世界で唯一幸せになれる国
ボクはとっても幸せだ。
そして幸せである事が自慢だ。なんで幸せで、どれだけ幸せか——それをすっごく語りたいのだけど、周りにいる人はみんな、ボクと同じくらい幸福な人ばっかりで、この話をしても『その通りだねぇ。幸せだねぇ』と言って微笑ましそうに見てくるばかり。
ほんと、重大さがわかってないったらないね! 頭にきちゃうよ!
でもボクはそんな人達に、声を荒立てて怒ったりはできない。だって、『自分が幸せであるのに気付けてない事こそが、幸せである証』なんだからっ。
……まあ、おじさんの受け売りだけどね。
ボクのおじさんはすっごい人だ。いっつも外国に『調査』っていうので人を助けに行ってるんだ。そのせいであんまり会えないのは悲しいけど、それはおじさんだって一緒。なのに調査を頑張るおじさんは、本当にすっごくかっこいい人だ。ボクも将来はおじさんみたいになりたいな、って思ってる。いや、絶対になるんだ!
……とっとっと。話が逸れちゃった。
えーっとね、ボクがなんで幸せなのか。
本当は色々あるんだけど、一言にまとめちゃうとそれは——
——『この国』に生まれたから!
おじさんが教えてくれたんだけど、他の国に生まれた人はすっごく大変なんだって。
ご飯は食べられないし、病気がいっぱいだし、電気とかもなかくて、とっても大変なんだって。生まれた赤ちゃんもすぐに死んじゃうって、おじさん言ってた。
でね、ボクはそれを聞いてやっとわかったんだ。ボクがどれだけ幸せなのかって!
毎日ご飯が食べられるし、病気もそんなにないし、お部屋はあったかい。ボクも昔は赤ちゃんだったはずだけど、今も元気に生きてる。
それが、とっても幸せな事なんだってやっとわかったんだ!
……なのに周りのみんなはそれがどんなにすごいことなのか全然分かってくれないんだ。
みんなって言っちゃったけど、この事を教えてくれたおじさんだけは、きちんと真剣な顔でボクの話を聞いてくれる。やっぱりおじさんは、すっごくいい人だ!
——と、そのとき。
「おーい、帰ったぞー……って、んん? 作文の宿題か?」
「お、おじさんっ!? いつ帰ってたの!?」
ボクは慌てて紙を腕で覆った。おじさんが帰ってくるときはいつも、連絡なしで突然だ。
「隠さなくてもいいだろう……俺とお前の仲じゃないか。『親友』だろ?」
「は、はずかしいからダメ! おじさんは余計にダメ!」
よくよく思えば、おじさんがすごいとしか書いていないプリント——こんなの、見せられない!
おじさんはこんな年下のボクを親友だって言って、対等に見てくれる。だから、見られるわけにはいかない。こんな子供っぽいところは見せたくない!
「思春期……お前ももうそんな時期なのか。もしかしてお土産も、もういらないか?」
「いる! 絶対いる!」
思春期っていうのはよくわからないけど、お土産がもらえないならボクは一生ならなくていいっ。
「そうか、よかったよかった。それで、今回のお土産は——」
話しながら、ボクは「やっぱり」と笑みをこぼしてしまう。
「どうした?」
「えーっと、ね。やっぱり——」
「——この国に生まれてボクは幸せだなぁ、って思っただけ」
『自国』という題名で出された作文の課題を思いながら、言った。ほんと、みんなにもいつかそのことをわかってほしいものだ。
そんなボクの言葉を、おじさんはいつものように真剣な顔で聞いていた——……
*
ワタシはとっても幸せだ。
そして幸せである事が自慢だ。なんで幸せで、どれだけ幸せか——それをすっごく語りたいのだけど、周りにいる人はみんな、ワタシと同じくらい幸福な人ばっかりで、この話をしても『その通りだねぇ。幸せだねぇ』と言って微笑ましそうに見てくるばかり。
ほんと、重大さがわかってないったらないわ! 頭にきちゃう!
ワタシがなんで幸せなのか。
本当は色々あるんだけど、一言にまとめちゃうとそれは——
——『この国』に生まれたから!
オジサマが教えてくれたのだけど、他の国に生まれた人はすっごく大変なそうよ。
空気には毒があって、ご飯も毒入り、災害もいっぱいで、とっても大変なんだって。息をしただけで死んじゃうって、オジサマが言ってたわ。
でね、ワタシはそれを聞いて——……
*
——今日も世界は幸せで満ちている。