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自分が書いた乙女ゲームの中のモブキャラに転生して、思い通りに書き換えちゃいました!

作者:

 流行っているようなので、書いてみました。

「あの子何様な訳!?」


「ふざけてるわっ!」


「私達の事を馬鹿にしてるのよ!」


 あるクラスメートの事を遠巻きに見つめ、私は友人と一緒に憤慨していた。

 視線の先には、華奢な体躯に透き通るような白い肌、小動物を連想させるような保護欲を引き立てる少女の姿があった。


 彼女の名前は浅乃あさの 真由佳まゆか

 ほんの一か月前まで、クラスの中でもそこそこ可愛くていい子という評価だったのだが、今では憎き敵である。

 それもそのはず、彼女は学院の王子様というべき大財閥の嫡男である、相沢あいざわ ひかる様とお付き合をしているという噂が実しやかに流れているのだ。


 また、問題はそれだけではない!


 彼女は、相沢様だけに飽き足らず、テニス界の新星、秋野あきの ゆう様、読者モデルとしてご活躍なされている藤見ふじみ 景昭かげあき様、学園一の秀才として名高い朽木くちき 聖夜せいや様なども、その毒牙にかけていると聞く


 なんという尻軽だろうか。

 これまで、何人もの優秀な人材を輩出してきた、高貴なる御嵩学園みたけがくえんに、彼女――――浅野 真由佳のような存在は絶対に許されてはならないものだ。


 私――――近藤 さやかは、憎々しげに浅野真由佳を見つめ、ハンカチを噛みしめる。


「絶対、ぜーたっいに! 彼女をこの学園から追い出してみせますわっ!!」









 この後喫茶店にでもどうですか? と誘う友人たちの提案を丁重に断り、校門前で友人たちと別れる。

 学校によって指定されたルートを律儀に守りながら家へ急ぐ。

 その道すがら、私はある事が心配だった。


「ああ、どうしましょう! 皆に付き合いが悪いと思われていないかしら……」


 先ほど断った友人たちの事だ。

 御嵩学園では、保護者同伴なしでの寄り道が禁止されているので、それを例に出して誘いを断ったはいいものの、そんな化石じみた校則を守る者など皆無なのが実情だ。

 実際に、私はこれまでに一度二度といわず、数えきれないくらいに遊びに誘われており、そのほとんどすべてを断っていた。


 あの子達が何度も誘ってくれるのは本当に嬉しいのですけど……。


 お行儀のいい御嵩学園だから、何度断っても笑顔で許して、親しく接してくれるのだろうけど、普通の学園だとこうはいくまい。

 その点は友人たちの純真さに非常に感謝していた。

 また、私としても、本気で校則を順守しようとして、彼女たちの誘いを断っている訳ではない。

 理由があるのだ。


 そのまま十分ほど歩き、私は家に辿り着く。


「はぁ……」


 その外観を見て、私は嘆息する。

 生まれた時から、もう数えきれないほどに繰り返し見てきた光景にも関わらず、慣れることはない。

 いや、むしろ、最近になって余計に違和感が湧きだしてきたといっても過言ではないだろう。

 それを一言で表現するならば、まさにボロ家だ。

 木造二階建てのアパートで、築ウン十年。

 二階に昇るための階段は一歩踏み出すごとにギシギシ鳴り、トイレは和式で、夏は清潔にしてもゴキブリが十匹単位で湧き、冬は隙間風がびゅうびゅうと吹き込んでくる。

 見ているだけで生気を抜かれそうな幽霊屋敷のようである。


 私はこの家に生まれた時から、母と二人で住んでいる。

 だが、勘違いしてほしくないのは、私は母の事を心の底から敬愛しているということだ。

 何不自由ない生活を送ってきた母は、十五年前に起こった震災によって、私以外の家族をすべて失った。

 それからというもの、母は働いた経験もないにも関わらず、私を育てるために、懸命に働いてくれている。


「ただいまー」


 私は二階の奥にある電気のついていない一室に入る。

 電気をつけようと、蛍光灯の紐を引っ張った。

 すると、二三度点滅した後、明かりがつく。


「なにか昨日よりも暗くなった気がしますね」


