1章 1話 近所の幼馴染みの家族と一緒に事故った
初投稿です。面白いかはまだ分からないですが、どうか長い目で見て頂ければ。
よろしくお願いします。
「うわー、海がキレイ~」
車窓から見えてきた海を見て幼馴染みの玉置珠が言った。
開かれた窓から流れ込む風に珠の肩までかかる長い黒髪が靡いている。
「悠くんも見てよ」
前髪にかかった髪を掬い上げながら俺の肩を揺する。
「ゆ、揺するな、うおぇ、酔った…」
山育ちの俺たちにとって海は滅多に見ることはない。当然、俺だって嬉しいけど、今はその磯の香りが俺の吐き気を助長する。
「悠は昔から乗り物に弱いもんな」
そんな俺の弱々しい言葉に運転中の親父がルームミラー越しに苦笑する。
「うるせ……、あ、珠、窓閉めて欲しいんだけど……」
「せっかくの海なのに~?」
「いや、ほんと、お願いします」
俺の発言に不満な表情を浮かべる珠にいかにも申し訳なさそうに言う。
「悠ちゃんは本当に珠ちゃんに頭が上がらないのね」
そう言ったのは助手席に座る俺の母さんだ。確かに今の俺は珠に頭が上がらない。
しかし、頭が上がらないのは珠のせいではなく、主に俺の左隣に座る男が原因だ。
珠の話が上がるたびに俺のことを睨む男。珠の兄、玉置 真二だ。
まあ、こいつが珠を大事にするのも理解は出来なくもない。何せ、玉置家には今、この玉置兄と珠しか居ないのだ。二人の両親は早くに亡くなってしまった。
そんな家庭で男手一つで妹を育てたのだから、妹大事も当然だろう。
とはいえ……。
何を言うでもなく、無言で睨まれるのは耐え難い。
「もぉ、悠くんはだらしないなぁ」
俺が真二の前では下手に出ることを知っている珠はニヤニヤしながら俺を見る。
くそ、からかってやがる。
思うが、俺は何も言えなかった。
後で覚えてろよ。
「そうだぞ、悠。もうすぐ着くから、我慢しろ」
そんな珠の言葉に親父が真顔で応える。
勘弁してくれ。
「くそ~、もうすぐって、どの位だよ」
「もうすぐは、もうすぐ……うおっ!」
親父が叫び声を上げたのと、衝撃が来るのはほぼ同時だった。
「きゃあ!?」
「うおっ!!?」
両隣から聞こえる驚きの声。それもそのはずで、唐突におとずれた衝撃の激しさに驚かないほうが無理がある。
「痛ぇ……」
衝撃が収まると首のあたりに鈍痛が走る。
痛みにみ
「あなた、あなた!?」
続いて聞こえたのは母さんの声だった。
視線を親父に向ければ、親父の身体がおかしい。身体の半分が車体の鉄に埋もれて見えないのだ。恐らく、親父の身体は衝突した何かに押し潰されてしまったのだろう。
「嘘だろ……」
呟いて俺は隣の珠を見る。珠は親父のすぐ後ろの席に座っていたからだ。
「痛い……」
見れば珠は痛みに頭を押さえてはいるが無事なようだ。
ホッと胸を撫で下ろすと、突然
「おいっ、タンクから火が出てるぞ!!」
真二の叫びに初めて衝突した物体を見る。確かに目の前にあるのはタンクローリーだ。それも、タンクの下辺りから黒い煙が見える。
「扉は開くのか!?」
俺が慌てて尋ねると、真二が
「っ、こっちは開くぞ」
「母さんの方は!?」
「あなた、起きて? 起きてよ……」
母さんは自失の態で俺の声など届いていない様だった。
「……とりあえず、車から離れよう」
母さんのことは気になるが、宥めている時間もない。ともかく、俺はそう言うと、真二、俺、珠の順で車から脱出する。
車から出ると俺はすぐに助手席側のドアに手をかけるが
「開かない!? 何で……?」
何度もドアを引くが一向に開く様子がない。
どうやら、車体のフレームが歪んでしまったようだ。
「おいっ、何してる!?」
俺がモタモタしているのに耐えられなかったのか、真二が駆け寄ってくる。その後ろには珠もついてきていた。
「扉が…開かないんだ!!」
その言葉に真二が青い顔をする。
「後部座席から母さんを脱出させたいけど、今の母さんの様子じゃあ……」
恐らく、暴れて一筋縄ではいかないだろう。
俺の脳裏に最悪の状況が過る。
「そんなこと言ってる場合か!!」
そんな俺の言葉に真二が叱咤する。その叱咤に圧されて俺は意を決すると、後部座席から助手席のリクライニングを倒し母さんを引っ張る。
「あなた、あなた~」
予想通り暴れる母さんに手を焼いていると
「落ち着いて下さい」
真二がドアの隙間から手を伸ばすと、母さんを引っ張るのを手伝ってくれた。
ひっしになって親父のことを呼び続ける母さんの声に胸が締め付けられる。
チラリと見た親父の遺体が痛々しくて、俺はさっと目を背けると
「母さん、暴れないで……」
母さんに切実な想いで声をかけるが、母さんにはまるで届かない。
「おいっ!!」
母さんを脱出させようと四苦八苦する俺の背後から真二の悲愴な声が聞こえた。
これまで聞いたことのない声音に俺が真二の視線を追うと、タンクローリーのタンクに引火する瞬間が見えた。
瞬間、何らかの衝撃があった……のだろう。俺の意識はそこで途切れた。