3話・仇との邂逅
メイサと共にサギンへ向かう途中、遂にサーペントの群れに遭遇した。
砂中に二匹、砂上に一匹。
そして眼前に立ち塞がるは隻眼の超巨大サーペント。
俺を育ててくれたあの人……ヴェロニカの仇だ。
間違い無くこのテリトリーの主であろう隻眼のサーペント。
後方より激しく追い立てて来る蛇達は、恐らく奴の配下だろう。
俺達は巧妙に誘い込まれたのだ、宿敵の元へと。
敵は四体、しかも内一体はあの人の仇である隻眼の超巨大サーペント。
正しく四面楚歌と言っていい絶望的な状況、だが反面俺の内心は怒りに煮え滾っていた。
この広大な砂漠の世界で、再び奴に巡り合った奇跡。
折角のチャンスを逃せば次があるかどうか分からない。
「スハイルさんっ!」
「奴はヴェロニカの仇なんだ、あの時襲われてたキャラバンを守る為に彼女は……」
怒りに震える俺を心配して、メイサが声を掛けて来た。
そんな彼女に、隻眼の超巨大サーペントとの因縁を明かす。
あれは数年前……俺にライドシールドの適正があると判って訓練を重ね、見習いサンドライダーとしてあの人の後ろについて荷物を運んでいたある日。
やはり今日のように天気のいい砂漠を二人並んで渡航していた。
ずっと憧れているだけだった青い砂漠へと漕ぎ出せる喜びに、胸が打ち震えていた事を今でも覚えている。
旅路は順調、だが砂乗り達の商隊・キャラバンが超巨大サーペントに襲われていた。
輸送特化型で荷物を積み込んだ彼らに奴の相手は難しい。
俺達が発見した時には既に犠牲者が出ており、このままでは全滅を待つばかりの状態。
それを見たヴェロニカは迷う事無く救助を決断した。
砂乗り達の盟約、『砂漠で襲われている同業の者を見たら必ず助けよ』という鉄の掟に則って。
彼女は俺に襲われたキャラバンの救助を任せ、自身は勇敢に敵へと挑み掛かる。
ヴェロニカは必死に戦った、砂漠を行く同業の仲間達を守る為に。
だが敵は余りにも強大過ぎた。
並のサーペントと一線を画する分厚い甲殻は彼女の攻撃を阻み、繰り出す反撃はヴェロニカの乗るシールドを削る。
激しい交差を重ね、奴の牙は遂にヴェロニカのシールドを破壊した。
砂漠上でのライドシールドの喪失は、砂乗りにとって死を宣告されたに等しい。
何故なら人の足ではサーペントの速度に全く対抗出来ないからだ。
云わば翅をもがれた蝶のようなもの、蛇の毒牙から逃げられよう筈もない。
しかしまるで刺し違えるようにして、彼女はその武器を以って奴の左眼を打ち砕く。
そこで限界を迎えたのか、彼女はふらつく体に鞭打ちその髪飾りを俺に投げて託した。
それが今もこの頭で輝いている髪飾り、ずっと大切にしている掛け替えのない物。
果敢に戦い満身創痍の彼女を、隻眼となり痛みと怒りに狂うサーペントが飲み込んだ。
それが俺の見たヴェロニカの最期の姿。
彼女が戦ってくれたお陰で、キャラバンと共に生きて砂漠から戻られた。
攻撃を顔に集中させていたお陰で、感覚器に対するダメージが蓄積していたのだろう。
あのサーペントが撤退する俺達に追撃を掛ける事も無かった。
しかし胸中に残るは、大切な人を守れなかった無力感と奴への怒り。
もっと強くなりたい。
その気持ちと夢という名の向上心があるからこそ過酷な砂漠に挑み続け、自他共に腕利きと認められる砂乗りになれた。
「あのサーペントがスハイルさんの……」
大切な人を喪った過去話、その宿敵が眼前に現れたという事実。
彼女は悲しみの表情を浮かべながら聞き入っていた。