 蛍光灯が寿命なのかもしれない。

 お金がないというのに、困ったものだ。

 まぁ、いざとなれば、蝋燭で暮らしていけない事もない。

 とりあえず、ガスと水道さえ通っていれば、死ぬことはないのだ。

 …………たぶん。


「ふぅ」


 とりあえず落ち着こうと、逆立った畳の上に腰を下ろす。

 その時の事だった。


 カサカサカサ……。

 カサカサカサカサ……。


 私の視界の端を黒い物体が素早く駆け抜けていく。

 私はそれを華麗にスルーして、寝っ転がった。


 世の皆さんはどうしてゴキブリ如きであんなにキャーキャー言うんでしょうか? 慣れてしまえば危害もないですし、犬猫と対して変わりませんわ……。


 Gとは生まれた時からの付き合いだ。

 滅多に見ない気持ちの悪い虫ではなく、毎日のように見る鬱陶しい虫である。

 もし、お金をくれるというのならば、捕まえて撫でて可愛がる事だって決して不可能な事ではない。


「……いけませんわ、はしたない」


 起き上がり、私服に着替える。

 制服は一着しかないのだ。

 皺ができてしまっても、クリーニングになど出せないし、アイロンをかける電気代が勿体ない。


「……勉強しましょうか」


 予習復習は欠かせない。

 私の将来を考えて、お母さんは相当な無理して私を名門校に入れてくれたのだ。

 その期待に私は答えたいと思う。

 私は組み立て式の机を出してきて、二時間ばかり勉強をした。







 



 外が暗くなり、私のお腹がグゥと可愛らしく鳴った。


「お腹空きましたわ……」 


 空腹で思い出すのは、やはり友人に誘われた喫茶店の事だった。

 実は一度だけだが、私は誘いに乗って行ったことがある。

 その時の思い出は、幸せと絶望、どちらにも塗れている。


 まず、チーズケーキ。

 濃厚なチーズの風味と、フワフワで滑らかな触感が、頬が落ちそうなくらいに絶品でしたわー!


 紅茶も、それに負けず劣らずに、人生で一番美味しかった……。


 ただ――――


「紅茶一杯七百円……チーズケーキ千円ってどういう事ですの……?」


 会計時の絶望は今も胸の中に強く刻まれている。

 高校二年生――――十七歳である私のお小遣いは月に二千円である。

 そのほぼすべてが、たった一度のお茶で消えていったのだ。


 私としても千円は覚悟してましたわ! でも! 七百円! 七百円オーバーですのよ!? 今考えても信じられませんわ。


 あれ以来、一度も誘いに乗っていない。

 休日はクラスメートに見つからないように、隣町のファーストフート店で学校には秘密のアルバイトを朝からしていて、とても時間なんかない。

 ハブられたり、敬遠されて当たり前の状況だが、何故かミステリアスな子だと思われているらしく、知ったときは背中が痒くなった。


「まぁ、なんだかんだで、私は幸せなのかもしれませんわね」


 初めは無理して始めたお嬢様口調も、今では自然と出てくる。

 お母さんには今でも笑われるけど、忙しい母を笑顔にできるなら、そう悪いものでもないんでしょう。


「さて! 買い物にいきましょうか!」


 晩御飯の用意は私の仕事だ。

 疲れて帰ってくる母のために、何を作るか考えながら、私は部屋を出るのだった。









 外に出ると、少し冷たくなった風が身に染みた。


「九月も終わりになって、急に寒くなってきましたわね」


 上着を取りに戻るか一瞬考えて、このまま行こうと決める。

 

 今から寒がってたら冬になった時が辛いですもの……。


 手を擦り合わせながら階段を降りる。

 階段は相変わらず、ギシギシと不吉な音を響かせている。

 私はそれを気にした風もなく降りていく。


 今まで大丈夫だったんですから、大丈夫なんでしょう。


 根拠のない過信。

 だけど、そう思ったのが運のつき。

 階段の最後の一段。

 それに体重をかけた瞬間――――


 バキッ!


 嫌な音と共に、私は体制を崩した。


「ひっ!」


 階段が折れたのだと、私は知った。


 だ、大丈夫! 最後の一段! 高さは全然大丈夫っ!


