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雑記1

作者: 香箱

 だらだらと酒を呑みつつ教育テレビの番組を見ていたら年が明けた。蛇から馬へ、爬虫類から哺乳類へ。そんな2014年の幕開けだった。騒がしい小箱の住人達は感動的な演出で新たな一年の到来を盛り立てていたが、ブラウン管の向こう側、安アパートの一室 でひとり安いチューハイをあおるのは、ゆく年もくる年も変わらない僕でしかなかった。


 「ぷふー」と、溜め息ともげっぷともつかぬ吐息を漏らし、リモコンを手にとってチャンネルを回す。アイドルであったり、お笑い芸人であったり、ミュージシャンであったり、めまぐるしく現れては消える残像はどれもにこやかに笑みを浮かべている。「うー」無意識に威嚇の声を発している自分に気づいてテレビを見るのはやめにした。日が暮れてから呑み通しだ。どうも、いや、やっぱりかなり酔っているらしい。


 思えば去年も不毛な一年だった。生きるために生きているというか。生きているから生きているというか。慢性的なときめき不足にあえぎ、これではいかんと一念発起して一人暮らしもしてみたものの、それは元々キャンプファイヤーのごとく燃え盛っていた自堕落の炎にバケツリレーで油を注ぐ結果と終わった。辺り一面焼け野原。むしろ親という話し相手が減った分悟りに近付いた感さえある。ブッダキリストときて次のメシアは僕かも知れぬ。


 「暇だなあ」と新しい缶を開けつつまた無意識につぶやいて、耳に入ったその自分自身の言葉でなんだか泣きそうになる。なんだこの正月は! こんなことなら意地を張らずに実家に戻るんだった。後悔先に立たず。だが、だからといって納得して大人しく寝る気にもならない。


 そんな時、ふと、テレビの画面が目に入った。何チャンネルか定かではないが、そこには寒々しい夜空の下、ライトアップされた立派な神社と着飾った大勢の参拝客が映っていた。今から初詣に行ってみようか。虚しさに満たされる胸を、チロリ、とマッチの火のような遊び心がくすぐった。


 正直、元旦の深夜からわざわざ蟻の巣をひっくり返したような神社に出向くなんてよほどの阿呆のすることだと思って生きてきたし、ウフフキャハハと一緒に初詣てくれる相手ももちろんいない。完全ぼっち。むしろデイダラボッチ(妖怪)。だからこそ、いやさ、だからこそ! その計画はこんな夜にぴったりの名案だと思えた。


 いつの間にか虚しさは胸から押し出され、半ば自虐的なものとはいえ、好奇心に鼓動を高鳴らせる自分がいた。まあ、こんなものだ。些細なことで悩むのも、些細なことに喜びを覚えるのも、ゆく年もくる年も変わらない僕でしかなかった。これだけワクワクできるならまだまだ大丈夫。


 着ているスウェットの上下の上に厚手のパーカーを羽織り、マフラーを巻き、そして気付けば上機嫌に、男は騒々しい夜へと飛び出した。

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