メイサは人の痛みが解る本当にいい子だ。
だからこそ守り抜かねばならない、彼女に誓った言葉を貫く為に。
だが現状は余りにも厳しい。
正直生きて突破出来るかどうかは未知数だ。
包囲された以上、戦わずにここを離脱するのもそして二人乗り故に敵を全滅させるのも不可能だろう。
だから天秤に掛けねばならない。
復讐か、誓いか。
だがそれは愚問、俺は彼女を護ると誓ったのだ。
もしここで復讐に走るようならば砂乗り失格。
ヴェロニカもきっと失望するに違いない。
目指す夢は良い砂乗りになる事、そして果たすべき誓いはメイサを護る事。
だから絶対に二人でここを生きて突破する。
その為に出来るベストを考え抜き、一つの結論を出す。
迷いと怒りを捨て彼女に声を掛けた、この窮地を脱する為に。
「メイサ、心配させて御免。君を必ずセギンへと送り届ける、それが俺の使命だ。敵は確かに強い、けれど安心して。必ずここを切り抜けるから」
彼女の心配を払拭するように力強く放った言葉。
それを聞いてメイサは静かに頷いた。
そして重心を預けてくれる、彼女は信じているのだ。
腕利きサンドライダーである俺の力を。
高い集中状態のまま、広く視野を取り聴覚・触覚を研ぎ澄ます。
そして彼女を抱き締めた。
鋭利な戦闘機動でメイサを振り落としてしまわないように、強く。
戦闘態勢に入った俺目掛けて、隻眼の大蛇が動いた。
もたげた首を撓らせて、挨拶代わりの強襲攻撃だ。
奴の片目が大きく開かれて、殺意と共に牙を剥く。
空をも覆い尽くさん勢いで真っ直ぐ振り下ろされる首、それをギリギリまで引き付けて一気に急制動を掛けた。
奴の大口が頭上から襲い来る刹那、急角度の左ターンで躱し切る。
直後ターン角度を大きく右に取り、隻眼の大蛇のアーチを潜った。
だがそこには既に待ち伏せしていた蛇の姿。
潜った先に先回りしていたのだろう。
「読まれていた!?」
奴等の行動を見て、俺は思わず驚愕の声を上げる。
ここまで執拗且つ周到な手を使う群れはそうそう無い。
それだけ隻眼の大蛇の統率能力が優れている証拠か。
真正面から襲い来る首を今度は右に躱すと、その先に待ち構えていたかのように蛇が砂中から姿を表した。
急制動でスピードが落ちた隙に先回りしたのだろう。
二人乗りの影響で、ライドシールドは連続の急ターンでバランスが回復し切れてない。
後方には砂丘に擬態し待ち伏せしていた蛇が待ち構えている。
このままでは進むも引くも出来ず、絶好の体勢で待ち構える奴等の牙の餌食となるだけ。
そう悟った俺は静かに髪飾りへと手を掛けた。
あの人のように戦う為に。
「星屑と共に星座の蛇が夜空から落ちて来たって話知ってるよね、あれには続きがあるんだ」
唐突にメイサへと語り出す、この世界に纏わる伝承の話を。
「ええ、あのお伽噺ですね。でも何故今……」
「何も夜空から落ちて来たのは蛇と砂だけじゃない、人々が星座へ掛けた願いが具現化した物……星遺物・レガシーも一緒に落ちて来たんだ」
彼女が素っ頓狂とした顔で放った言葉。
それを遮り、俺は知られざる真実を告げた。
髪飾りの宝玉と基部を左手で静かに引き抜きながら。
すると留めていた髪が風に揺れて、ヴェロニカが俺に託してくれた髪飾りが真の姿を表す。
眩い輝きを堂々と放ちながら。
「この輝きは……!」
彼女は周囲に舞い出す真紅の光に驚き声を上げた。
それは力を宿す輝き、呼応するようにして青い砂漠が共鳴し出す。
まるで星遺物の覚醒を歓喜するかのように、賛美歌のような星砂の音色が砂漠中に鳴り響いていく。