 実際、高さでいえば、何も問題のない高さだった。

 問題だったのは、私が倒れ込もうとしている先。

 そこは上段の階段だ。

 それが運悪く、私の頭に直撃コースだったのだ。

 認識した瞬間、


「きゃああああああっ!」


 私は悲鳴を上げた。

 しかし、悲鳴も虚しく、私は頭を強打してしまったのだった。






 目を薄らと開けると、光が差した。


「痛っ!」


 頭がズキズキと痛む。

 触れてみると、大きなたん瘤ができていた。


「……な、なんですの?」


 上半身を起こすと、折れた階段の断片が視界に入る。

 

「ああ!」


 それを見た瞬間、濁流のように情報が頭の中に流れ込んできた。


「あ、ああ、あああっ!」


 知らないはずの情報で脳内が溢れかえる。

 私は身体を痙攣させながら、それに耐える事しかできない。

 それも、数分して収まる。

 記憶の混乱や痛みが嘘のように、爽快な気分だった。


「まさか、まさかまさかまさかっ!」


 私はついさっき階段から落ちて酷い目に合ったことも忘れて、階段を駆け上り、部屋へ入る。

 そして、ワンルームの隅にある大きめの鏡を覗き込んだ。


「ああっ!」


 またしても大きな声。

 だけど、それは自然と出てしまうもので、私には抑えることができない。

 それくらい、衝撃的な事が起こっているのだ!

 私は鏡を見て、口をパクパクさせる。


「こ、この顔! 知ってるっ!」


 私はその顔をよく知っていた。

 美女の顔から、特徴と言える特徴をすべて差し引いて、平坦でノッペリさせたような顔。

 田舎のイモ顔とでも呼ぶべきなのか、特徴のない事が特徴と呼べるような、そんなモブの鏡のような顔!

 それはまさに! 私がライターを務めた乙女ゲームである『ラブ☆ファンタジア』のモブキャラの姿そのものだったのだっ!







 『ラブ☆ファンタジア』それは、浅野真由佳を主人公とした乙女ゲームの名称である。

 プレイヤーは浅野真由佳になりきり、陰湿なイジメや身分の違いを乗り越え、男の子と結ばれるというストーリーだ。

 ちなみに私――――近藤さやかは、悪役令嬢でもなんでもなく、悪役令嬢の陰から主人公に一言罵声を浴びせるのが唯一の登場シーンであるという掛け値なしのモブだ。

 正直、名前だけでは思い出せなかったが、このある意味では特徴的すぎるノッペリ顔のおかげで、思い出すことができた。

 作者にも関わらず……ね。

 で、私は鏡を見つめてた訳だけど、


「こんな顔いやああああっ!」


 頭を抱えて、畳を転がった。

 だけど、耳元でカサカサ音が聞こえ、慌てて飛び退く。


「ひゃいっ!?」


 ゴキブリ! ゴキブリ! ゴキブリィっ!?

 虫絶対無理っ!


 私は心の底からそう思った。

 すると――――


「……へ?」


 さっきまで、我が物顔で畳の上を這いまわっていたGが忽然と姿を消したのだ。

 同時に、頭の中に聞いたことのない機械音が流れてくる。


『作者権限を行使しました! 作者権限を行使しました!』


 な、なんですの!? 今の!


 分からないが、作者が私なのは間違いがない。


「私の権限?」


 理解できない。

 理解できないが、とりあえず、Gがいなくなって良かったぁ!

 と、思ったのも束の間、自分の顔を見て絶望する。


「こんなの……前の顔の方が美人だったのに……」


 三十歳、独身、シナリオライター。

 それでも、顔とスタイルには自信があったのだ。

 全然モテなかったけど!


「いやだぁ! いやだぁ! 美少女がいいよ!」


 すると、またしても! と、思いきや――――


『作者権限の行使を失敗しました! 作者権限の行使を失敗しました! 容姿の変更はキャラクターデザイナー様にお問い合わせください!』


 機械音が脳内になる。

 

 なにそれ!? ガッカリだよ!!

 つまり私はずっとこのままってこと!?

