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#5話:帰り道の問題






 クイシェは裸のまま眠る少女に、慌てて羽織っていたケープを脱いで被せた。早く村に運んで暖かくしないと風邪を引いてしまうだろうと、急いで運ぶようにカウスへ伝えようとしたのだが。


「……う、これじゃ足りない」


 サイズ的に当たり前なのだが、ギリギリで腰あたりまでしか覆えていない。これじゃ寒い以前にカウスに背負わせるのは駄目だろう。かといって険しい山の道無き道を、どうやら自分よりも少し背が高いらしい少女一人背負って村まで歩くのは、魔導術を使ったとしても無理だろう。しかもお尻を出したままだなんて論外である。


(ええと……胸のあたりから巻き付けて……駄目駄目、そもそも寒いんだから……)


 体を離すと途端に不安そうな表情になった少女に「ほんの少しだけ、待っててね!」と言い残して洞穴から飛び出ると、少し離れたところで待っていたカウスのもとへ走るクイシェ。


「どうなった?」

「も、もうだいじょうぶです。でも気を失ったみたいに眠っちゃって、体冷えてるし、はやく村に行って、暖めてあげないと……」


 そう言いながら地面に転がっているギュランダムを転がしながらローブを剥ぎ取ろうとする。


「か、カウスさんも手伝ってくださいっ」

「……おう」


 とりあえず何も言わずに手伝うカウス。

 上半身を持ち上げて服をスポンと脱がすとギュランダムはそのまま地面に落ちた、その様子を見もせずにクイシェは洞穴へ駆け戻る。

 肩を抱き上げると安心したのか表情が和らぐ少女を見て、クイシェは自然と優しい気持ちになった。


「これなら大丈夫なはず……」


 老齢だがカウスよりも上背のあるギュランダムのローブは、少女の体を充分包むことが出来た。さらに上からケープも羽織らせる。


「カウスおじさんー! もう大丈夫なのでこっちに来てくださいー!」

「おーう」

「この子を村までお願いします……あっ、変なところ触ったら駄目ですよ!」

「いや触らないから……ところで、あのクソジジイどうすんだ?」

「え……どうすんだ、って……?」

「いや、気絶したまま起きないんだが」


 ほれ、と指さされた方にクイシェが近寄ってみると、そこにはにやけ顔で白目を剥き鼻血を流しながら微動だにしない半裸の男が横たわっていた。


「変態ーっ!!」

「……いや、弁護したくはないが、鼻血は俺が殴ったから……か? まあそっちはともかく、服を脱がせたのはお前だ」

「あ、あああー……ど、どうしましょう」

「俺としてはこのまま放っておいてもいい気分」

「さ、流石にそれは……」

「だってよ、ひゃほーうだぜ? ひゃほーう」


 どんなにエロ腐っていても、恩師であるギュランダムにそこまで無体な事はしたくないクイシェだった。既に剥いでしまった服のことは、まあ、考えないでおくとして。

 とはいえ、このまま起きるまでここで待っていては少女が弱ってしまう。かといって気絶したギュランダムとクイシェ2人だけがここに残るというのも危険だ。


「さすがにこの娘背負いながらジジイも背負うのは無理だぞ。ジジイ無駄にデカイから」

「え、ええと……」

「仕方ないな。引きずっていこう」

「うう……」


 それもあまりに酷いと思ったクイシェは、せめてこれくらいはとカウスの上着を借りて魔導術で強化し、頑丈にした上でギュランダムに着せた。フードで頭も保護すると、自分の上着を一枚クッション代わりに詰め、2人で片足ずつ掴んで引っ張っていくことにした。少女はカウスが片腕で背負う。

 

「さて、風邪を引く前にさっさと帰るか」


 お互い上着が減っていて肌寒いのもあり、行きよりも早足で山を下っていく。2人で引き摺っているとは言っても実質カウスが1人で引っ張っているようなものだった。滑りやすい草の上だろうが斜面だろうがスピードを一切変えることなく、その安定した足運びは凶暴な魔獣を相手取る狩人だけはあるのだが、引き摺っている相手に対して敢えてまったく配慮しない様に歩いている様にも見えた。

 村へ向かう間、背後では草やら枝やらに引っかかり、何度かはゴン、と鈍い音がしていたような気がする。

 クイシェは考え事をしていて、聞かなかったことにした。


(この女の子……が、違和感の正体?)


 それは、今もじんわりと感じ続けている違和感がこの少女を中心としていることからも間違いないだろう。ただし、どうしてそんな違和感を感じるのかはまったく理解出来ていない。

 裸だったのだから、何ら魔術的なものを身につけているわけでもないし、外見も普通の人間として変わったところは見当たらず、気になるところと言えば髪の色くらいだった。


(真っ黒……に見えるんだけど……)


 黒い髪というのは見たことも聞いたことも無い。染めているのか、あるいは外見が人間と見分けの付かない様な、特殊な獣人(・・)なのかもしれない。

 違和感の正体がわからないのは、それが未知の存在だから――という結論に達したところ、それは納得がいく様でいて結局なにも判っていないと言うことだった。

 とはいえこの違和感、奇妙な感覚ではあるのだが決して嫌な感じはしていないので、それほど気にする事はないのかも知れない。

 クイシェにはもう一つ気になっていることがあった。


(結界が壊れるとほぼ同時、何の予兆もなくいきなり現れた違和感の正体がこの女の子なのだとしたら、この子はいきなり山奥に現れた、ってことになる……のかな)


 その時は半分寝かけていた為、ハッキリとは憶えていない。


(いや……違った)


 ふと、感覚的に憶えていることを体が思い出した。


(あの時の違和感は……ものすごい勢いで村を通り過ぎていったんだ。そして山奥のほうで止まった……)


 弓から放たれた矢よりも速い、恐ろしいスピードだった。そんな速度で移動する物体をクイシェは知らなかったし、ましてや人間にそんなことが出来るとは思えない。


(だから、女の子が先にあそこにいて、違和感が後からやってきてあの子に移った……結局違和感の正体がなんなのかは判らないけど、そのほうがしっくりくる、かな……?)


 その場合は獣人ではないのかもしれないが、どちらにせよ本人に聞いてみなければ判らないことだ。今はこれ以上考えても仕方ないかと、思考を中断しかけた頃、ちょうど村が見えてきた。


(そういえば……何かを……忘れている気が……?)


 何かが引っかかっていたのだが結局思い出せず歩いていると、薄い膜が、ぱーんと、弾ける様に崩れる、そんなイメージがクイシェの感覚に伝わった。


「……あ」


 境界をまたぐと同時、作り直したばかりの結界が壊れた。

 時刻は深夜。

 再設置には、また数刻ほどかかる。








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