鳴動する砂漠を背景に、髪飾りの五枚羽が順次抜け落ちた。
そして真紅の光を浴びながら、先端より長く鋭利な光の刃を生み出しつつ飛翔。
その姿はまるで地上を這う五つの流星。
光の刃は星砂と反応し、次第に赤い尾を曳いていく。
「アルダファラ開放、かみのけ座のレガシー・流星剣ディアデムよ……その真の姿を表わせ!」
俺の言葉に付き従うように、かみのけ座の星遺物・ディアデムは覚醒した。
神々しい姿は正しく夜空を翔ける流星、それを象り万物裂き断つ剣と成した物。
かつて人々が夜空の星座へ掛けた願いが解き放たれた姿。
あの人から譲り受けた、取って置きの切り札だ。
同時に俺は左の手にした光る宝玉より、発光する真紅の戦闘指揮棒・アストラルタクトを展開。
それを星砂に押し付け砂塵を巻き上げる。
これは殺す為の戦いではなく、生きる為の戦いをする為に敵へと叩き付ける俺なりの流儀だ
五つの流星剣・ディアデムは如何なる魔法体系にも属さず、髪飾りを構成する銀色の物質もまた地上の物ではない。
だが使い手と認めた者の魔力と意志に呼応して、星遺物は莫大な力を発揮する。
それはサーペントの甲殻をも破る人類最強の武器。
際限無く湧き出てくる力と高揚感、それに酔う事無く静かに戦闘指揮棒・アストラルタクトを振るった。
すると発光する指揮棒の動きに合わせて五つの剣がライドシールドに追従し飛翔、戦闘態勢に入る。
砂乗り達の中で、唯一俺だけが取れる攻防一体の戦闘スタイル。
砂漠を走る盾を守護するように飛ぶ剣、共に眩い光を放って砂漠の流星と化す。
「これが夜空から落ちて来た物、レガシー……!」
「そう、俺の取って置きの切り札さ……行くよ!」
未知なる力の輝きに見惚れるメイサ、そんな彼女にそう声を掛けた。
この剣は俺の意のままに飛翔する、それをコントロールする鍵は豊かな想像力と強靭な意志。
但し星遺物の使用は、強大極まる力の代償に最大加速の比ではない程大きく魔力を消耗する。
正しく正真正銘の切り札、だがここで切らねば待つのは死だけ。
だからこそ生きる為にタクトを振るった、目指すは真正面から襲い来るサーペント。
脳裏に五本のディアデムの飛翔イメージを描き出し、魔力を注ぎ込む。
するとそれを反映するように、五つの剣が続々と飛翔し黒き大蛇に殺到。
真紅に光る刃が光る尾を曳きながら大蛇の黒い甲殻を穿ち、続々と貫通していく。
高い相対速度が功を奏し、一本の剣が敵の頭部を見事撃ち抜いて仕留めた。
一瞬でズタズタにされた蛇の巨体が力尽き揺らめいて、青き砂漠へ轟音と共に倒れ伏す。
擦れ違い様にその亡骸を一瞥し、次に襲い来る脅威へと備える。
「凄い、これが星遺物の力……!」
極めて希少で滅多に見られない星遺物とサーペントとの全力衝突。
その一部始終を見たメイサは、敬意と共に感嘆の言葉を漏らした。
だが戦いは始まったばかり、加えて星遺物は起動し続ける限り魔力を喰らい続ける。
急いでカタを付けなければ魔力枯渇を起こしてしまうだろう。
そうなればセギンへ辿り着けなくなる、その事実を脳裏に刻みつつ叫んだ。
「まだだ、全剣散開! 舞え、ディアデム!」
その叫びと共に左手に握ったタクトを振り、残り三体のサーペントへと流星剣を飛翔させた。
描くイメージは夜空彩る流星群。
敵直上から、地を這うスレスレや敵の視野の外たる後方から。
多角的な猛攻イメージに沿って五本の剣が真紅の輝き纏いて飛翔し、猛禽のように蛇達の身を削る。
その様はまるで青き砂漠に吹き荒れる真紅の嵐。
