろう? 仕事場くらい用意してやる」

 イシュタルトがそう言った。確かに道具さえ持っていけば、どこでもできる。

「一週間毎日来るほど、アレも暇ではないと思うが、念のためだ」

 今、お貴族様たちは社交シーズンである。イシュタルトも午前は議会、午後は近衛隊の訓練、夜は、夜会がある日もあって、超忙しいらしい。

 ジュドー・アゼルも男爵なので、それなりに忙しいはずだ。

「じゃあ、着替えを……」

「着替えくらい、こっちで用意する。それより、仕事道具を用意しろ」

 う。なんか夜逃げするみたいな急かされ方だ。

「父は一人で平気かな?」

 私がポツリというと

「俺は、大丈夫だ。心配するな」

と、今日は針を離さずに応える。父も相当に忙しい。

「仕事の手伝いは出来ないけど、アゼル避けにひとり来てもらうつもりだから」

 と、ロバートが父に言った。

「助かる。そんな変な奴と応対しているヒマがないくらい、忙しいんだ」

 父はふーっと息をついて、イシュタルトのほうを見た。

「お世話かけてばかりですみませんが、アリサをお願いします」

「任せておけ」

 私は魔道ミシンと、自分のいつも使っている魔道具を含む裁縫道具と、生地や糸などを大きな木箱に放り込んでいく。

「……そんなにあるの?」

 ロバートが荷物を呆れて見る。

「うん。できれば、仕事道具以外も少し持っていきたいけど……」

「馬車で、出直す」

 私の荷物を見てポツリと、イシュタルトがそう言った。



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