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第5話 放課後のデート?

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振り向くと、凛が立っていた。




一方の久保田は、石像のように固まったままこちらを見ている。


……おい、どうした。




「今日の放課後、マギア・バトルの練習をしましょう」




「えっと、ごめん。今日は店があるから……」




「一試合だけでいいわ」




そう言って、凛は俺の真正面に回り込み――




バンッ!!




机に両手を叩きつけた。




その瞬間、教室が静まり返る。




クラス全員の視線が、こちらに集まっていた。




「いいかしら?」




肉食獣のような瞳。


“逃がさない”という意志が、はっきりと宿っている。




「……はい」




俺は、そう答えるしかなかった。




「ありがとう」




凛は満足げに頷くと、何事もなかったかのように自分の席へ戻っていった。




こ、怖かった……。




「おい、慧」




今度は、さっきまで石像のように固まっていた久保田が、真剣な顔で俺の両肩をつかんだ。




「俺はお前との仲を、非リア充同士の固い友情だと思っていた」




「いや急に重いな」




「なのに!!」




久保田は叫んだ。




「なんで見た目が陰キャなお前が!!


なんで凛さんのほうから話しかけられてるんだよ!!」




「おい、失礼すぎるだろ」




「しかも放課後の練習って――


それ実質デートのお誘いだろ!!」




「違う違う違う」




「うらやましい!!!


うらやましいいいいい!!」




「いやデートじゃねぇよ!!」




===================





私――輝夜凛の人生は、常に「当然」でできていた。




勉強ができて当然。


運動ができて当然。


魔導競技で勝つのも当然。




その「当然」を作るために、誰よりも努力してきた。




朝は誰よりも早く起きて走り込み。


放課後は誰よりも遅くまで魔力制御の鍛錬。


帰宅後は戦術の復習と映像分析。




県大会常連?




当たり前よ。


そこまでやっているんだから。




負けるわけがない。


負けるはずがない。




――そう思っていた。




なのに。




突然現れた男に、私は負けた。




川縁慧。




ぼさぼさの髪。


猫背。


覇気のない目。




教室の隅で気配を消している、典型的な陰キャ。




視界にすら入れていなかった。




なのに私は、アイツに一撃も入れることなく完敗した。




力負けじゃない。


速さでもない。




アイツは回避を最小限の動きに抑え、魔力の消費すら最小限にしていた。




そして――




私の動きが読まれていた。




踏み込みも。


呼吸も。


癖も。




まるで、私の戦いをずっと見てきたかのように。




私は腹が立った。




私は努力してきた。




積み重ねてきた時間も、覚悟も、重さも。




もちろん、上には上がいることは知っている。




だけど、まるで散歩でもしているみたいな顔で、アイツは私の攻撃をいなした。




まるで――




勝つことより、別の何かを見ているみたいだった。




あんな余裕を見せつけられて、


私は悔しかった。




==================




放課後。


私は誰よりも早く、専用の体育館へ向かった。


今日は部活がない。




部長に頼めば、部活のない日は自主練習として体育館を使わせてもらえる。




私は結界用の魔法陣に魔力を流し込んだ。




淡い光が床に広がり、結界が展開される。




その内側へ、一歩踏み入れる。




剣を握った。




東洋型無系統魔導


「”身体強化しんたいきょうか”」




魔力を巡らせた瞬間、身体の感覚が鋭くなる。




床を踏みしめる感触。


空気の流れ。


筋肉の動き。




すべてが、研ぎ澄まされていく。




私は剣を振った。




シュ――。




空を裂く音が、静まり返った体育館に虚しく響く。




魔力消費をできるだけ抑えながら、魔力制御に集中する。




無駄な力を削ぎ落とす。




呼吸を整え、重心を落とし――踏み込みを鋭くする。




床を蹴る。




剣が、一直線に空を裂いた。


昨日よりも速く。


昨日よりも強く。




――それでも。




あいつの視線が、頭から離れない。




勝ち誇ってもいなかった。


見下してもいなかった。




ただ、”知っている”目だった。




「……くそ」




感情がうまく整理できない。




そのとき、




「お、お疲れさまです……」




と、気弱な声が響いた。




振り向くと、入口に川縁が立っていた。




やっぱり猫背。


やっぱり覇気がない。




なのに昨日、アイツは私を倒した。




「来たのね」




「一試合だけ、って言われたので……」




「プロテクターの準備して。今度は本気でやるわ」




「いや、昨日も十分本気だったような――」




「なに」




「いえ、なんでもないです」




「……ねぇ」




そして、思わず口をついて出た。




「どうして、そんな顔して戦えるの?」




「え?」




「どうして、勝っても負けても、どうでもよさそうな顔をしていられるのよ」




私は、勝敗に人生を懸けてきた。




一勝一敗で眠れなくなるほど、積み上げてきた。




負ければ崩れ、勝てば喜ぶ。


それが当然だ。




なのに、コイツは湖みたいな目をしていた。




彼は少し視線を泳がせた。




「……どうでもいいわけじゃないです」




ぽりぽりと頬をかく。




「ただ――」




一拍置いて、彼は続けた。




「俺、勝つこと自体にあんまり価値を置いてないだけで」




「……は?」




「勝ち負けって、結果じゃないですか」




淡々とした声だった。




「でも俺が面白いと思うのは、その途中なんです」




「途中?」




「読めない手とか。予想外の踏み込みとか。自分が考えてなかった発想とか」




少しだけ、彼の目が澄んでいた。




「知らないものに出会う瞬間が、俺にとって一番楽しいんです」




私は言葉を失った。




「今でも、途中で読めなかった一手は鮮明に覚えてる」




懐かしむように、彼は静かに笑う。




「だから、勝てるときはちゃんと勝ちますけど。俺が本当に欲しいのは、そっちなんで」




なぜか、胸の奥が締め付けられる感覚がした




「……努力してない顔してるくせに。競技は勝ち負けが一番大事でしょ」




声を絞り出す。




「努力してないですよ。魔導以外は」




肩をすくめた。






ふと、私の記憶にある、あの深くて綺麗な目が――





彼の目と重なった。

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