欠片の慈悲さえ無い飛翔剣戟を前に、三体の蛇は不意を突かれ思わず攻勢の手を緩めた。
突如襲来した脅威を前に黒き甲殻が抉られ、浮き足立つ。
だが俺はタクトを振って更に攻める。
青い砂漠に紅い軌跡が続々と奔り流星剣が舞い踊る。
宿敵たるサーペントを縦横無尽に斬り裂き、鮮血が青い砂漠を朱に染めていく。
だが相対速度の乗った最初と違い、奴等に与えた打撃はまだ浅い。
しかし一連の攻撃の真の狙いは隙を作り離脱を試みる為だ。
全力加速と星遺物の併用は魔力を一気に消費してしまう。
それは本当に最後の緊急手段。
だからこそ敵に隙を作った早々に星遺物を仕舞い、全力で離脱する。
そう目論んでいた。
だが敵も甘くはないらしい。
三体とも砂中に潜り、地中からこちらを追跡して来たのだ。
深く潜られてはこちらから迂闊に手を出せない。
位置的にもまだ完全に包囲を破れては居ない為、迂闊に最大加速するのは悪手。
まだ伏兵が居る危険性もある以上、出来るだけ敵を無力化してから振り切るのが望ましい。
「三匹とも砂の中に!」
その様子を見ていたメイサは声を上げた。
そんな彼女の肩を強く抱いて、力強く宣言する。
「大丈夫、ディアデムは単なる武器じゃない!」
俺はそう叫ぶとタクトを振り三本の剣を砂漠を這うよう周囲に飛翔させ、残り二本をライドシールド傍に追従させる。
ディアデムの真価は攻撃力だけじゃない、それは汎用性の高さ。
全神経を集中させて、タクト越しに五本の剣から送られる感覚を受け取る。
云わば感覚器の延長としてディアデムを駆使。
地表スレスレを飛翔する剣は、今や俺の耳となり触覚となる。
遠き砂の声の中から討つべき敵の在処を探り出し、遂に見つけた。
地中の背後から襲撃を掛けんとする一体の蛇を。
「そこか!」
捉えたサーペントの鼻先へと剣を飛ばし、鋭利な一撃をお見舞いした。
青い砂漠を劈いて刺さった一撃、それは敵の右目を深々と引き裂く。
タクト越しに伝わるは確かな手応え。
直撃により生まれた激痛に背後の蛇はたまらず地表へと出現した。
醜く無様に大口を開けて、悲鳴を上げながらのたうち回りゆく。
蛇の頭の甲殻はヒビ割れ、夥しい量の血が吹き出していてその傷の深さを物語る。
与えた有効打は大きくこのサーペントの追跡が完全に止んだ。
現状況を切り抜ける為の最優先事項は仕留める事よりも、敵を無力化する事。
痛打を与え追撃不能に陥れば、それだけ脅威は減りその分離脱確率が増えるからだ。
俺は迅速に思考を切り替えて、残る二体の行方を探った。
飛ばした剣と感覚を同調し、捜索を続けると遂に捉える。
地中の背後左右から交差するような挟み撃ち。
互いに体当たりによる攻撃を順に仕掛け、回避ルートを潰す算段か。
「見つけた! 激しい加減速の連続になるから、しっかり捕まって!」
「はいっ!」
俺の呼び掛けに彼女は気丈に答えた。
そして抱き締める力を強くする。
これから急激な加減速に加えターンの連続、即ち戦闘機動に入る。
サンドライダーの腕の見せ所だ。
敵は巨体、故にリーチでもパワーでも勝る。
だが巨体故に小回りが効かない。
二人乗り故に正に針に糸を通すかの如き精密さが要求されるが、その先に確かに活路はある。
自らにそう言い聞かせ、迫り来る敵に備えた。
地表スレスレを飛ぶディアデム越しに伝わる感触、それが先手を打って来る敵の姿を捕捉。
先手は配下のサーペント、左後方からだ。
大轟音と共に砂中から首を出し、体当たりを掛ける敵の初動モーション。
それを冷静に見切り左へと加速しつつターン。
