愛鬼
傷が徐々に回復していく。
もちろん、これが意味するのは分かっている。
彼女は、俺の「鬼器《オニノウツワ》」になったのだろう。
気絶しているから、今は痛みなど感じないだろうが・・・。
「お姉様。 私はもうこいつを殺してもいいのですか。」
若い吸血鬼が自分の師に問う。
「いいえ、殺してもいいのは次の晩。 私たちは、約束は守らないといけない種族だもの。」
分かりました、といい2人とも去っていく。
「いや~!危なかったねえ。 2本先取りの勝負にしておいてよかった!そうしないと界君が死んでいたよ。」
界君というのは、もちろん僕のことだ。鬼頭 界それが僕の名前。
「笑ってる場合じゃない。お前はこいつを・・・神憑をこっちの世界に引きずり込んだ。
俺はさらに苦しめられないといけない。」
僕が死ねば。
彼女は絶対にこっちには来なかったはずだ。
今思うと、悔しい。そして引きずり込んだこの笑い袋が憎い。
「苦しめられないといけないって・・・それは単なる君の優しい優しい心の問題でしょ?
正確には、苦しめられるのは彼女のほうで、君は助かるはずだ。
僕は当たり前のことを、そして君の命を守っただけだ。」
彼の言うことは本当だ。
だからこそ、腹が立つ。
この契約を消すためには。
僕が頭になって死ぬか。
彼女が死ぬか。
それしか方法は知らない。
彼女のためにできる最前の方法は、頭になって僕が死ぬことだが。
なる前に、彼女に負担がかかるのは間違いない。
頭についてだが。
頭というのは、そのまま、鬼のリーダーだ。
鬼は、日本で最も強い妖怪なので、鬼の頭になるということは
必然的に全ての妖怪の頭になると同じ。
百鬼夜行を統率する。
そして僕は
とてもくだらないことに
名前のせいで後継者になってしまった。
迷信深い鬼(妖怪)の中で、名前というのは非常に強い意味合いを持つらしい。
そういうことで、とあることがきっかけで鬼になってしまった僕は、
名前のせいで鬼頭の後継者となってしまった。
どうでもいいけど・・・自分の名前と区別がつかないので、知り合いには界と呼ばせてる。
「さて・・・彼女のためにも頭にならないとね。まあ、なるまえに死ぬかもしれないけど。」
笑い袋が軽快に笑いながらいう。
「・・・本当に他に彼女を元に戻す方法はないのか?」
「んん・・・そうだねえ。もう一つあったようなきがするよーななかったよーな・・・」
とても腹が立つ。
こいつは、本当は分かっているはずだ。
こいつだって元々は・・・
「まあ、どちらにせよ今の状態には君が頭になって死ぬしかないね。
君が助かる道なら、彼女が今すぐ死ぬかだけど。」
辛い目にあうのは僕だけでいい。
「ん・・・うん・・」
彼女が寝返りを打つ。
「ああ、そろそろ君のハニーを起こさないとね。」
「勝手に俺のハニーにするな。」
おーい、起きろー。と呼びかける。
彼女は目をすぐにあけた。
「ん・・・おはようございます。」
「おはよう。」
といっても今は3時ぐらいか。
「怪我はないか?」
「どうしてこうなったのかは置いといて、とりあえず怪我とかはないです。
というか!無事だったんですね! よかった・・・。」
「ああ・・・」
彼女に説明しないといけない。彼女の今の状態を。
―――
彼は、何かを考えるような表情でとまります。
それにしても謎です。
笑い袋さんからもらったあの豆を食べ、そして彼に食べさせたら、
とても強い痛みに襲われ、そのまま意識を失ってしまいました。
痛みといえば簡単ですが、どれくらいの痛みなのかはみなさんの想像に任せます。
少し具体的に話すと、腹部が切り裂かれてひりひりした感じです。
死にたくなるほど痛くて、死にたくなるほど自分が嫌いになりました。
とりあえず、謎はたくさんあるので彼に聞くことにします。
「あの・・・あなたのお名前はなんでしょうか?」
「ん・・・ああ、俺の名前は鬼頭 界だ。」
私と同じぐらい珍しい苗字の方もいたものです。
「私、よく状況がわからないのですが・・・。まず、鬼頭くんは、その・・・中身、見えちゃってましたよね。なぜ元通りに...?」
露出狂よりもグロテスクです。
「それは・・・」
「それは、君が界君の鬼器になっちゃったからさ!」
いきなり雰囲気をぶち壊して笑い袋さんが入り込んできました。
「鬼器?」
「そう。鬼器。 鬼と契約した状態、とでもいうのかな。
鬼は、昔から鬼器を持つことで、自身の妖怪的能力を向上させてたんだ。
具体的には、治癒力、痛みや負の感情の抑制とか。」
「なるほど。それじゃあ鬼頭くんのあのグロテスクな状態が治ったのは、私が鬼器になったからなんだ。逆に、器となった人間は?」
「器となった人間は、鬼の力を少し借りることもできる。
治癒力と身体能力、あと君の場合は・・・。 複雑だからまた今度教えよう。」
もったいぶられました。
「おい、俺は別にいいんだが・・・神憑は今の話本当に信じたのか?」
「え?」
「鬼とか妖怪とか、しかも鬼器とかいわれて、自分までこっちの世界まできて、信じられるのか?」
「いや・・・そういわれても・・・現に目の前に笑い袋さんという非科学的なものを証明する物体が跳ねておりますし。」
「そんな非科学的なものの言うことを信じれるのか。」
そういわれてしまうと何も言えないです。
「というか!なんで鬼頭君は私の名前を知っているんですか!
そして、なぜさっき謎の2人組に殺されかけていたのですか!」
急に大声を出したので彼は驚いたようです。
「あ、ああ。えーっと、覇権争い、といったところか?あいつら以外にも、あと2人いる。
そいつらの戦いに勝てば、お前を器から解放できる。」
「別に、私は鬼器でもいいですよ。」
身体能力向上とか、便利じゃないですか。
「いや、鬼器となってしまった人間は、その鬼の心情や物理的な感覚を受けるんだ。」
「? つまり、どういうことですか。」
「ようするに、俺の痛みや絶望とかを分かち合うことになるんだ。
そして、さっきの名前のことだが。
お前の血族は、俺ら鬼器として名器となっている。 その理由は、」
え・・・?
「鬼の痛みを全て引き受けるからだ。」
学校は、明後日からゴールデンウィークです。
ですが、血と痛みにまみれた1週間になりそうです。




