第八話:砂を泳ぐ歌
(……背後の摩擦音が、ピタリと止まった。
代わりに、僕の足元から「キリキリ」と、
砂の層を内側から締め上げるような、鋭い震動が伝わってくる)
さっきまでの滑らかな流動音は、どこへ行ったんだろう。
今は、この足の下に巨大な空洞が開いたかのような、
不気味な反響が全身を突き上げてくる。
――砂を穿つ咆哮:
砂粒同士が異常な速度で擦れ合い、キィィィィン、という、耳を塞いでも頭蓋の中に直接響くような高周波。
――深層からの捕食音:
幾重もの層を突き抜けて、ゴボッ、ゴボッ、と、大きな泡が粘り気のある底から弾けるような、重く湿った震動。
――彼女の応戦律:
僕を突き飛ばして前に出た彼女が、砂を蹴立てる「ザシュッ!」という鋭い摩擦音と、剣を抜く「シャリン」という澄んだ金属音。
(何が起きているんだ?
足元の砂が、まるで意思を持った生き物みたいに、
彼女の足音に噛み付いているような音がする!)
――砂の逆流音:
彼女の周囲の砂が、低い唸りを上げて「ザザザザッ!」と逆流し、彼女の脚部を叩きつけて重心を奪う重い音。
(……彼女の音が、砂に飲み込まれていく!)
彼女の装備が放つあの澄んだ和音に、
ジャリ……、ジャリ……、と、
砂粒が駆動部に噛み込んだような、絶望的な不協和音が混じり始める。
(助けないと。でも、僕に何ができる?
この広大な鳴り砂の合唱に、僕の小さな口笛なんて……)
僕は指先を地面に沈め、
最も激しく歌っている「砂の震源」を耳で探り当てる。
そこに、自分の鼓動をぶつけるように、
肺の空気をすべて使い切り、鋭く短い音を叩きつけた。
ピッ!
――波形の衝突:
僕の口笛と砂の高周波が正面からぶつかり合い、一瞬だけ「フッ」とすべての音が消失する、奇妙な無響の空白。
――歌い手の拒絶反応:
砂の下に潜む何かが、聞いたこともない「ギュルルル!」という濁った悲鳴を上げ、僕の足元から急速に遠ざかっていく音。
(……追い払えたのか?
いや、違う。この音は逃げたんじゃなくて、
もっと大きな音を連れてくるために、潜っただけだ!)
――深部からの巨大な予兆:
遥か遠くの底から、ズズ……ズズ……と、巨大な質量がこちらへ向かって全速力で滑り込んでくる、地響きのような地鳴り。