そこを狙い澄ましたように、隻眼の超巨大サーペントが右後方より大口を開けて襲って来た。
配下の蛇を乗り越えて、巨大なアーチが描かれる。
俺は咄嗟に重心を切り返し、右へとターンしつつ微減速。
旋回しつつバランスを取りながら、隻眼の巨体が描くアーチを潜る。
蛇が砂中に潜る度にその質量が砂漠を震わせ、乱れる風が気流と共に砂塵を舞い上げ視界が乱れた。
そんな中、懸命にバランス取りしつつ敵との相対位置を的確に把握。
高速戦闘はバランスが命、これが崩れたら転倒し死を待つだけ。
それだけは避けなくてはならない。
同時に敵を見失っても命取りだ、これを並行して行うのは骨が折れる。
しかしそれを怠れば屍になるのみ、だからこそ持てる力の全てを出す。
回避しつつディアデムによる牽制攻撃を仕掛け、右左右と急激な機動で敵の猛攻を凌ぐ。
額に汗が流れ、全身に掛かるは加速の衝撃。
加えて蛇達が砂中に潜る余波が、立て続けに襲い来た。
圧巻の質量誇るサーペントが砂中に潜る衝撃、その重さは計り知れない。
バランスを取りながら進まねばならない砂乗りにとって、その衝撃波は凶器そのもの。
幸いメイサは音を上げず、俺にしがみついてくれている。
だが慣れた俺はともかく彼女にとって初の旅、相当に堪えている筈。
それを心から申し訳ないと思いつつ、状況打破の手を探った。
猶予は然程無い、この瞬間にもまるで身体に穴が開いたかのように魔力が続々と食われていく。
このままのペースでは保たない可能性が濃厚、しかし少しでも緩めればやられる。
ハイペースな戦いを強いる程まで追い込む隻眼の力、やはり奴は強敵だ。
敵の牙と巨体が迫り来るが、砂乗りとして磨き続けて来た直感と星遺物の力で必死に抗った。
敵をギリギリまで引き付けて、躱した上でディアデムの一撃を入れ鋭く牽制。
黒き大蛇と真紅の流星剣が熾烈な火花を散らし、攻防が白熱していく。
激しく苛烈極まる高速戦闘。
蛇も俺も共に同じ方向に進むが故に、有効打を入れるのが難しい。
だが粘った甲斐あり、数度の交差を経て一撃を入れるチャンスを掴む。
加減速とターン角の微調整を回避しながら密かに進めていたのだ。
二体の巨大な敵が執拗に同じ獲物を追い、食らい付かんとするならば互いに衝突する可能性が生まれる。
徹底して敵を焦らした上で引き付け続ければ、奴等は勢いを付け追い縋り獲物捉えるべく牙を剥く。
白熱すればする程に視野は絞られ、増した勢いは容易くかき消せない。
狡猾なれど、獣が持つ狩猟本能……そこにこそ付け入る隙が生じる。
そして遂に狙い通り配下と隻眼のサーペント、巨体同士がニアミスをした。
以上に接近し身体の一部が接触したか、鈍い金属音を響かせ激しく火花が散る。
その衝撃で突風が生まれ砂塵が舞い上がった。
優れぬ視界、だが討つべき敵は逃さない。
「貰った!」
そう叫んで、タクトを一気に振り下ろす。
狙いは配下のサーペント。
五本の剣が接触でたじろぐ蛇へと殺到した。
頭部に喉、顎に目と続々刺さり手応えを感じる。
黒き大蛇から流れ出る鮮血が砂漠を染め、そのシルエットが揺らめく。
これで残るは隻眼の大蛇だけ、そう思った瞬間だった。
配下の蛇が猛烈な咆哮を轟かせたのだ。
「何っ!」
大気を震撼させ天地を割らんばかりの莫大な声量に、思わず俺は声を上げる。
あの深手を負った配下のサーペントが、猛烈な勢いで接近し決死の反撃を繰り出して来た。
恐るべき執念とタフネス。
憤怒に染まったその牙が、背後から真っ直ぐ迫る。