 最悪だ……このモブ顔じゃオシャレも楽しめないよ……。

 

 私はすっかり意気消沈した。


「はぁ……じゃあもういいよ。とりあえず、晩御飯出して」


 頭で食べたいものを念じる。

 そうだなー。今日は唐揚げの気分かも。もちろん栄養満点カロリーゼロね!


 目を閉じて念じ、開けると、目の前に唐揚げのみならず、ホカホカご飯とサラダまで並んでいた。


「わぁー! 美味しそうっ!」


 生唾を飲み込んでいると、ちょうど母が帰宅する。


「ただいまー」


「あっ、おかえりー」


 お母さんは、相変わらず疲れた表情をしているが、私の前では気丈に笑顔を浮かべる。


「今日は早かったね?」


 私の問いかけに、母は何故かポカンとする。


「その口調どうしたの?」


「えっ、あ」


 今気づいた。

 私の口調が、前世でのそれに戻っていたのだ。

 いけない、いけない! お母さんに余計な心配かけちゃダメッ!


「どうかされまして?」


 冷や汗を浮かべながら取り繕うと、母は吹きだした。


「もう! なにそれっ」


「あはは……と、とりあずご飯頂きましょう?」


「そうね」


 私はお母さんとともに、晩御飯に舌鼓をうった。

 モグモグと夢中で食べていると、お母さんがある物を差し出す。


「なに、それ?」


 受け取ると、それは宝くじだった。


「取引先の人が宝くじ大好きな人でね、付き合いで買わされたのよ」


「それはご愁傷様ですわ……」


 お母さんの表情には、不満がありありと浮かんでいた。

 質素倹約をを掲げるお母さんには、付き合いとはいえ、宝くじを買うなんてとんでもない事なのだろう。

 差し出された宝くじを受け取って、私はふと気づく。


 これ……もしかして当てれるんじゃない?


 宝くじの紙には、当選番号発表は、明日の金曜と書いてある。

 私は宝くじを一晩握りしめ、当たるように祈り続けた。

 

 当たりますように! お母さんが楽できますように!


 そして、翌日、私は驚愕する。

 なんと、一等が当選したのだ!










 宝くじで、4億という大金を当選してから、私の人生は大きく変わった。

 まず、家が変わった。

 築五年の新築マンションの一室、2LDK。

 お母さんと二人で暮らすには、十分な広さだ。

 また、お母さんも余裕のある仕事に転職した。

 女性で、しかもお母さんの年代となると、転職は難しい事なのだろうけど、私の作者権限があれば実に簡単な事だった。


 そして! 今!


 私はこの世の春を謳歌していた。

 つまり、モテモテだった!


「さやかちゃん、可愛いよね」


「そ、そんな甘言には乗せられませんわっ!」


 キリッとした運動神経抜群の美形に口説かれ、


「君は、美しい……」


「や、やめてくださいませっ!」

 

 アラブの王族だという渋いおじ様に求婚され、


「……俺の女になれよ」


「……ダ、ダメッ!」


 超絶美形不良(親は大金持ち)に強引に迫られる日々!

 ああ! なんという幸せでしょうっ!


 私のモブ顔にはまったく変化がない。

 だけど、設定を弄ったことにより、この世界ではモブ顔こそが最高の美ということになっている。

 私のモブ友達も同じくモテモテになって大喜びしていた。


「ねぇねぇ、聞いた?」


「どうかなさいまして?」


 そのモブ友達である所の、麻生あそう 彩花さいかの言葉に私は耳を傾ける。


「浅野真由佳が相沢光様とご婚約なさったんですって!」


「そう! それは御目出度いですわねっ!」

 

 今の私には以前のように浅野真由佳に対する悪感情はない。

 なにせ、生みの親でもある訳だし。


 そう……貴方はそのルートを選んだのね……。


 安堵の気持ちの方が強かった。

 だって、私には!


「さやかさん! 好きだっ!」


「近藤さん……二人で遊びにいかない?」


「……君じゃなきゃダメなんだっ」


 愛してくれる方がいっぱいいるんですものっ!!

 感想、評価、是非お願いします!

 読んで頂いて、ありがとうございましたっ!

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