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第6話 正解の更新

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放課後の体育館。


結界が閉じられ、外の音がすっと遠のく。


魔導士にはそれぞれ「型」がある。


洗練された、安全で合理的な攻防の体系。

魔力の練り方。間合いの測り方。先制魔導の組み立て。魔剣士タイプなら踏み込みの角度。


教本通りに動けば、大崩れはしない。

最低限、負けにくくなる。


凛の構えは、まさにそれだった。


無駄のない重心。

最適化された魔力循環。

初動から四手先を見据えた剣筋。


県大会常連にふさわしい”正解の動き”。


だが、魔導競技で”正解”は、必ずしも”最善”ではない。


積み重ねられた常識は、いつか誰かに更新される。

正しい型、完成された型は、その瞬間から解かれ始める。


「……いくわよ」


凛が鞘から片手剣を抜き、踏み込んだ。


鋭い、速い、迷いがない。


(綺麗だな)


俺は半歩だけ退き、魔力の流れを読む。


(次は……西洋型水系統魔導で退路を封鎖するかな)


予想通り、背後に魔法陣が展開された。


発動より一瞬早く、後ろへ下がる。


水のレーザーが俺の目の前を通り抜け、結界に突き刺さった。


「これならどうよっ!」


凛が連撃を繰り出す。


俺は最小限の動きでそれをかわす。


その瞬間。

凛の体内で魔力が動いた。


(次は足元に束縛魔導)


俺の足元に魔法陣が展開される。


だが、その前に。




東洋型無系統魔導


「”法陣破棄”」




パリンッ。


足元の魔法陣が砕け散った。


「なっ!?」


凛が目を見開く。


すぐに距離を取り、体勢を立て直した。


(戦うの上手いな、凛さん)


凛は間違っていない。


限りなく最善に近い。


――だからこそ、読める。


「っ……!」


凛が真正面から走り込んできた。


体内の魔力が動く。


次の瞬間、剣がこちらへ投げられた。


俺は一歩下がって避ける。


(ん?)


凛は鞘を抜き取り、突きを繰り出そうとする。


だが、距離が遠い。


違和感。


凛が鞘をこちらへ向けた。


先端には魔法陣。




西洋型水系統魔導


「”アクア・レーザー”!!」




魔法陣が閃く。


だが、その前に。


俺は凛の足元に魔法陣を展開していた。



東洋型空間系統魔導


「”ぬま”」



足元の空間が歪み、魔素の沼が生まれる。


凛の体勢が崩れた。


「うそっ……!?」


レーザーが俺の横を通り、結界へ突き刺さる。


今なら、間合いへ踏み込める。


だが――決めない。


凛は後退し、体勢を整えた。


「どうして……そんなに早く対応できるのよ!」


息を乱しながら睨んでくる。


タイマーはまだ十三分以上残っている。

だが魔力消費は、明らかに凛の方が多い。


「特別なことはしてません」


「嘘よ! アタシは最善を選んでる! 間違ってない。なのに!」


「ええ。間違ってないです」


素直に頷く。




「でも、それは一昔前の戦い方です」




「……え?」


「凛さんの型は完成している。いや、完成し過ぎてるんです」


凛の瞳が揺れた。


「……どういう意味?」


「完成している型、つまり――揺らぎがない型は、予測しやすいんです」


静かに続ける。


「正確で、合理的で、強い。だからこそ“幅”が見える」


「幅……?」


「選択肢がある程度、絞られるんです」


「だから、読める?」


「はい」


凛の呼吸が止まる。


「今は奇襲やトラップ、魔導の組み合わせ、型を崩した攻め方をして幅を増やしている選手が多いです」


「……よくそんなこと知ってるわね」


「まあ、うちは魔導雑貨店の店主なので」


肩をすくめる。


「……じゃあ、私の戦い方は古いってこと?」


「……そういうことになります」


沈黙。


凛の視線が落ちる。


彼女が今まで守ってきたもの。


それは、長い時間をかけて積み上げてきた“正解”。


「アタシは……」


剣先が震える。


「間違えないように、ずっとやってきた。間違えたら、負けるから」


「はい」


「負けたら、全部、無駄になる気がして」


結界の中は、静まり返っていた。


俺は少し考えてから、首を振る。


「無駄にはならないと思います」


凛が顔を上げる。


「……どうして」


一歩、間合いを詰める。


「俺の主観ですけど」


少し言葉を探す。


「必ずしも、勝つことが正解、負けることが間違いとは思ってないんで」


「……」


「俺は、知らないものを見たいだけなんです」


凛の目が揺れる。


「知らないもの……」


「読めない手とか。崩れた踏み込みとか。計算に乗らない選択とか」


少しだけ笑う。


「さっきの”アクア・レーザー”、良かったですよ」


凛の喉が鳴る。


「……あんなの、正解じゃない」


「はい」


「綺麗じゃない」


「はい」


「避けられた」


「はい」


「じゃあ――」



「でも、読めれなかった」



その言葉が静かに響いた。


「一瞬、迷いました」


凛の視界が滲む。


努力してきた。

間違えないように。

否定されないように。


強いと言われ続けるために。


「アタシは……」


声が掠れる。


「間違いたくなかった」


指先が震える。


「でも、アンタは……」


涙がぽたりと結界に落ちる。


「正解じゃなくても、いいって言うの?」


「はい。正解は更新されますから」


静かに続ける。


「凛さんが積み上げた正解も、きっと更新できます」


「更新……」


涙が止まらない。


凛は剣を握り直す。


ぐしゃぐしゃの顔のまま。


「……次はっ」


しゃくりあげながら。


「次は、もっと読めなくしてやる」


俺は少しだけ笑う。


「楽しみです」


結界の中。


輝夜凛の魔力が変わる。


完成された光ではない。


揺れている。

不安定で危ない。


だけど、確かに広がろうとしていた。


涙を拭わないまま、凛は踏み込む。


正解のためじゃない。


そして俺は――その一歩を、心から面白いと思った。


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