第3話 実力テスト
重厚な鉄製の扉。
その向こうから、連続して爆発音が響いてくる。
ドンッ!!
空気がびりっと震えた。
(なんか……緊張するな)
魔導競技――通称”マギア・バトル”。
制限時間は十五分。結界内で戦い、審判が勝敗を判定する対人戦闘競技。
魔導士にとって、最も華やかで、最も残酷な舞台だ。
そして俺は――かつて一度、その舞台に立ったことがある。
「……し、失礼しまーす」
かすれた声でそう言いながら、扉を押す。
体育館の中は、想像以上だった。
中央には巨大なドーム型結界。
その足元には、怪我や後遺症を防ぐ補助魔法陣が幾重にも展開されている。
半透明の光膜の内側では、二人の部員が高速で魔導を撃ち合っていた。
炎の槍が空気を裂き、氷の盾が砕け散る。
衝撃波が結界を震わせ、床をわずかに揺らした。
体育館の端には机とノートパソコン。
解析用だろうか、数値と映像が絶えず流れている。
……本格的だ。
正直、遊びの延長みたいな部活だと思っていた。
「お、入部希望者かい?」
背後から声がした。
振り返ると、爽やかな笑顔の眼鏡男子。
姿勢が良く、声もよく通る。
(うわ……優等生オーラ全開だ)
「えっと……見学で」
「そうか! ちょうど一人足りなかったんだ! これで正式メンバーが揃う!」
「いや、だから見学――」
「おーい! 新入部員だぞー!!」
話を聞けぇ!!
部員たちの視線が一斉にこちらへ集まる。
「あら……確かアンタ、同じクラスよね」
立ち上がったのは、輝夜凛。
長い黒髪がさらりと揺れる。
背筋はまっすぐで、立っているだけで隙がない。
文武両道、才色兼備、男子人気トップ。
長髪・根暗・コミュ障・魔導研究オタクの俺とは、完全に別世界の住人だ。
「名前は?」
「あ、川縁慧です」
「慧くんか! 俺は部長の竹内柳、高三だ! よろしくな!」
(まだ入部するとは言ってませんよ!)
完全に既成事実を作られている。
ぱらぱらと拍手が起きる中、凛だけは腕を組んだまま、こちらを冷静に見ていた。
「アンタ、魔導競技の経験は?」
「え、まぁ……少しは」
「何級?」
級――それは魔導競技選手の総合力を示すランクだ。
Gから始まり、F、E、D、C、C+、B、B+、A、A+、そして最高位のS。
一般的に、F級までが初心者。
E~B+級がアマチュア。
A級以上はプロと呼ばれる。
「E級です」
俺は自分のランクを答える。
「……弱」
小声だったが、しっかり聞こえた。
「うちは県大会常連。最低でもD級は欲しいわ」
淡々とした口調。
感情ではなく、ただの評価。
「まぁまぁ、まずは彼の実力を見ようじゃないか」
竹内が場を和ませるように手を叩いた。
「……分かりました。じゃあ、私がやります」
どうやら、俺の実力テストをするらしい。
「E級だったわよね?」
「はい」
「安心して。手加減はするから」
それは優しさではなく――宣告だった。
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十五分後。
学校用プロテクターを装着した俺は、結界の前に立っていた。
本来は各自の装備や武器を使うが、俺は持っていない。
支給品だけの、最低限の装備だ。
凛も同じく学校用プロテクターに片手剣。
フェアを示すつもりなのだろう。
俺は結界の中へ入る。
空気が変わる。
外の音が遠のき、肌にまとわりつくような魔力の密度。
(懐かしいな……この感覚)
「あんた、武器は? なめてるの?」
「いや、違う。武器は苦手なんだ。格闘のほうが得意で……」
「あっそう」
興味なさそうに返される。
「準備はいいね? それじゃあカウントダウンスタート!」
元気な女子部員がタイマーを起動させる。
「先手はあなたに譲るわ」
凛が魔力を練り、剣を構える。
(魔剣士タイプか……魔力練度は悪くない。C級相当)
俺は静かに魔力を練った。
(とりあえず初級魔導で様子見しよう)
凛の上空に魔法陣を展開する。
東洋型水系統魔導――
「――”魔雨”」




